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神代 コウ

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神饌の時に向けて

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 ツクヨがシンの心の変化を突く発言をして困惑させる中で、シンはとある男の発言を思い出した。それは誰の仕業か、一行が真っ暗な空間で光脈の川のある光景での出来事。

 シンの見ていた光景にだけ、黒い衣の人物が川原で座っていたのだ。その男はシンに、これからこの山で起きる出来事を邪魔するなという忠告をした。もしその男の言う出来事が、ミネの言う神饌の事だとするとツクヨはそれを阻もうとしている。

 正確にはその儀式からミネを救い出したいと思っている事だろう。だがシンの見た黒い衣の人物は、邪魔することすら出来ないといった様子だった上に、万が一その出来事が中断されるような事があれば、シン達の現実世界にも影響がでると。

 一体、ここでの出来事がどうして現実の世界に影響が出るのか。しかし今はそんな先の事を考えるよりも、その事をツクヨに伝える方が先だと、ふと我に帰ったシンは微笑むツクヨに、光脈にいた人物の忠告の話をした。

「それよりもツクヨ、もしお前がミネを助けに行くつもりなら、話しておかなきゃならない事がある」

「話しておかなきゃいけない事?大丈夫だよ、決して無茶はしない。あんな事シンに言った後だよ?自分で立てたフラグを自分で回収するような事はしないさ」

「そうじゃないんだ。いや、それも重要なんだけど、ツクヨも真っ暗な空間で黄金に輝く川のようなものを見ただろ?」

「あぁ、あの時の記憶かい?恐らくあれが光脈なんじゃないかって話してた」

「そう、そこで俺は例の黒い衣の人物に会ったんだ」

「ッ!?」

 初耳だった情報に驚きを隠せないツクヨ。一人計画を練っていたミネは、二人の話し合いが終わるのを待たずして、彼らに今後の計画と神饌の流れについて説明する。

「すまない、そろそろ身体の自由が奪われる。俺が山のヌシとして操られたら、山の神に喰われるまで解放はないだろう。まぁ解放があるのかも疑問だが、喰われた後にしか望みはねぇ・・・」

 ミネはこれから山のヌシとして思考と身体を支配され、回帰の山にいる精気を纏った生物達を連れて山頂へと向かうのだと言う。多くの精気を纏った生物達を一箇所に集め、地形ごと丸呑みにするのが山の神の食事と言われる神饌。

 そして神饌は今夜中に行われ、何事もなく済めばそのまま翌日には回帰の山は暫くの間落ち着きを取り戻し、再び新たな山のヌシを作り出した後、山の神は眠りにつくそうだ。

 ミネが抗えるとすれば、山の神に喰われたその後、消化される前か後かは分からないが、ミネから山のヌシの役割が解除された時しかない。

 山の精気を纏った生物を連れ歩く際に、ユリアが精気を纏っていれば必ず彼女も参列する筈だと。ミネの精気を引き寄せる性質は、回帰の山にいる精気を見に宿した生物を必ず全て連れて行く。

 可能であればその時にツクヨにユリアを救出して貰いたいのだとミネは作戦を明かした。

「参列までは然程時間がない。俺がここから山のヌシの仕事についた途端に、周囲の生物は俺の後を追って山頂を目指す列に加わる。制限時間は丑三つ時から朝日が昇るまでの間だろう。それまでにカガリを山頂から遠ざけ、ユリアを救ってくれ」

「分かった、二人の事は任せてくれ。行くぞツクヨ!」

 先を急ぎその場を発つシンと、最後にミネに一言伝えようとツクヨは足を止める。

「貴方も帰るんですからね・・・」

 ツクヨの言葉にミネは、真っ直ぐ彼を見つめたまま黙って頷いた。最早彼の頭に、ただなすがまま生贄となるといった考えは無くなっていた。山のヌシとしての役割は果たす。だが決して死んでやるものかという強い意志が込み上げる。

 そして救いたい命も助けてみせると、ツクヨに言われたように見苦しく足掻き抜いてみせると心に誓った。

 シンの後を追い、湖から姿を消したツクヨ。しかしその直後、ミネの身体がふるふると震え始め、大粒に汗が滝のように彼から流れていた。

「ったく・・・本当に好き勝手言いやがってッ・・・!」

 彼らと話している間も、ミネは山の神の支配に必死に耐えていたのだ。限界を迎えたミネの身体は、瞬く間に山の神の支配を受け、遂に精気を纏った生物を集める歩みを進める。

 周りに隠れていた動物達も姿を現すも、その目は支配される者のそれと同じように虚となり、歩くミネの後ろをまるで妖怪達の百鬼夜行のようについて行く。

 山のヌシの役割を発動した影響は、別の場所でモンスターを食い止めていたアクセルらのところにまで及んでいた。
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