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人情居酒屋おやじ

2.扇型ソーセージとスジの焼肉

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開店の日からしょっちゅう来てくれる常連さんに、高校の友人がいる、それが山ちゃんだ。

山ちゃんは店に来ると必ず高校時代の話をする。
と言うか記憶力のいい俺の話しを聞きたがる。

注文するのはビールと扇型ソーセージ。
懐かしい味と上等じゃないものがいいらしい。
好きなサイズに切って、ただ焼くだけで美味しい扇型ソーセージは、俺らの子供時代のご馳走だったのかもしれない。

「やっぱり美味いわ」
そらそうだ、毎回同じなのだから

「そやろ?懐かしいよな」
「これでビールが最高なんや、
お前も飲めや」
「ありがとう、いただくわ」
山ちゃんは結構奢ってくれる。
これは大変ありがたい。

「そや、今日万願寺あるぞ」
「おーええな、焼いてくれ」
「了解」

万願寺とうがらしを網で焼いて、
フライパンで煮立たした醤油とみりんに絡める。
あとは花がつおをかければ出来上がり。
シンプルだが最高のつまみだ。

つまみはバランス良くなるように野菜も薦める。

「万願寺は辛くないからいいな」
「そやな、ししとうはたまに大当たりがあるからな」
「あれは、めっちゃ辛い、ししとうあるあるやわ」

俺たちが20代の頃、山ちゃんの家によく行った。
ナンパの事とパチンコの事しか頭になかった頃だ。
なかなか可愛いやつだったことを思い出す。

「もしもし」
「おー、お前いま暇け?」
「暇やけど」
「今から来いや」
「もう夜中の0時やぞ」
「ええやんけ、来いよ」
「嫌やわ、またにしよ」
「俺がな、寂しい言うてるやから来てくれてもええやんけ」
「寂しいんかいな、しゃーないな、ほな行くわ」

寂しかったらしい。
なんか恋人のような会話であった。

家に行くと良く、インスタントラーメンを作ってほしいとリクエストされた。
俺はインスタントラーメンに出汁や辣油などあるものをトッピングして作ってやった。
それを気にいっていたのだ。

ある意味それが俺の料理好きの原点だったかもしれない。


「アレあるけ?スジの焼肉」
「あるよ、焼こうか?」

厳密に言うと、スジ肉と言うよりは、スジを処理する際にでた肉である。
もともとA5ランクの肉だけに美味い。
友人の肉屋に月一でご馳走するからと約束してかわりにもらっている?
冬にはこれをおでんにも入れる。
あとはどて焼きにもしている。
確かにスジは美味いが、山ちゃんは焼肉か塩焼きを好むのである。

「はい、お待たせ」
「スジと玉ねぎの焼肉は王道やな」
「はい、オマケのもろきゅう」
「おー最高やんけ」

オマケ、なかなかいい響きである。
オマケで思い出したが、子供の頃カード付きのプロ野球スナックが一世を風靡した。
俺たちはみんなカード欲しさに良く買ったものだ。

「昔プロ野球スナック流行ったよな」
「あーめっちゃ買うたわ」
「大体のやつはカードだけ欲しいからスナック食べるのに困ってたわ」
「そやな」
「俺昔卵と一緒に炒めたり、焼いたりしてみたな。みんな失敗やったけどな」

当時はプロ野球スナックを食べずに捨てる子供がいっぱいいて問題になっていたのである。

「確か当たりが出たらカードを収めておけるプロ野球ブックかなんかもらえたよな?」
「アレ持ってたわ。どこ行ったんやろ?」
「俺もや」 

きっと親からとればどうでも良いものだったのだろう。

この手の話は毎回いくらでもあった。



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