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5:「お前」
③
しおりを挟む「なんで奈緒……山下さんに、殴られんのさ」
「だってお前、なんでか知らねえけど、さいきん山下と仲いいだろ」
「でもこのケガは山下さんとは関係ないよ。純平に本で殴られたんだ」
「純平に? なんだ、お前ケンカとかするんだ」
「ケンカじゃないよ。純平がいきなり殴ってきたんだよ」
「でもお前、純平の前で山下としゃべったりしてたんだろ、どうせ」
「なんだよ、どうせって。なんでそんなこと分かるんだよ」
「山下と仲いいお前が純平に殴られたんなら、それしか理由がないだろ。そんなの誰だって分かるよ」
いつものようにバカにされているのを感じ、
「言ってる意味が分かんないよ……」
と、抗弁する気も失せて慎吾はつぶやいた。
「分かんねえことないだろ、なあ成田ちゃん」
「まあ、色々とあるから。小学生も大変ね」
「意味が分かんないよ。なんで殴られんのさ」
「べつにいいよ、分かんねえなら」
「まあ、お茶でも飲みなさい」
苦笑しながら麦茶をコップにそそいだ成田先生が、
「それ飲んだら、教室に戻りなさい」
と言って、保健室を出て行った。
ベッドで麦茶を飲み干した直人が「お前も大変だよな」と、含み笑いを浮かべて保健室を出て行く。
ひとり残された慎吾は、ふたたび中庭を見た。
風に揺れる、紀子の束ねた後ろ髪。
楽しそうに笑う女子たちが、手の届かない世界の住人のように思えてならなかった。
麦茶を一気に飲み干してから教室に戻ると、
「大丈夫だった?」
と、すぐに奈緒子が声をかけてきた。
「うん、そんなひどいケガじゃなかったみたい」
「良かった……」
瞳を潤ませる奈緒子に、胸が痛んだ。純平に噛みつかなければ、こんな顔を見ることもなかったのに。
慎吾は、純平のもとへ行き、
「ごめん、ぼくが悪かった」
と、心の底から謝った。
「もういいよ」
目も合わせずにつれなく言った純平と、不格好な絆創膏を額に貼った慎吾は、気まずさを抱えながらも、またそれぞれの日常へと戻った。
慎吾は、教室の入り口で心配そうに佇む奈緒子のもとへ戻り、
「行こうよ、神社」
と、精一杯に明るく言った。
「でも、今日はやめといたほうがいいんじゃない?」
「大丈夫だって、こんなケガ大したことないよ」
「うん……」
おかしな気持ちになってるのは分かっていたが、今日どうしても神社に行かなければ、という気持ちのほうが勝っていた。
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