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第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編
『天使への階段』探索③
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「……以上が、ファルマ聖法国の叙事詩において語り継がれているアイザック王の伝説です」
一気に話し終えたソフィア様は、深く息を吐いた。
「「「…………………………」」」
そして僕達三人は、その話に言葉を失っていた。
何故なら、僕達が知っているアイザック王のおとぎ話とあまりにもかけ離れていたから。
“ティティス”は大神官ではなく、悪い魔女であること。
聖剣“カレトヴルッフ”は手渡されるのではなく、“死の森”の岩に刺さっているものを引き抜いて手に入れたこと。
そして……そもそも、物語には神も眷属も登場しないこと。
「……確かに僕達が知る物語……いや、英雄譚も、突拍子もないおとぎ話ではありますが、それでも、そこまで現実離れしたものではありません」
「「……(コクリ)」」
僕の言葉にライラ様とハンナさんが頷いて同意する。
「恐らく、民間に伝承する際に色々と改変されていったのでしょう……そして、ファルマ聖法国に伝わるものはファルマ聖法国の歴代の教皇のみが知り得る原典です。だからこそ、皆さんが知らないのも当然ではあります」
そう言うと、ソフィア様が静かに目を瞑った。
「……ですが、そうなると王国は『天国への階段』を手に入れて何をしようというのでしょうか……」
ハンナさんがポツリ、と呟く。
だけど、僕には王国の目的が分かった。分かってしまった。
それは。
「……王国は、『天国への階段』を足掛かりに聖剣カレトヴルッフ……ひいては、神の眷属を手に入れ、世界征服に乗り出すつもり……ですね……」
「「っ!?」」
ライラ様とハンナさんが息を飲んだ。
「……ですよね? ソフィア様」
「…………………………」
ソフィア様は無言のまま微動だにしない。
それは、僕の予想が外れていないと肯定しているようなものだ。
「そ、そんな! 王国は何を血迷ったことを!」
ライラ様が声を荒げる。
だけど、ソフィア様の話を聞いた今、一概に血迷っているとは言えない。
だって……そんな圧倒的なものに対して、我々人間は抗う術を持っていないんだから。
なら、時の権力者がその存在を知っているのであれば、力を求め、全てを求めるのは至極当然のことなのだから。
それよりも。
「それで……ソフィア様も王国と同じ目的で、ファルマ聖法国からこの『天国への階段』を求めてやって来たのですか……?」
「っ! ち、違います!」
僕の問い掛けに、ソフィア様は大声で否定した。
「私の目的は、この『天国への階段』によって全ての人々を神の下へ等しく導くこと! それこそが、この私が[聖女]として生を受けた理由なのです!」
ソフィア様が胸に手を当て、強い意志に満ちた瞳で僕を見つめる。
それは、まさに[聖女]としての覚悟の表れでもあった。
「ソフィア様……失礼なことをお聞きしてしまい、申し訳ありませんでした……」
「いえ……図らずもアデル様に私の想いを知っていただき、良かったです……」
そう言うと、ソフィア様は僕の手を取ってニコリ、と微笑んだ。
僕を見つめる瞳に、熱を帯びながら。
「……いずれにせよ急がないといけませんね」
「あ……」
僕はあえてソフィア様の手をほどき、立ち上がってそう呟く。
階段の先を……穴の底を、見据えながら。
◇
「ふう……」
休憩を終え、探索を再開してから数刻。
周りは変わらず漆黒の闇に包まれており、手に持つたいまつの炎だけが明々と照らし続けている。
だけど。
「……何か、聞こえませんか……?」
前を歩くライラ様が呟く。
「……はい、聞こえています」
僕はその呟きに静かに答える。
だって。
——オオオオオオオオオオオオオ……。
穴の底から、まるで人の呻き、嘆きの声のようなものが、下から吹き上げる風に乗って聞こえているのだから。
それも、階段を下りて行くごとにその声は大きくなっていき、僕達を『天国への階段』の底へと誘うようで……。
「ソフィア様……ここは本当に、『天国への階段』なのでしょうか……」
最後尾のハンナさんがおそるおそる尋ねると。
「……この場所こそが、『天国への階段』に間違いありません。アイザック王の始まりの地であるここに、我々では作ることができないこのような施設があることこそが、その証拠です」
ソフィア様は強い口調でハンナさんに答える。
それは、ソフィア様自身に言い聞かせてもいるように感じた。
「あ……!」
ライラ様が立ち止まり、死神の鎌を構える。
「……また、同じ連中ですか?」
「はい……わらわらと、まさにゴブリンですね」
またか……。
これで、あの時に初めて遭遇してから三回目だ。
「……ということは、今回も五匹ですか?」
「はい」
一回目も二回目も、連中は五匹一組で襲ってきた。
これが、連中の部隊編成なんだろう。
「王家は一体、何匹のゴブリンもどきをここに送り込んでいるんでしょうか……」
「分かりません……ですが、面倒なのでサッサと排除しましょう」
辟易した声で尋ねるライラ様に、僕はそう答えると。
「あは♪」
ライラ様が飛び出し、暗闇の中へと消える。
そして。
——ザシュ、ドカ、ギャリ。
「ギャギャ!?」
「ギエ!?」
「ギュ……!?」
まさにゴブリンのような断末魔の叫びが聞こえたかと思うと、ガシャガシャというライラ様のゆっくり歩く音だけが響いた。
「アデル様、全員排除しました」
「ありがとうございます。では、また進みましょう」
階段に転がるゴブリンもどきの死体の上をまたぎ、僕達は先へと進んだ。
一気に話し終えたソフィア様は、深く息を吐いた。
「「「…………………………」」」
そして僕達三人は、その話に言葉を失っていた。
何故なら、僕達が知っているアイザック王のおとぎ話とあまりにもかけ離れていたから。
“ティティス”は大神官ではなく、悪い魔女であること。
聖剣“カレトヴルッフ”は手渡されるのではなく、“死の森”の岩に刺さっているものを引き抜いて手に入れたこと。
そして……そもそも、物語には神も眷属も登場しないこと。
「……確かに僕達が知る物語……いや、英雄譚も、突拍子もないおとぎ話ではありますが、それでも、そこまで現実離れしたものではありません」
「「……(コクリ)」」
僕の言葉にライラ様とハンナさんが頷いて同意する。
「恐らく、民間に伝承する際に色々と改変されていったのでしょう……そして、ファルマ聖法国に伝わるものはファルマ聖法国の歴代の教皇のみが知り得る原典です。だからこそ、皆さんが知らないのも当然ではあります」
そう言うと、ソフィア様が静かに目を瞑った。
「……ですが、そうなると王国は『天国への階段』を手に入れて何をしようというのでしょうか……」
ハンナさんがポツリ、と呟く。
だけど、僕には王国の目的が分かった。分かってしまった。
それは。
「……王国は、『天国への階段』を足掛かりに聖剣カレトヴルッフ……ひいては、神の眷属を手に入れ、世界征服に乗り出すつもり……ですね……」
「「っ!?」」
ライラ様とハンナさんが息を飲んだ。
「……ですよね? ソフィア様」
「…………………………」
ソフィア様は無言のまま微動だにしない。
それは、僕の予想が外れていないと肯定しているようなものだ。
「そ、そんな! 王国は何を血迷ったことを!」
ライラ様が声を荒げる。
だけど、ソフィア様の話を聞いた今、一概に血迷っているとは言えない。
だって……そんな圧倒的なものに対して、我々人間は抗う術を持っていないんだから。
なら、時の権力者がその存在を知っているのであれば、力を求め、全てを求めるのは至極当然のことなのだから。
それよりも。
「それで……ソフィア様も王国と同じ目的で、ファルマ聖法国からこの『天国への階段』を求めてやって来たのですか……?」
「っ! ち、違います!」
僕の問い掛けに、ソフィア様は大声で否定した。
「私の目的は、この『天国への階段』によって全ての人々を神の下へ等しく導くこと! それこそが、この私が[聖女]として生を受けた理由なのです!」
ソフィア様が胸に手を当て、強い意志に満ちた瞳で僕を見つめる。
それは、まさに[聖女]としての覚悟の表れでもあった。
「ソフィア様……失礼なことをお聞きしてしまい、申し訳ありませんでした……」
「いえ……図らずもアデル様に私の想いを知っていただき、良かったです……」
そう言うと、ソフィア様は僕の手を取ってニコリ、と微笑んだ。
僕を見つめる瞳に、熱を帯びながら。
「……いずれにせよ急がないといけませんね」
「あ……」
僕はあえてソフィア様の手をほどき、立ち上がってそう呟く。
階段の先を……穴の底を、見据えながら。
◇
「ふう……」
休憩を終え、探索を再開してから数刻。
周りは変わらず漆黒の闇に包まれており、手に持つたいまつの炎だけが明々と照らし続けている。
だけど。
「……何か、聞こえませんか……?」
前を歩くライラ様が呟く。
「……はい、聞こえています」
僕はその呟きに静かに答える。
だって。
——オオオオオオオオオオオオオ……。
穴の底から、まるで人の呻き、嘆きの声のようなものが、下から吹き上げる風に乗って聞こえているのだから。
それも、階段を下りて行くごとにその声は大きくなっていき、僕達を『天国への階段』の底へと誘うようで……。
「ソフィア様……ここは本当に、『天国への階段』なのでしょうか……」
最後尾のハンナさんがおそるおそる尋ねると。
「……この場所こそが、『天国への階段』に間違いありません。アイザック王の始まりの地であるここに、我々では作ることができないこのような施設があることこそが、その証拠です」
ソフィア様は強い口調でハンナさんに答える。
それは、ソフィア様自身に言い聞かせてもいるように感じた。
「あ……!」
ライラ様が立ち止まり、死神の鎌を構える。
「……また、同じ連中ですか?」
「はい……わらわらと、まさにゴブリンですね」
またか……。
これで、あの時に初めて遭遇してから三回目だ。
「……ということは、今回も五匹ですか?」
「はい」
一回目も二回目も、連中は五匹一組で襲ってきた。
これが、連中の部隊編成なんだろう。
「王家は一体、何匹のゴブリンもどきをここに送り込んでいるんでしょうか……」
「分かりません……ですが、面倒なのでサッサと排除しましょう」
辟易した声で尋ねるライラ様に、僕はそう答えると。
「あは♪」
ライラ様が飛び出し、暗闇の中へと消える。
そして。
——ザシュ、ドカ、ギャリ。
「ギャギャ!?」
「ギエ!?」
「ギュ……!?」
まさにゴブリンのような断末魔の叫びが聞こえたかと思うと、ガシャガシャというライラ様のゆっくり歩く音だけが響いた。
「アデル様、全員排除しました」
「ありがとうございます。では、また進みましょう」
階段に転がるゴブリンもどきの死体の上をまたぎ、僕達は先へと進んだ。
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