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7:直人とワチコ
③
しおりを挟む七月二十六日。
ラジオ体操に遅刻しそうになった慎吾は、集合場所の空き地まで急いでいた。
走りながら、通信簿に書かれた「遅刻が少し目立つので、早寝早起きをするようにしましょう」という町山先生の言葉を慎吾は思い出した。夏休みの初日でこれじゃあ、二学期が思いやられる。
昨日は両親に遅刻が多いことがバレて、大変な思いをした。
「だから、お前はダメなんだ!」
と、お父さんは言った。
「だからって言えるほど、ぼくのこと見てないじゃないか!」
と、慎吾は叫びたかった。
記憶の限り、褒められたことなんか一度も無い。慎吾を叱るのが趣味のお父さんと慎吾の擁護を一切しないお母さんは、ふだん家を空けていることが多いから躾を厳しくしないと息子がグレてしまうとでも思っているのだろうか?
本当は、ちがう。
今のままでは両親を尊敬の対象として見ることなんかできない。褒められることもなく、なにかあればぶたれるだけの悲しい関係のまま大人になり、本当に両親を嫌いになってしまうのが心の底から怖かった。
「チャー。なんだよ、今日も遅刻かよ」
空き地に着くと、直人が笑いながらとなりに並んできた。
「まだ始まってないよ。ていうか、なんでとなりに来るんだよ?」
「いいじゃんかよ、ほかに誰もいないし」
たしかに、この地域のラジオ体操に来る六年生は慎吾と直人しかいない。だが近所だからという理由だけで仲良くできるほど大人じゃないし、どちらかというと直人のことが苦手だった。勉強ができるのとはちがう意味で頭の良い直人といると、自分のすべてが見透かされてしまいそうで、すごく居心地が悪くなる。
「チャーさ、夏休みも山下と遊ぶの?」
「え、なんで?」
「気をつけろよ、太一とかにさ」
「太一? 奈緒子のこと好きなの?」
「好きかどうか知らないけど、お前が山下と喋ってるとき、いつもチラチラ見てるぞ」
「大丈夫だよ、ただのトモダチだもん。女子とか男子とか関係ないよ」
「……あ、そ、じゃあ今日は、おれも一緒に遊ぼうかな」
「え?」
慎吾はグルグルと回す腕を止めて、直人を見た。
「どういう意味?」
「おれもチャーと山下と一緒に遊ぼうかなって意味」
笑顔で腕を回す直人を見ながら、ハメられたことを慎吾は悟った。始めから
そのつもりで近づいてきたのだ。
「気にすんなよ。ヒマつぶしだから」
言葉通り、本当にただのヒマつぶしなのだろう。普段からヒマを持て余す直人にとって、夏休みは慎吾とはちがう意味で苦痛なものなのかもしれない。
「でもさ、ぼくと直人って、そんな友だちじゃないじゃん。奈緒子とだって——」
「だからさ、これから仲良くなればいいじゃん。町山先生も言ってたろ、『クラスメイト同士、仲良くしましょう』って」
言葉に窮し、大きなゲップが出た。
ホントにマジで最悪の最悪。
「出たな、困りゲップ」
「変な名前つけないでよ。分かったよ、連れてけばいいんだろ」
「連れてく? なんだ、お前ら秘密基地とかあんの?」
目を輝かせる直人に、やっぱり勝てる気がしなかった。
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