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35:ドアを叩く音
①
しおりを挟む……コン、コン、コン、コン
玄関のドアを叩く音がする。
自室でうたた寝をしていた慎吾は、その音で夢の世界から引きずり出された。
……コン、コン、コン、コン
イヤに間をあけた音が、ふたたびドアを叩く。
布団から顔を出して時計を見ると、もう夕方の七時だった。
まだだれも帰ってきていないようだ。
慎吾は布団から這い出し、寝ぼけた頭をふってから玄関へ向かった。
「はい、だれですか?」
玄関の灯りをつけてたずねると、
「わたし、コモダと申します。慎吾君はいますでしょうか?」
と、聞き覚えのある無機質な声がこたえた。
コモダ……誰だったっけ……?
ドアを開くと、そこには全身を赤色で包んだ斜視の男が立っていた。
「あ……」
「ああ、きみ、慎吾君だったね」
「は、はい」
「ナオちゃん、お邪魔してないかな?」
ニヤリと笑うコモダさんの歯は、ヤニで黄ばんでいた。
「い、いませんけど」
「そうか。ここだと思ったんだが」
「奈緒子が、どうかしたんですか?」
「いやね、昨日から帰ってきてないものだから。きみ、ナオちゃんと仲がいいんでしょ?」
「あ、はい」
「まさか家出ってことはないだろうけど、今日も帰ってこないのはさすがに心配でね。わたしの娘じゃないのは君も知ってるだろうけど、それでもわたしはナオちゃんのことを愛しているんだ。きみ、ナオちゃんがいそうな場所って知らないかな?」
コモダさんに見つめられ、地獄の片鱗を見たような気がしていた。
この人に奈緒子の居場所を言うべきではないと心が警告している。
「し、知りません、ごめんなさい」
目を逸らして上擦る声で言うと、両肩をコモダさんに掴まれた。
痛い。
「本当に知らないのかな? 隠すと、バチが当たるよ。きみは知らないだろうが、あの娘は邪悪体に憑かれやすい性質を持っていてね。それが入ると大変なことになるんだ。ここ最近、その兆候がまた出ていてね。このままだと《追否の儀》を行わなければいけなくなるんだ。わたしはね、本当はそういうことをナオちゃんにはしたくないんだよ。純潔は至高だから。ね、きみも分かるだろ?」
分からなかった。
視点の定まらない目に度しがたい魔力を感じ、気づくとゲップが出ていた。
「ウ、ウフフ。そうか知らないのか。それなら仕方がないね。お邪魔しました」
肩から手をどけたコモダさんは、やけにあっさりと帰って行った。
呆然としながら、慎吾は額の汗をゆっくりと拭った……
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