ムク犬の観察日記

ばたかっぷ

文字の大きさ
上 下
6 / 139
一冊目

ご•たいが

しおりを挟む

あれからムク犬の元気がない。

周りの連中も気になってるのか、授業中ちらちらとムク犬の様子を伺っている。席替えがあっても小さ過ぎるムク犬は、必ず一番前の席と決められている。

だからクラスのほぼ全員が、ムク犬を見守れる位置にいる訳だ。俺の目に映るぺっしょりと垂れ下がった仔犬の耳は、もしかしたらクラスの奴らにも見えてたりするのだろうか…。

いや、クラスの奴らだけじゃない。教師達もぺしょりとうなだれるムク犬の様子が気になって仕方ないようで、全然授業が進まないでいる。癒しの存在であるペットが元気ないと、周りも元気が貰えないよなあ。アニマルセラピーの偉大さを思い知らされるぜ。


放課後になりクラスの奴らはムク犬を気にしつつ、三々五々教室を後にしていく。俺も残されて補習を受ける仔犬が気になるが、部活が待っているので仕方なく教室を出た。

高校に入ってから始めたバスケは、持ち前の運動神経ですっかり部のホープって位置にいる俺だが、部活は体力維持の為にやっているだけだからあんまり情熱とかないんだよなあ…。

それより、ムク犬が呟いてたガトーショコラって何だったんだ?
ずっと気になっていた俺は休憩に入ったときに、チームメイトで友人でもある鷹取たかとりに聞いてみた。

「ガトーショコラ?なんだ大雅食いたいのか」

「ガトーショコラって食い物なのか?」

「はあ~っ?お前、ケーキの名前も知らないのかよ」

「モンブランと苺ショートくらいなら知ってるさ」

男子高校生がケーキの種類に詳しい方が珍しいだろうが…。そんな思いで鷹取を睨め付けてやるが、鷹取は軽く受け流して意外な事を言ってきた。

「この学校の生徒ならケーキに限らず菓子全般に結構詳しいぜ?」

はあ?訳分からん。

「…なんでだ」

「そりゃ皆、餌付けしたいからじゃねえの?ワンコロをさ」

「…そのワンコロってのは、もしや河合椋の事か…?」

まさかこの鷹取までもが、ムク犬を餌付けしたがってる一人だったのか。

しおりを挟む

処理中です...