オワリちゃんが終わらせる

ノコギリマン

文字の大きさ
21 / 23
第四話 『一年廊下の怪』を終わらせる


『泣き桜の怪』の解決から二週間後。六月の中旬。

 そうそう怪事件解決の依頼があるとは思っていなかったわたしの目の前で、

「『一年廊下の怪』は、このわたしヨモスエオワリが終わらせます!」

 と、オワリちゃんがいつもの決め台詞とともに依頼を引き受けた。

「ほ、本当に? よかった」

 依頼者の三池寧々みいけねね先生がホッとした顔になる。

「どう考えても怪事件ですからね。なんらかの怪異が関わっているとしか思えません」

 保健教諭の三池先生は大きな猫目と後ろで束ねた長い黒髪が特徴的な、マリさんのように近寄りがたい美人というよりは親近感の湧く可愛らしい顔立ちの小柄なひとだった。わたしはまだお世話になったことがないけれど、先生を目当てに仮病を装って保健室へ通う男子もいるのだとか。とても朗らかで優しいひとらしいから人気なのも頷ける。

 三池先生が解決を依頼してきた怪事件の内容をざっくりまとめると、膝下に切り傷を作って保健室に来る一年生がここ二週間のうちに十数人もいて、理由を聞くと「廊下を歩いていたら痛みを感じて、膝下を見ると五センチくらいの小さな切り傷がついていた」と全員が答えたそうだ。最初の数人のうちはあまり気にしていなかった先生も十人を越えるころにはさすがに「なにかが起きている」と思い、生徒指導担当でベテラン教師の宍戸豪先生に相談したところ幽霊部を紹介され、相談してみることにしたのだとか。

「わたしを頼ったのは正解ですよ、三池先生」

 偉そうに言って、オワリちゃんがソファから立ち上がる。

「ほんとうにありがとう、四方末さん」
「そのための幽霊部です」

 心強い言葉に安堵したのか、三池先生は何度もお礼を言って帰って行った。

「先生が依頼に来ることもあるんですねえ」

 相変わらず呑気なひとりくんが言う。

「よくあることではないが、全くないわけではないよ」

 そうなのかと思っているわたしに、

「ひとつ面白い話をしてやろう」

 と、オワリちゃんが不気味な笑みを浮かべた。

「そもそもこの部室を使えるようになったのは、宍戸ししど先生の依頼を解決したからだ」


 宍戸先生がオワリちゃんを頼ったなんて信じられない。宍戸先生はジャージを着たゴリラみたいな見た目の体育教師で生徒に恐れられているひとだったからだ。

「どんな怪事件だったんですか?」

 わたしの疑問をよそにひとりくんがワクワクした様子で訊く。


「当時、ここはサッカー部の部室だったんだが、ある日を境に備品やユニフォームがズタズタに切り裂かれることが続いてね。宍戸先生は犯人を捕まえるために夜を徹して部室を張り込んだがなにごともなく朝になってしまい、確認のために部室を覗くとサッカーボールがズタボロに切り裂かれていた」

「明らかな怪事件ですね。なにが起きていたんですか?」
「捜査をしてすぐに生き霊の仕業だとわかった。ちょうど事件が起きる数日前にケガを理由に退部した生徒がいたんだ。彼が生き霊を生み出していたのだがもちろん無自覚だ。生き霊自体を祓うのは簡単だったが、またいつ再発するかも分からなかった。そこでわたしはどういった対処をしたと思う?」

 ぜんぜん分からなくて考えていると、

「その生徒に犯人だと自覚させて反省させたとかですか?」


 と、ひとりくんが元気よく答えた。

「その手もアリだがあまりにも無慈悲だよ、ひとりくん。ケガでサッカーを諦めた上に自分の生き霊がサッカー部に迷惑をかけていたなんて事実を伝えるのは、あまりにも酷だ」

 確かに。オワリちゃんはなんだかんだで結果的に誰も傷つかない方法で怪事件を解決してきた。単なる偶然だと思っていたけど、実のところオワリちゃんはいい加減に見えて色々と考えているのだろう。

「生き霊は生きている者が心に溜め込んだ感情が漏れ出ることで生まれる。その怪事件ではサッカーへの未練が肥大化して生き霊が発生したんだ」
「つまり未練を断ち切ったってことですか?」

 ひとりくんに負けたくなくて、先に訊く。

「そうだ。彼はサッカーへの未練を断ち切れずに日々を過ごしていたわけだが、身辺調査をしたところ絵の才能があることが分かって、上手く美術部へ入る流れを作ったんだ」
「なるほど。でもなんで部室が使えるようになったんですか?」
「事件解決のあと宍戸先生はこの部室を使用禁止にしてサッカー部はべつの空き部室へ移ったんだ。幽霊部は便宜上、ここでまたなにか起きたとき即座に対応するため常駐しているということになっているのさ」

 きっとオワリちゃんが色々と仕組んで部室を使えるようにしたのだろう。前のふたつの怪事件のときも解決とはべつに自分の欲望を満たすために動いていたし。自己中心的なひとのはずなのに、怪事件を無償で解決しているのがやっぱり不思議でならない。

「オワリちゃんはなんで幽霊部の活動をしているんですか?」
「困っているひとを助けるのはひととしての道理だ。なぜそんなことを聞く?」

 なぜ理由を聞かれたのかほんとうに分かっていない顔でオワリちゃんが答える。行動に一貫性がなくて支離滅裂だけど、オワリちゃんの中ではつじつまが合っているのだろう。

「そうだ。ひとついいことを思いついた」

 オワリちゃんがあの不気味な笑みを浮かべる。イヤな予感しかしない。

「今回はきみたちふたりに事件を捜査してもらおう」

 最悪だ。

「まだ早いですよ。」
「解決するのはわたしがやってもいい。とりあえず解決のための材料を集めてほしい。きみたちは十分に優秀だから大丈夫だ。わたしが保証する」

 ……もうこうなったら、オワリちゃんの考えが変わることはないんだろうな。

「なんでもやります!」

 わたしの不安をよそにして鼻息荒く喜ぶひとりくんの口をふさぎたくなった。ひとりくんのあとにわたしも何かやることになるじゃないか。


感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

普通の青春をしたいだけなのに~公立高校に入学した俺は静かに青春するはずだったのに隣の席の毒舌美少女と世話焼き幼馴染が放っておいてくれない~

常陸之介寛浩 @書籍販売中
ライト文芸
あらすじ 普通の青春がしたいだけだった。 なのに、隣の席の毒舌美少女はやたら鋭いし、世話焼き幼馴染は距離感が近すぎる。しかも学校には、見過ごせない理不尽まであふれている。 国家の中枢に連なる高位の家に生まれた神代恒一は、正体を隠して茨城県つくば市の県立高校へ入学する。 念願だった“普通の高校生活”を始めるためだ。 しかし、入学初日からその計画は大きく狂った。 隣の席になった金髪の留学生は、誰も寄せつけない美少女。辛辣で近寄りがたいのに、なぜか恒一のことだけは放っておかない。 一方、昔から恒一を知る幼馴染は、明るく世話焼きな顔で当然のようにそばにいる。だが彼女は、代々恒一の家に仕えてきた忍びの家系の娘でもあった。 秘密を抱えた主人公。 彼を見抜こうとする毒舌ヒロイン。 恋心と忠誠をこじらせた幼馴染。 そして学園には、親の権力を笠に着る生徒や理不尽な教師たち。 静かに青春したい主人公の願いとは裏腹に、日常はどんどん騒がしくなっていく。 それでも彼は、誰かが傷つけられる理不尽だけは見過ごせない。 つくば市の県立高校を舞台に、秘密と恋と騒動が交錯する青春ラブコメ。 笑えて、焦れて、ときどき痛快。 “普通”に憧れた少年の、まったく普通ではない高校生活が始まる。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。