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23:登校日
④
しおりを挟む「それは、ないんじゃないかな。だって、そのセトくんの名前も書かれてたじゃない。直人くんは、ふたりの名前を書いた人は同じだって思ってるんでしょ? じゃあ、セトくんは自分で自分の名前を書いたってことになるけど、さすがにそれはありえないでしょ」
「まあな……でもあれだぜ、その犯人が女か男かは分かるよ」
「どうやって?」
「だからさ、チャーのことを好きな女子なんているはずないから、犯人は男で、自分が好きな女子が好きなのがチャーだって勘違いしたヤツってことになるじゃん」
「ちょっと待って。その、チャーのことが好きな女子がいないなんて、なんで分かるの?」
「だってほら、ねえ、チャーだよ」
「それは理由にならないよ。好きな女子くらいいるでしょ」
「だれだよ?」
「え、えっと、それは分かんないけど」
「……まあ、いいや。あれだよ、奈緒子がチャーのことを好きだったとして——」
「ちょ、ちょっと待ってよ、なんでわたしがチャーのこと好きとか言うの?」
「だから例え話だってば。チャーの名前を書く理由があるとしたら、奈緒子のことが好きなヤツが、奈緒子は実はチャーのことが好きなんじゃないのかと思って名前を書いたってのが、いちばんある話だと思うんだよ。べつに勘違いでもいいんだろうし」
「わたしたちが仲良く遊んでるのを知ってるのは、塾で沢田さんにそのことを聞いた人たちってことでしょ? そしたらまた話が戻っちゃうじゃん。書くことができた人がいないってことになるよ」
「そうだよな、だから困ってるんだよ。結局、また元に戻っちゃうんだ。クラスのヤツだけじゃなくて六年全体を考えたら、四クラスだから百二十人だろ。もう無理かもしれないな、犯人を探すのは。まあ、あんなもん偶然だから、そんなに信じなくてもいいよ」
「うん。ぼくもあんまり気にしなくてもいいと思うんだ」
直人に言って、鼻血のおさまった慎吾はベッドから下りた。
「それより久しぶりに奈緒子が来たんだからさ、なにかしようよ」
「いいね。おれ花火やりたい」
「は、花火? まだ昼だよ」
「だからさ、また夜に集まろうぜ。奈緒子もやりたいだろ?」
「うん。まだ今年は花火やってないから」
「あたしも賛成!」
「じゃあ、決まりだな。とりあえず花火は先に買っとこうぜ」
言って、直人がさっさと207号室を出て行き、ワチコがそのあとを追った。
「チャーは来れる?」
立ち上がった奈緒子が、不安げに訊いてくる。
「う、うん。大丈夫だと思う」
「そっか。良かった。チャーがいないのはイヤだもんね」
奈緒子の言葉が、とても嬉しかった。
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