バラバラ女

ノコギリマン

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33:ワチコの家

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 家のドアを開けたワチコに、

「だれもいないみたいだな。まあ、入ってよ」

 と促され中に上がると、予想どおりの普通の家だった。

「へえ。ワチコって、こういう趣味もあるんだな」

 直人が靴箱の上に置かれたロボットのプラモデルを見て、早速からかう。

「バカ、コレはお兄ちゃんのだよ」
「ワチコって、お兄ちゃんいたんだ」
「いるよ。六コ上だから見たことないだろうけど」

 少しイヤそうに言ったワチコが、三人に手招きをして階段を上がっていく。

「あたしの部屋ここだから中で待ってて。なんか飲み物とか持ってくる」

 部屋は、普段のワチコからは想像できないメルヘンチックな雰囲気だった。寝心地の良さそうなフカフカのベッドのシーツはピンク色で、掛け布団や枕もおなじ色だった。床には花柄のカーペットが敷かれ、出窓の棚にはたくさんのぬいぐるみが飾られている。

 その中に片目のとれたクマのぬいぐるみを見つけた直人が、

「おい、ワチコってば、クマ大事にしてないじゃん」

 と、眉間にシワを寄せた。

「でもさ、あのクマの目って、最初から取れてたよ」
「そうだっけ? くそ、不良品だったのか。ムカつく!」

 怒る直人のうしろで、奈緒子が本棚を興味深げに眺めている。

「ワチコって、本とか読むんだね」
「うん。UFOとか妖怪の本が多いけど」
「あ、ホントだ」
「そこだけワチコらしいな」

 直人の軽口に顔を綻ばせた奈緒子が、バッグを下ろしてカーペットに座り込んだ。

「お待たせ」

 部屋に戻ってきたワチコが持つ丸盆の上には、四つの白いティーカップと湯気がゆらゆらと立ちのぼるティーポット、さらにハート型のクッキーが盛られたガラス皿まであった。

「あ、美味しい」

 ひとかじりして目を丸くする奈緒子を見て、慎吾もクッキーを口にした。バニラの優しい香りと丁度いい甘さが、口内に広がっていく。

「ホントだ、美味しい!」

 二個目のクッキーを取りながら感心する慎吾に、

「当たり前だろ、あたしが作ったんだからな」

 と、ワチコが鼻を鳴らし、紅茶を注いだカップを手際よく三人の前に置いていった。

「へえ。お前、こういうシュミがあったんだな」
「ハッハッハ、あたしをナメてただろ?」
「でもホント意外だね、クッキーと紅茶が出てくるとは思わなかったよ」
「部屋も意外だよね。ワチコちゃんの部屋とは思えない」
「お母さんのシュミだよ、あたしはイヤなんだけど。だからこれだけがあたしの救いだよ」

 ワチコが本棚の下段からクモの入った瓶を取りだして、射し込む陽の光にかざした。

「だけどさ、もう死んじゃったよ」

 瓶底には、干からびたクモが転がっていた。
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