24 / 53
23:必然的な偶然
しおりを挟むそれから数時間が経ち、夏のせいで遅刻する三日月を空が迎えるまで、暇つぶしでポーカーに興じながらボウッとしていると、診療所から駆けつけてきたハゲアタマの医者にトキオの快復を告げられた。
その吉報に、ストレートフラッシュの揃いかけた手札をキッチンテーブルに放り投げて飛び上がったハナコは、その向こうに籐製のバスケットを置いて座るアリスに視線を走らせた。
アリスがうなずき、ハナコもうなずき返した。
「嬉しそうだな、お嬢さんたち」
マクブライトもまた嬉しそうにして冷やかす。
「まあ、これでやっと旅を続けられるからな」
鼻を鳴らし、ハナコは皆を連れ立って診療所へと向かった。
「すいませんでした」
トキオの第一声は、やはり予想したとおりの言葉だった。
ハナコは、トキオのいるパイプベッド脇の木製の丸イスに座りかけて、アリスにそれを譲り、となりに立って腕を組んだまま、痛々しい姿のトキオと目を合わせた。
「懺悔なら、する相手が間違ってるよ」
言ってから、その嫌味を後悔する。
いつもそうだ。
だが、なぜかトキオはハナコに向けて微笑を浮かべている。
「とにかく、あんたが寝てるあいだに得た情報を教えとく」
昼間、神父から聞いた話をかいつまんで伝えると、
「やっぱり、アイツは政府がらみの奴だったんですね」
と、トキオがため息を吐いた。
「もうおれは大丈夫です。今からでも出発しますか?」
ハナコは首を振り、
「今夜はまだ大人しくしてろ。明日、早くにここを出るぞ」
と、今度はできるだけ優しくトキオに言った。
「本当にすいませんでした」
「その言葉、本当に好きだな。頭に有り余ってるのか?」
トキオがふたたび微笑む。
「……とにかく、まだ寝てろ」
ぶっきらぼうに言って診療所を出ると、
「まったく、お前らはいいコンビだな」
と、マクブライトが笑う。
「ヘマばっかりだよ、トキオは。ひとりの時ほうが、よっぽど仕事がスムーズにいってた」
「たしかに奴は《運び屋》としては少々マヌケだが、それでもあいつと組んでなきゃ、お前は今ごろ、とっくに死んでただろうよ。はじめて出会った頃のお前は、今じゃあ信じられないくらいに、すさんでいたからな」
「バカ言え。トキオのおかげで変わったって言いたいわけ?」
「さあ、どうだかな」
マクブライトが煙草に火をつけ、紗のように薄くかかる雲の向こうに浮かぶ三日月に向かって、ゆっくりと紫煙を吐いた。
思えば、マクブライトとの付き合いはトキオよりも長く、この稼業をはじめる前からの知り合いだ。しかも初対面のとき、ハナコはマクブライトへ特に理由もなくつっかかっていった。そして見事に返り討ちに遭い、それがハナコにとってのはじめての敗北になった。
あの頃は、《血の八月》ののちにしばらく預けられていた師匠の家を出たばかりで、師匠から伝授された《鬼門拳》をさらに磨くために、誰にも彼にもケンカを売っていた。
自分ではその行為が腕をあげるための大切な鍛錬だと思っていたが、そんなハナコを軽くいなしたあとで、マクブライトに「嬢ちゃん、なにをそんなに生き急いでるんだ?」と、とぼけた調子で言われたことで、その間違いに気づかされた。
たぶんあの頃は、マクブライトに言われたとおり、生き急いでいたのだと思う。独りで強く生きていかなければいけないという強迫観念の糸によって、マリオネットのように操られ続ける日々だったのだ。
マクブライトに敗北した翌日から、二人は飲み仲間になり、それから一年後、《運び屋》の仕事をはじめていたハナコは、フラリと九番に現れてドンに雇い入れられたトキオと組むことになった。
敗北を知った日から、ハナコはもっとまっとうな形での鍛錬を行うようになり、今ではマクブライトにも負けないのじゃないかとも思うくらいにはなっているが、あらためて挑む気も、最早うせてしまっていた。
……やっぱり、昔に比べて、まるくなってしまったのだろうか?
考えるに、人と人との出会いや縁なんてものは、すべてが偶然でありながらすべてが必然なのだろう。マクブライトやトキオとの出会い、ひいてはドンとの出会いもなんらかの理由があって、偶然という形でやってきた必然なのだ。
そんなバカなことを思い、そしてアリスを横目で見ながら、この娘と出会った理由も少し考えてみる。今は正直、その理由がさっぱり分からないが、この出会いもきっと、このクソッタレな人生における必然的な偶然のひとつなのだろう。
とにもかくにも、アリスと出会い、ハナコは外の世界へ飛び出した。
楽しい旅とはさすがに言いがたいが、それでもこの数日のうちで、今まで想像だにしなかった現実に直面してばかりだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる