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第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット
伯爵邸襲撃
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■ジェイコブ=カートレット視点
「失礼します」
これから眠りにつこうとしていた私の元に、執事のトマスが部屋をノックした。
「……入れ」
私は鬱陶しそうに返事をすると、トマスが部屋の中に入る。
「……私は寝ようとしていたところだぞ?」
「ですが、すぐにお耳に入れておきたいことがございまして……」
「なんだ?」
私は訝し気な表情を浮かべ、トマスを見やる。
「……お館様がお雇いになられたあの冒険者について、部下の一人を尾行させていたのですが、まだ戻って来ておりません」
「なんだ、そんなことか……そんなもの、別に何の不思議もないだろう。なにせあの男には、冒険者のスカウトという仕事があるのだ。酒場で冒険者とでも交渉しているのではないか?」
「いえ、部下には確認しだい戻ってくるように指示していたのです。なのに、未だに戻らないということは……」
「ふむ……成程な……」
確かに、トマスが不審に思うのも無理はないか……。
「推察しますに、あの者は伯爵家の手の者だったのではないかと」
「だが、あの物言わぬ人形でしかない小娘が、今さらそのような真似をするとも考えられんが……」
「恐らく、あの令嬢の側近が色々と画策しているものかと……こちらを」
すると、トマスが何やら書状を差し出した。
「これは?」
「つい先程、伯爵家の使いの者が届けてきたのですが……まずはご覧ください」
私は書状を受け取り、目を通す。
「なになに……『爵位譲渡に関する申し立ての準備が整いました。ついては、今後についてお話をしたいので当家までご足労願います』……とな」
「恐らくは罠でございましょう」
「どうやらそのようだな。して、どうすれば良い?」
私がそう尋ねると、トマスが口の端を吊り上げた。
「ここは、まだ街の者が寝静まっている明け方にでも、先手を打って伯爵邸を襲撃するのがよろしいかと」
「襲撃!? いかんいかん! まだ私は、あの小娘から爵位譲渡の申立てをさせておらんのだぞ!」
私はトマスの提案に怒気を孕んだ声でそれを却下する。
そもそも、あの時の襲撃の際に小娘を生かしておいたのは、爵位を円滑に譲渡させるためじゃ。それを、この期に及んで小娘を襲撃しては本末転倒ではないか。
だが。
「それに関しては大丈夫です」
トマスの奴は、自信ありげにキッパリととそう告げた。
「何故じゃ?」
「はい。ライラ=カートレットが賊の襲撃によって両腕と両脚を失ったことは、既に王都にも知れ渡っております。仮に爵位譲渡の申立てについて誰かが彼女の代筆をしても不審に思われることはありません」
「成程のう……」
確かにそれなら、王宮の連中も不思議には思わんか……。
「それに、そのあたりはあの御方が上手く調整してくださいますので」
そう言うと、トマスが恭しく一礼した。
「ふむ……あの方がのう」
確かに、あの方であればそれも可能であろうな。
「それは助かるが……何故あの方はここまで私に良くしてくれるのだ?」
私はこの際なのでトマスに尋ねてみる。
あの方とは昨年の夏に今は亡き兄上のパーティーで知り合ってから、伯爵家を簒奪するよう私に進言してくれたり、トマスの配置や金銭面の援助など、色々と気にかけてくれている。
「簡単でございます。お館様こそが、カートレット伯爵家を継ぐに相応しいとお考えだからでございます。そして、それこそがあの御方にとって非常に有益だからです」
トマスは優秀だが、こういった妙にへりくだったところは苦手であるな……。
まあ、深く考えるまい。それよりも今は、伯爵家を手に入れることこそが最優先であるからな。
「まあ良かろう。では、明け方に伯爵邸を襲う準備をしておけ。その時は、私が直々に指揮を執る」
「かしこまりました」
トマスは深々と頭を下げると、部屋を出て行った。
「フハハ……小娘の側近ということは、あのハンナの仕業か。これは、全てが終わった後の楽しみが増えたわ」
そう呟くと、私は苦痛に歪むハンナの肢体を思い浮かべ、思わず舌なめずりをした。
◇
「お館様、全て準備が整いました」
「うむ」
夜明け前。
私は今、伯爵邸の正門前に私の全兵力を展開させており、あとはこの私の号令を待つだけとなっている。
なお、正門には本来いる筈の衛兵の姿はない。
恐らく、全て正門のその先で待ち構えているのだろう。
とはいえ、伯爵家に仕えていた騎士は前の襲撃で皆殺しにしており、残っているのは木っ端の衛兵くらいしかいない筈。
私はすう、と大きく息を吸うと。
「皆の者に告ぐ! これからこの私に刃を向けようとしたカートレット伯爵家の者共に鉄槌を下す! ライラ=カートレット伯爵令嬢とその侍女であるハンナを生け捕りにし、他の者共は全て皆殺しにせよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
私の檄に、兵士達が臨戦態勢に構える。
「では……突撃せよ!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」
合図と共に、兵士達が伯爵邸の敷地内になだれ込む。
当然私も、その後に続いて中へと侵入した。
すると。
「ん? なんだ、誰もおらんではないか」
正門から屋敷までの間には、兵士どころか誰一人いなかった。
あるのは、正門の裏側に不自然に積まれた、岩や石の数々だけ。
「トマス、これはどういうことだ?」
「……分かりません。見張らせていた者からは、伯爵邸から出て行った者はいないとのことでしたので、恐らくは屋敷の中に立てこもっているのかもしれません」
「ふむ……ならば警戒しながら屋敷の中を……」
兵士達に指示を出そうとした、その時。
「……【加工】【製作】」
そんな若い男の声が背後から突然聞こえ、振り返る。
すると、正門がいつの間にか堅牢な石の門によって閉ざされていた。
その前には、あの男が立っていた。
——ガキン!
突然、金属音が鳴り響き、慌てて正面へと向き直ると……玄関の前に一人の少女がたたずんでいた。
白銀の手脚に特殊な形状をした黒の甲冑をまとい、その小さな身体に不釣り合いな巨大な鎌をたずさえて。
そして。
「お待ちしておりました、ゴミ屑共」
少女は、ニタリ、と口の端を吊り上げた。
「失礼します」
これから眠りにつこうとしていた私の元に、執事のトマスが部屋をノックした。
「……入れ」
私は鬱陶しそうに返事をすると、トマスが部屋の中に入る。
「……私は寝ようとしていたところだぞ?」
「ですが、すぐにお耳に入れておきたいことがございまして……」
「なんだ?」
私は訝し気な表情を浮かべ、トマスを見やる。
「……お館様がお雇いになられたあの冒険者について、部下の一人を尾行させていたのですが、まだ戻って来ておりません」
「なんだ、そんなことか……そんなもの、別に何の不思議もないだろう。なにせあの男には、冒険者のスカウトという仕事があるのだ。酒場で冒険者とでも交渉しているのではないか?」
「いえ、部下には確認しだい戻ってくるように指示していたのです。なのに、未だに戻らないということは……」
「ふむ……成程な……」
確かに、トマスが不審に思うのも無理はないか……。
「推察しますに、あの者は伯爵家の手の者だったのではないかと」
「だが、あの物言わぬ人形でしかない小娘が、今さらそのような真似をするとも考えられんが……」
「恐らく、あの令嬢の側近が色々と画策しているものかと……こちらを」
すると、トマスが何やら書状を差し出した。
「これは?」
「つい先程、伯爵家の使いの者が届けてきたのですが……まずはご覧ください」
私は書状を受け取り、目を通す。
「なになに……『爵位譲渡に関する申し立ての準備が整いました。ついては、今後についてお話をしたいので当家までご足労願います』……とな」
「恐らくは罠でございましょう」
「どうやらそのようだな。して、どうすれば良い?」
私がそう尋ねると、トマスが口の端を吊り上げた。
「ここは、まだ街の者が寝静まっている明け方にでも、先手を打って伯爵邸を襲撃するのがよろしいかと」
「襲撃!? いかんいかん! まだ私は、あの小娘から爵位譲渡の申立てをさせておらんのだぞ!」
私はトマスの提案に怒気を孕んだ声でそれを却下する。
そもそも、あの時の襲撃の際に小娘を生かしておいたのは、爵位を円滑に譲渡させるためじゃ。それを、この期に及んで小娘を襲撃しては本末転倒ではないか。
だが。
「それに関しては大丈夫です」
トマスの奴は、自信ありげにキッパリととそう告げた。
「何故じゃ?」
「はい。ライラ=カートレットが賊の襲撃によって両腕と両脚を失ったことは、既に王都にも知れ渡っております。仮に爵位譲渡の申立てについて誰かが彼女の代筆をしても不審に思われることはありません」
「成程のう……」
確かにそれなら、王宮の連中も不思議には思わんか……。
「それに、そのあたりはあの御方が上手く調整してくださいますので」
そう言うと、トマスが恭しく一礼した。
「ふむ……あの方がのう」
確かに、あの方であればそれも可能であろうな。
「それは助かるが……何故あの方はここまで私に良くしてくれるのだ?」
私はこの際なのでトマスに尋ねてみる。
あの方とは昨年の夏に今は亡き兄上のパーティーで知り合ってから、伯爵家を簒奪するよう私に進言してくれたり、トマスの配置や金銭面の援助など、色々と気にかけてくれている。
「簡単でございます。お館様こそが、カートレット伯爵家を継ぐに相応しいとお考えだからでございます。そして、それこそがあの御方にとって非常に有益だからです」
トマスは優秀だが、こういった妙にへりくだったところは苦手であるな……。
まあ、深く考えるまい。それよりも今は、伯爵家を手に入れることこそが最優先であるからな。
「まあ良かろう。では、明け方に伯爵邸を襲う準備をしておけ。その時は、私が直々に指揮を執る」
「かしこまりました」
トマスは深々と頭を下げると、部屋を出て行った。
「フハハ……小娘の側近ということは、あのハンナの仕業か。これは、全てが終わった後の楽しみが増えたわ」
そう呟くと、私は苦痛に歪むハンナの肢体を思い浮かべ、思わず舌なめずりをした。
◇
「お館様、全て準備が整いました」
「うむ」
夜明け前。
私は今、伯爵邸の正門前に私の全兵力を展開させており、あとはこの私の号令を待つだけとなっている。
なお、正門には本来いる筈の衛兵の姿はない。
恐らく、全て正門のその先で待ち構えているのだろう。
とはいえ、伯爵家に仕えていた騎士は前の襲撃で皆殺しにしており、残っているのは木っ端の衛兵くらいしかいない筈。
私はすう、と大きく息を吸うと。
「皆の者に告ぐ! これからこの私に刃を向けようとしたカートレット伯爵家の者共に鉄槌を下す! ライラ=カートレット伯爵令嬢とその侍女であるハンナを生け捕りにし、他の者共は全て皆殺しにせよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
私の檄に、兵士達が臨戦態勢に構える。
「では……突撃せよ!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」
合図と共に、兵士達が伯爵邸の敷地内になだれ込む。
当然私も、その後に続いて中へと侵入した。
すると。
「ん? なんだ、誰もおらんではないか」
正門から屋敷までの間には、兵士どころか誰一人いなかった。
あるのは、正門の裏側に不自然に積まれた、岩や石の数々だけ。
「トマス、これはどういうことだ?」
「……分かりません。見張らせていた者からは、伯爵邸から出て行った者はいないとのことでしたので、恐らくは屋敷の中に立てこもっているのかもしれません」
「ふむ……ならば警戒しながら屋敷の中を……」
兵士達に指示を出そうとした、その時。
「……【加工】【製作】」
そんな若い男の声が背後から突然聞こえ、振り返る。
すると、正門がいつの間にか堅牢な石の門によって閉ざされていた。
その前には、あの男が立っていた。
——ガキン!
突然、金属音が鳴り響き、慌てて正面へと向き直ると……玄関の前に一人の少女がたたずんでいた。
白銀の手脚に特殊な形状をした黒の甲冑をまとい、その小さな身体に不釣り合いな巨大な鎌をたずさえて。
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