1,638 / 1,646
薄れる死への恐怖
しおりを挟む
予想だにしなかった一撃をもらい、思わず硬直する黒衣の男。その隙にアクセルは魂を自分の身体に戻し、男の腹部に蹴りを入れながら互いの距離を空け、直接魂を引き摺り出そうとする。
だがその直後、我に返った黒衣の男により魂を引き摺り出すアクセルのスキルが断ち切られてしまう。アクセルの蹴りに後退りする黒衣の男。初めて見せる男の隙に、畳み掛けるように攻撃を仕掛けるアクセル。
周囲の植物から黒衣の男の魂を引き摺り出そうと、生命力の触手を伸ばす。包囲された男はそこで初めて刀を鞘から抜いたのだ。しかしその刀身を見る事すら叶わず、男は既に鞘に刀を戻した後だった。
鍔と鞘がぶつかり、高い金属音を鳴らした時、アクセルの仕向けた数々の攻撃は一瞬にして見えぬ斬撃に両断されてしまう。
「刀を抜いたなッ・・・!?」
「正直驚いたよ。こんなところで刀を抜くことは無いだろうと思っていたからな。何度も死の間際を体験した事で、勘が鋭くなったか?」
「こんな事に慣れたくはねぇがな」
無意識の内にアクセルは、死に対する恐怖心が薄れてしまっていた。それは黒衣の男に殺意が無いことと、アクセルが瀕死になっても回復させるという行為が、彼の中で定着し始めていたからだった。
故にこれまで命惜しさに押し切れなかった場面で、多少強引でも攻めに転じる判断が出来るようになっていたのだ。このアクセルの成長も、黒衣の男の見込み通りだったのだろうか。
アクセルの戦闘方法や、その決断・判断の違いが行動に反映され始めた事に、黒衣の男は嬉しそうな声色へと変わっていく。
再び接近戦を始める二人。男は抜刀こそしなかったものの、体術よりも剣術で攻めることが増えていった。そしてアクセルの方も、死への恐怖が薄れた事により、男の剣術を紙一重で避けていく中で、反撃まで加えられるようになっていた。
「思ってた以上の成長だ。これで少しは・・・」
「クソッ!攻撃が当たらねぇ・・・。少しはついていけるようになったと思ったのに!」
「本来のお前は長中距離で戦うスタイルだろ。さぁ今度は離れた位置から俺に攻撃を当ててみろッ!」
まるでアクセルの成長を喜んでいるかのような黒衣の男は、鞘に納めた刀で彼を遠くへと吹き飛ばす。男の刀捌きに目が慣れてきたのもあったおかげで、これまでの直撃とは違い、今回は両腕でガードする事に成功していたアクセルは、吹き飛ばされた衝撃以上のダメージを負わずに済んだ。
「畜生ッ!舐めやがって・・・。お望み通り、一泡吹かせてやろうじゃねぇかッ!」
余裕を持って受け身を取ったアクセルは、遠ざかって見えなくなった黒衣の男の気配を探り、大体の位置を確かめると、こちらの感知スキルを悟られないようにするのと、魔力温存の為そこで感知スキルを切り、己の感覚と勘を頼りに黒衣の男を遠くから射抜く策を模索する。
一方、ギルドの捜索隊の救助に向かっていたシン達は、それぞれギルドの隊員と共に各方面へ散らばり山へ入ると、リナムルで身につけた獣の感知能力を活かして、次々に彷徨う隊員達を見つけ、野営へと送り帰していた。
木の上に登り、ウンディーネの力を借りて銃弾に彼女の魔力を乗せ、周囲の生物反応を探るミアは、次々に銃弾を遠くへと撃ち込み、ギルドの隊員の行方を探り当てていた。
「今度はあっちだ、三人いる。一人部隊から離れようとしてるぞ、急げ!」
「りょっ了解!」
「何だ彼女の能力は・・・。銃弾を撃ち込んだ方角がまるで見えているかのようだぞ」
「あぁ、だがそのおかげでかなりのハイペースで散らばった隊員達を見つけられている。この調子なら被害を最小限に抑えられるぞ」
別の場所からギルドの捜索隊を探しに行ったシンは、暗い影かそこら中に敷かれる地の利を活かし、凡ゆる影から顔を覗かせ、周囲の気配を探り隊員の位置を他のギルドの隊員達に知らせる。
「おい、アンタ」
「うおッ!?ビックリしたぁ~・・・」
「向こうに隊員がいた。足を負傷して動けなくなってるみたいだ」
「了解!恩に着る」
森を探索するギルドの隊員の側の影から、突如シンの生首が生え情報だけを置いていって、再び影へと消えて行く。慣れた者達なら兎も角、初めてシンのスキルを目の当たりにする隊員達には少し刺激が強かったようだ。
そして上空にはツバキの飛行ガジェットと、大きく変身した紅葉が人の動きを感知しては地上で捜索にあたる隊員達へ合図を送り、神饌に向けた避難は順調に進んでいた。
最も危惧されていたカガリとケネトのグループには、他にもギルドの隊員が数名ついて来ていた。見張りという名目もある為、途中で捜索隊の者を見つけても、彼らの部隊だけは隊員だけで野営へ戻る事はしなかった。
「向こうに五人組の部隊が一つ、あっちに二人・・・。一人は怪我をしてるみたいだ」
カガリの言葉の後に、ギルドの隊員達はケネトの方を見る。彼の言っていることを確かめるようにケネトが人の気配を探ると、先程のカガリの言っていた人数と同じだけの反応があった。
「合ってる・・・。一人は五人の方へ、残りは怪我人のいる方へ向かう。目印を残しておくから、合流は向こうで」
「了解だ、怪我人の手当てを頼む」
言葉を交わした後に別れた一行は、ケネトの指示通り二人組の方へと向かう。カガリは彼らの様子に不満を持っているようだったが、勝手な行動は慎んでいた。それでもいつ突然行動に移るかは分からない。
恐らく彼も、いつケネトらの目を盗みミネを探しに行こうかと考えているに違いない。時折見せるカガリの視線をケネトは見逃してはいなかった。
だがその直後、我に返った黒衣の男により魂を引き摺り出すアクセルのスキルが断ち切られてしまう。アクセルの蹴りに後退りする黒衣の男。初めて見せる男の隙に、畳み掛けるように攻撃を仕掛けるアクセル。
周囲の植物から黒衣の男の魂を引き摺り出そうと、生命力の触手を伸ばす。包囲された男はそこで初めて刀を鞘から抜いたのだ。しかしその刀身を見る事すら叶わず、男は既に鞘に刀を戻した後だった。
鍔と鞘がぶつかり、高い金属音を鳴らした時、アクセルの仕向けた数々の攻撃は一瞬にして見えぬ斬撃に両断されてしまう。
「刀を抜いたなッ・・・!?」
「正直驚いたよ。こんなところで刀を抜くことは無いだろうと思っていたからな。何度も死の間際を体験した事で、勘が鋭くなったか?」
「こんな事に慣れたくはねぇがな」
無意識の内にアクセルは、死に対する恐怖心が薄れてしまっていた。それは黒衣の男に殺意が無いことと、アクセルが瀕死になっても回復させるという行為が、彼の中で定着し始めていたからだった。
故にこれまで命惜しさに押し切れなかった場面で、多少強引でも攻めに転じる判断が出来るようになっていたのだ。このアクセルの成長も、黒衣の男の見込み通りだったのだろうか。
アクセルの戦闘方法や、その決断・判断の違いが行動に反映され始めた事に、黒衣の男は嬉しそうな声色へと変わっていく。
再び接近戦を始める二人。男は抜刀こそしなかったものの、体術よりも剣術で攻めることが増えていった。そしてアクセルの方も、死への恐怖が薄れた事により、男の剣術を紙一重で避けていく中で、反撃まで加えられるようになっていた。
「思ってた以上の成長だ。これで少しは・・・」
「クソッ!攻撃が当たらねぇ・・・。少しはついていけるようになったと思ったのに!」
「本来のお前は長中距離で戦うスタイルだろ。さぁ今度は離れた位置から俺に攻撃を当ててみろッ!」
まるでアクセルの成長を喜んでいるかのような黒衣の男は、鞘に納めた刀で彼を遠くへと吹き飛ばす。男の刀捌きに目が慣れてきたのもあったおかげで、これまでの直撃とは違い、今回は両腕でガードする事に成功していたアクセルは、吹き飛ばされた衝撃以上のダメージを負わずに済んだ。
「畜生ッ!舐めやがって・・・。お望み通り、一泡吹かせてやろうじゃねぇかッ!」
余裕を持って受け身を取ったアクセルは、遠ざかって見えなくなった黒衣の男の気配を探り、大体の位置を確かめると、こちらの感知スキルを悟られないようにするのと、魔力温存の為そこで感知スキルを切り、己の感覚と勘を頼りに黒衣の男を遠くから射抜く策を模索する。
一方、ギルドの捜索隊の救助に向かっていたシン達は、それぞれギルドの隊員と共に各方面へ散らばり山へ入ると、リナムルで身につけた獣の感知能力を活かして、次々に彷徨う隊員達を見つけ、野営へと送り帰していた。
木の上に登り、ウンディーネの力を借りて銃弾に彼女の魔力を乗せ、周囲の生物反応を探るミアは、次々に銃弾を遠くへと撃ち込み、ギルドの隊員の行方を探り当てていた。
「今度はあっちだ、三人いる。一人部隊から離れようとしてるぞ、急げ!」
「りょっ了解!」
「何だ彼女の能力は・・・。銃弾を撃ち込んだ方角がまるで見えているかのようだぞ」
「あぁ、だがそのおかげでかなりのハイペースで散らばった隊員達を見つけられている。この調子なら被害を最小限に抑えられるぞ」
別の場所からギルドの捜索隊を探しに行ったシンは、暗い影かそこら中に敷かれる地の利を活かし、凡ゆる影から顔を覗かせ、周囲の気配を探り隊員の位置を他のギルドの隊員達に知らせる。
「おい、アンタ」
「うおッ!?ビックリしたぁ~・・・」
「向こうに隊員がいた。足を負傷して動けなくなってるみたいだ」
「了解!恩に着る」
森を探索するギルドの隊員の側の影から、突如シンの生首が生え情報だけを置いていって、再び影へと消えて行く。慣れた者達なら兎も角、初めてシンのスキルを目の当たりにする隊員達には少し刺激が強かったようだ。
そして上空にはツバキの飛行ガジェットと、大きく変身した紅葉が人の動きを感知しては地上で捜索にあたる隊員達へ合図を送り、神饌に向けた避難は順調に進んでいた。
最も危惧されていたカガリとケネトのグループには、他にもギルドの隊員が数名ついて来ていた。見張りという名目もある為、途中で捜索隊の者を見つけても、彼らの部隊だけは隊員だけで野営へ戻る事はしなかった。
「向こうに五人組の部隊が一つ、あっちに二人・・・。一人は怪我をしてるみたいだ」
カガリの言葉の後に、ギルドの隊員達はケネトの方を見る。彼の言っていることを確かめるようにケネトが人の気配を探ると、先程のカガリの言っていた人数と同じだけの反応があった。
「合ってる・・・。一人は五人の方へ、残りは怪我人のいる方へ向かう。目印を残しておくから、合流は向こうで」
「了解だ、怪我人の手当てを頼む」
言葉を交わした後に別れた一行は、ケネトの指示通り二人組の方へと向かう。カガリは彼らの様子に不満を持っているようだったが、勝手な行動は慎んでいた。それでもいつ突然行動に移るかは分からない。
恐らく彼も、いつケネトらの目を盗みミネを探しに行こうかと考えているに違いない。時折見せるカガリの視線をケネトは見逃してはいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる