ムク犬の観察日記

ばたかっぷ

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三冊目

ろくじゅういち•むく

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宍倉くんが僕を抱き抱えたままゴールに向かって行く。

背中越しに見えるトーイくん達も近づいて来ているけれど、多分追い着かれる事はない。
そのくらい宍倉くんは凄く速い。僕の重さなんて何も感じていないみたいに。


『宍倉ペア凄いスピードです!追いかける九条ペアを振り切り単独一位!ゴールはもう目の前だー!』


そうして宍倉くんは一番でゴールへ駈け込んだ!


『ゴぉっールっ!一着でテープを切ったのは宍倉ペア-!ワンコな河合選手をその腕に抱き締めたままフィニーッシュ!』


宍倉くんの荒い息遣いが、僕の耳元に聞こえてくる。


「…し、宍倉くんっ!大丈夫!?」

「…だっ、いじょ…ぶ…っ」


僕を抱えたまま全力疾走したんだもん。大丈夫な訳がないよね。

少しでも負担を減らそうと宍倉くんの腕から降りようとしたんだけど、宍倉くんがガッチリ僕を抱き締めて離してくれない。

はわわわわわ…!なんでなんでーっ!?


『続いてゴールしたのは九条ペアだ!こちらもワンコを捕獲しております!」


そうこうしてるうちにトーイくん達もゴールして来た。トーイくんは僕の横にいたB組の子をいつの間にか連れてる。

そしてその子を降ろしたトーイくんが僕達に近づくと、いきなり宍倉くんに掴み掛かって来た。


「ちっくしょうっ!宍倉!よくも横から搔っさらいやがって!!」

「ああっ!?敵チームのテメエが手を出して来るのがおかしいんだろうが!」

「ムクを先に捕まえたのは俺だっ!!」

「横槍を入れて来たのはテメエの方だ!だいたいまどわないとか抜かしてやがった癖に、ムク犬の“お願い”に簡単に陥落しそうになってたのは何処のどいつだ?」

「…ぐっ!そ…それは仕方ねぇ!お前もあの破壊力を間近で喰らってみろ!」


…あ、れれっ?二人とも何だかいつもと言葉遣いが違うよ?

レースで興奮しちゃったからなのかな?こんな喋り方するの初めて聞いた。


「王子さまっ!僕を投げ捨てて行くなんて酷いですぅ!」


そんな二人の様子に驚いていると、トーイくんとゴールした子が宍倉くんに向かって叫んだ。


「あんなに激しく抱きしめて下さっていたのに酷いっ!」


…だっ!抱きしめる!?え?え?どう言うこと?


「宍倉はムクじゃなく、ソイツを抱いて運んでたんだよな。それなのに俺からムクを奪い去りやがって…」


…え…。宍倉くんがその子を…?それも抱いて運んでいた…?


『おや、何やらゴール付近で宍倉選手と九条選手が揉めているようです』

『やはり先程の河合選手の取り合いの件でしょうか』

『そうかも知れませんね。しかし、後続の選手達が続々とゴールして来ておりますので実況へと戻りましょう』


「いつまで抱いているんだ!さっさと降ろせっ!一馬!」

「ふふっ。やっぱり梨兎には水色が似合うね。真っ白な肌に真っ白な兎耳ウサミミがよく映えてるよ」


『3着でゴールしたのは桜木会長と、兎耳にエプロンドレス姿が似合い過ぎる調理部部長の卯月選手だー!嫌がる卯月選手を桜木会長が離しません!』

『頬スリスリとか羨まし過ぎる-!しかし両腕で会長を遠ざける卯月選手。会長ザマーミロっ」


3着でゴールしたのは同じチームカラーの黄色のハチマキとリボンのカズ先輩と卯月部長だった。
カズ先輩は嬉しそうに部長をお姫さま抱っこしたまま、うっとりと兎耳に巻かれたリボンを弄りながら頬を擦り寄せ、部長を離そうとする気配は微塵もない。


『次にゴールしたのは陸上部の熊谷選手と栗鼠リスのコスチューム姿の…、栗田選手ことシマリス君だ!』

『おや?しかし熊谷選手とシマリス君は敵同士のはずですが…』


「ミツ先輩!いい加減離せっ!なんで敵チームのあんたが俺を捕まえんだよっ!馬鹿野郎!」

「んっふ~。いいじゃんシマリス君スッゴい可愛い~。いいね~この尻尾~」


シマくんの怒声に驚いて振り返ると、そこには白いリボンのシマくんを抱っこした紫のハチマキを巻いたミツくんの姿があった。
4着はミツくん達みたいだけど、どうやらE組のシマくんがF組のミツくんに捕まったみたい。


『どうやらシマリス君は熊谷選手に気に入られてしまったようです』

『大きな尻尾がツボだったのですかね。暴れるシマリス君を愉しんでいます』

『…ご愁傷様です。さて次のペアは…、おお柔道部主将の牛島選手だ!捕獲したのは此方も調理部一年生のバンビちゃんこと小鹿選手!ぴるぴる震えながらもしっかりと牛島選手に抱き付く様が可愛いすぐるーっ!』

『眼福です!尊いです!有り難うございます!』


「大丈夫だったか?三葉」

「(…コクコクコク)」


5着はなんとコウ先輩と三葉くん!こちらも同じチームカラーの白いハチマキとリボンをしてる。
逞しい腕に三葉くんを抱き抱えたまま気遣うコウ先輩に、三葉くんは顔を真っ赤にしてうなずき返してる。


『さあ、そろそろ制限時間が近づいてきましたが…。あっ!最後のペアが到着しました!ゴールしたのは…、バスケ部二年の鷹取選手とまたまた調理部の二年生、黒猫コスの小西選手だー!』

『おや、制限時間内にゴールしたハンター達は皆、小動物クラブと名高い調理部メンバーをしっかりと捕獲したようです!流石ですねっ!』


『調理部メンバーの愛らしさは群を抜いていましたものね~!ああ、羨ましいっ』

『まったくですっ!』



「あれ~。みんな揃ってるね~」


ゆったりした喋り方で近づいて来た真央くんの隣には、なんと鷹取くんが居る。そう言えば二人は同じクラスだったっけ。
でも、鷹取くんはみんなと違い真央くんを抱っこはしてなかった。

そう言えば、さっきからヘンなアナウンスが続いていたせいで忘れそうになってたけど、宍倉くんがB組の子を抱きしめてたって…。


…どう言うこと…?


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