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最終話 「千歳とオレが『番』になったって!」
夏樹と千歳の関係は、”友達”から”恋人”へと変わった。しかし、2人の間でそれが劇的に何かを変えたわけではない。千歳はこれまで通り、毎日競泳の練習に明け暮れ、夏樹は大学の授業やバンド活動で忙しい日々を送っていた。
「お疲れさまでした」
練習を終え、着替えを済ませた千歳は、軽く頭を下げ、更衣室を出て行った。
千歳が出て行った後、競泳部の部員たちがちらほらと話を始める。
「なんか、矢崎の奴、ちょっと雰囲気変わったよな」
「あっ、お前も思った?実は俺もなんだ」
1人がそう呟いたのを皮切りに、近くにいた部員達が次々に同意の声を上げる。
「わかるわかる。なんていうか、前より柔らかくなった感じ?」
「そうそう。前はさ、なんか近寄りがたい感じだったよな。鋭い目つきって言うか……こう、ピリピリしたオーラがあったっていうか」
「でも、今は穏やかっつーか……なんか可愛いよな」
千歳は元々、競泳部内外でも有名な存在だ。均整がとれた肉体に透明感のある美しい風貌。加えて、その負けん気の強さと、練習中の鋭い集中力が部員たちの憧れを一身に集めていた(そんな彼を”屈服させたい”だとか、逆に”踏んで欲しい”等と言う邪な考えを持つ者が一定数いたのはさておき)。
だが、最近の彼は、どこか柔らかな空気を纏っていると専らの評判だ。長い時間を共にする同部活の部員なら、如実に感じられることだった。
「やっぱ、あの噂ホントなんじゃね?」
「あー、それ聞いた!なんか『番』が出来たって噂だよな?」
その一言に、部員たちの話題が一気に盛り上がる。
「マジで!? オレ、矢崎さんいいなーって思ってたのに……」
「お前、話しかけたことすらねえだろ」
「でもさ、噂じゃ『番』って、あの時、土下座してた奴だって話だぞ?」
「土下座……ああ、あのヘラヘラしたなよっちいアルファか?」
「あれの何が良かったんだ?謎だわ」
部員たちは各々に思い思いの言葉を交わし、千歳の『番』と噂される夏樹について、好き放題に盛り上がっていた。普段はストイックな競泳部員たちも、この手のゴシップ話には目がないらしい。この話題はしばらく競泳部内で続きそうだ。
一方の千歳は、更衣室でそんな話が繰り広げられているとは露知らず。迷いない足取りで更衣室を出て、体育館の外に向かう。そこには、街灯が照らす中、いつも通り夏樹が待っていた。
「お待たせしました」
「おっ、来た!お疲れ!」
夏樹は、千歳が出てきたのに気付くと、満面の笑みを浮かべながら、駆け寄って来た。その全開の笑顔には、千歳も少し微笑みを返す。
「じゃあ、行こう!」
「はい」
千歳はその声に応え、小さく頷く。そのまま、2人は並んで歩き始めた。
「今日も速かったな、千歳。オレ、ストップウォッチ握りながら勝手に熱くなってた」
「……何で、貴方がタイム計ってるんですか?」
「応援してるだけって言うのも何かなーと思って!取り合えず、計ってみることにしたんだ」
「そんなことしてたんですか……」
千歳は呆れたように溜息を吐いたが、その声には嬉しそうな色が滲んでいた。
「へへへっ、今日、講義の時に同じ講義取ってる奴が噂してたんだ。”千歳とオレが『番』になった”って!」
夏樹が得意そうに言った。
「そう言うの、どこから漏れ出すんでしょうね?吹聴した記憶はないんですか……」
「やっぱ、千歳が目立つからじゃない?でも、『番』に間違われるのは悪くないかも!」
千歳は、下世話なゴシップの題材にされた夏樹が気に病んでいないかと心配したのだが、その心配は無用だった様だ。夏樹は、蕩けた顔でへにゃへにゃと笑っている。寧ろ、そうやって噂されるのは、願ったり叶ったりなのかもしれない。
「いやー、オレの命懸けの告白がちゃんと効いてるのかもな!ありがたい限り!」
「命懸けって……それを言えば、俺だって命救ってますからね?後、あんなことは2度としないでさい」
「わかってるよ!あー、オレ、千歳には一生頭が上がんないかも!」
「何で、ちょっと嬉しそうなんですか……」
「だって、仕方ないだろ?千歳がオレのこと、心配してくれるだけで嬉しい!」
2人の会話が道に溶け込んでいく。特別なことはなくても、2人の間には安らぎが流れていた。
ただ並んで歩くだけの帰り道。それでも、2人にとっては、そんな日常がかけがえのない物の様に感じていた。
「お疲れさまでした」
練習を終え、着替えを済ませた千歳は、軽く頭を下げ、更衣室を出て行った。
千歳が出て行った後、競泳部の部員たちがちらほらと話を始める。
「なんか、矢崎の奴、ちょっと雰囲気変わったよな」
「あっ、お前も思った?実は俺もなんだ」
1人がそう呟いたのを皮切りに、近くにいた部員達が次々に同意の声を上げる。
「わかるわかる。なんていうか、前より柔らかくなった感じ?」
「そうそう。前はさ、なんか近寄りがたい感じだったよな。鋭い目つきって言うか……こう、ピリピリしたオーラがあったっていうか」
「でも、今は穏やかっつーか……なんか可愛いよな」
千歳は元々、競泳部内外でも有名な存在だ。均整がとれた肉体に透明感のある美しい風貌。加えて、その負けん気の強さと、練習中の鋭い集中力が部員たちの憧れを一身に集めていた(そんな彼を”屈服させたい”だとか、逆に”踏んで欲しい”等と言う邪な考えを持つ者が一定数いたのはさておき)。
だが、最近の彼は、どこか柔らかな空気を纏っていると専らの評判だ。長い時間を共にする同部活の部員なら、如実に感じられることだった。
「やっぱ、あの噂ホントなんじゃね?」
「あー、それ聞いた!なんか『番』が出来たって噂だよな?」
その一言に、部員たちの話題が一気に盛り上がる。
「マジで!? オレ、矢崎さんいいなーって思ってたのに……」
「お前、話しかけたことすらねえだろ」
「でもさ、噂じゃ『番』って、あの時、土下座してた奴だって話だぞ?」
「土下座……ああ、あのヘラヘラしたなよっちいアルファか?」
「あれの何が良かったんだ?謎だわ」
部員たちは各々に思い思いの言葉を交わし、千歳の『番』と噂される夏樹について、好き放題に盛り上がっていた。普段はストイックな競泳部員たちも、この手のゴシップ話には目がないらしい。この話題はしばらく競泳部内で続きそうだ。
一方の千歳は、更衣室でそんな話が繰り広げられているとは露知らず。迷いない足取りで更衣室を出て、体育館の外に向かう。そこには、街灯が照らす中、いつも通り夏樹が待っていた。
「お待たせしました」
「おっ、来た!お疲れ!」
夏樹は、千歳が出てきたのに気付くと、満面の笑みを浮かべながら、駆け寄って来た。その全開の笑顔には、千歳も少し微笑みを返す。
「じゃあ、行こう!」
「はい」
千歳はその声に応え、小さく頷く。そのまま、2人は並んで歩き始めた。
「今日も速かったな、千歳。オレ、ストップウォッチ握りながら勝手に熱くなってた」
「……何で、貴方がタイム計ってるんですか?」
「応援してるだけって言うのも何かなーと思って!取り合えず、計ってみることにしたんだ」
「そんなことしてたんですか……」
千歳は呆れたように溜息を吐いたが、その声には嬉しそうな色が滲んでいた。
「へへへっ、今日、講義の時に同じ講義取ってる奴が噂してたんだ。”千歳とオレが『番』になった”って!」
夏樹が得意そうに言った。
「そう言うの、どこから漏れ出すんでしょうね?吹聴した記憶はないんですか……」
「やっぱ、千歳が目立つからじゃない?でも、『番』に間違われるのは悪くないかも!」
千歳は、下世話なゴシップの題材にされた夏樹が気に病んでいないかと心配したのだが、その心配は無用だった様だ。夏樹は、蕩けた顔でへにゃへにゃと笑っている。寧ろ、そうやって噂されるのは、願ったり叶ったりなのかもしれない。
「いやー、オレの命懸けの告白がちゃんと効いてるのかもな!ありがたい限り!」
「命懸けって……それを言えば、俺だって命救ってますからね?後、あんなことは2度としないでさい」
「わかってるよ!あー、オレ、千歳には一生頭が上がんないかも!」
「何で、ちょっと嬉しそうなんですか……」
「だって、仕方ないだろ?千歳がオレのこと、心配してくれるだけで嬉しい!」
2人の会話が道に溶け込んでいく。特別なことはなくても、2人の間には安らぎが流れていた。
ただ並んで歩くだけの帰り道。それでも、2人にとっては、そんな日常がかけがえのない物の様に感じていた。
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