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第31話「元最強陰陽師、ヒヒイロカネを入手する」
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侍従のエルフに連れられて行った先の大木を利用して作られた宝物庫に到着すると、侍従は俺たちを入ってすぐの部屋で待たせて一人宝物庫に入っていった。これより先に部外者を入らせる訳にはいかないということだ。
魔術師としてはエルフが所有する他の宝物にも興味があったが、流石に無理を言う訳にはいかない。国宝を一つ貸与してくれるだけでもありがたいことなのだ。
待っている間部屋を見回すと、生えたままの木を利用した宝物庫であるものの、かなり頑丈な作りであることが伺える。
「この宝物庫は若い世界樹をそのまま利用して作られているんだニャー」
猫妖精のダイキチが俺の興味深げな表情に気が付き、宝物庫について解説してくれた。
なるほど、木製ながら通常の金属を超える頑丈さを感じられるし、宝物庫自体に強力な魔力を感じるのはそういう訳か。
これならそう簡単に焼け落ちたり、瞬間移動の魔術で盗みを働くこともできないだろう。
「お待たせしました。これが国宝の朱い鋼でございます。ご所望の品かどうかご検分下さい」
「ああ。どうもありがとうございます」
侍従が両手に盆を高く掲げて戻ってきた。その盆には怪しく、そして神々しく輝くバレーボール大の金属が載せられている。入ってきた時点で強烈な魔力が肌を刺した。
部屋の中に備えられた台に盆ごと置いてもらい、鑑定を開始する。この魔力を帯びた金属塊が、俺の元居た世界でいうところのヒヒイロカネと同じものなのかは俺にしか判別できないのだ。
ヒヒイロカネは希少な金属であり、元居た世界の魔術師達の間でも実物を見た者は少ないだろう。故にヒヒイロカネを見分けるのは本来難しい。
しかし、陰陽師の一門を統べる我が九頭刃家には実物が納められているし、ある程度の研究が進められている。
俺はまだ若く現役バリバリの戦闘魔術師だったので、その研究内容を全て網羅している訳ではないが、ヒヒイロカネの見分け方は教わっている。
陰陽道では水金地火木、そして陰陽の様々な気を使いこなすが、これをヒヒイロカネに送り込んだ時の反応で判別することが可能なのである。
この世界に来てから体質上魔力を十分使いこなすことが出来ないが、魔力は微弱でも精密な作業は可能だ。送り込む気の種類や量を調整し、その反応を観測するなど朝飯前だ。ダイキチやアマデオが見守る中作業を黙々と進めていく。
そして、結論が出た。
「間違いない。これはヒヒイロカネだ」
「やったニャ。こんなに簡単に見つかるなんて思ってなかったニャー」
「これで元の世界に帰れますね」
ダイキチとアマデオが我が事の様に喜んでくれる。
そう。このヒヒイロカネを使えば、元の世界に通じる転移魔術が完全な形で出来上がり、帰還することが叶うのだ。そうすれば、俺はこの世界では単なる異邦人にすぎないのが、元の陰陽道一門の次期後継者にして最強と謳われた魔術師に復権することが出来るのだ。
侍従がヒヒイロカネを持ち出すときの器を取りに再度宝物庫へ向かった。何しろ国宝なのだから外を持ち歩く時にはそれなりの格式がある外装が求められるという体面的な事情があるし、魔力を遮断しなければ何が起こるか分からないという実用的な事情もある。
ダイキチとアマデオと俺の三人だけで部屋に取り残された。
「ところで、カナデは御父上の族長と話があるようだけど、何の話か予想がつくか?」
宝物庫へ来る前から気になっていたことを、ヒヒイロカネの捜索というもう一つの気掛かりが片付いた解放感から二人に問いただした。
「……多分カナデのこれからの事だにゃ……」
「ダイキチ! その話は……」
「頼む。教えてくれないか?」
話し始めたダイキチをアマデオが制止しようとしたが、俺の真剣な表情を見て話さずにおくのは無理だと判断したのだろう。二人はカナデの事情について話し始めた。
カナデは今でこそバナード魔術学院の学生で陰陽師としての修業をしているが、本来はエルフの姫君である。そして、そのエルフは本来精霊魔術を修めるのが習わしである。
魔術学院に入学することは構わない。大陸中の有力者の子弟中でも魔術に素養がある者はこぞって入学しているので、彼らとパイプを作る事は有益な事だ。ただ、何の気まぐれかカナデはエルフの本分である精霊魔術ではなく陰陽道を学ぶ事を選択したのだ。
俺のいた世界では陰陽道は世界魔術協会でも有力な魔術一派だったが、この世界では違う。碌な魔術書もなければ教える者もいない、マイナーどころか滅びてもおかしくない魔術なのだ。
そんな役に立つのか分からないし、まともに学ぶことが出来るのかも分からない魔術をエルフの姫が学ぼうと言い出した時、国の誰もが反対した。格式だけの話ではない。国の行く末に関わるからだ。
エルフの国が所在するペペルイの森は現在も途轍もなく広大だが、これは本来の姿ではない。魔王の襲来以前は更に広かったのだという。そこにはエルフだけではなく様々な種族が暮らしており、ダイキチの様なケットシーやアマデオの様な鬼族も含まれていた。それが魔王との戦争で森の範囲が狭まってしまい、多くの種族が狭まった森に集まることで現在はかなり圧迫されているのだそうだ。
もちろん、エルフ達もただ手をこまねいている訳ではない。種を播き、それを精霊魔術により育てて森を広げる努力をしている。ただ、今のところ森の人口密度の緩和に繋がるほどの成果は出ていないということだ。
エルフの族長の一族は、その優れた精霊魔術と地位から森の拡張運動の先陣に立つことが期待されている。中でも膨大な魔力を秘めたカナデは幼い頃から期待されていた。それなのに、役に立つのか全くもって分からない陰陽道に現を抜かすなど許される訳がないのは当然の事だ。
しかし、カナデは反対意見に対して反論した。エルフの宝物庫に納められていた陰陽道の魔術書によれば、陰陽道は木の気を直接操ることが出来る。これを完成させれば森の修復に役立つのではないかと。
これでも完全に反対意見を抑えることは出来なかったが、一応理屈は通っている。陰陽道を学ばせてみて成功したなら良し、成果が出なければ陰陽道は諦める。
その様な取り決めがされたそうだ。
「それで、その期限が……」
「もうそろそろという訳なんだニャー」
そんな事情があるなど全く知らなかった。カナデはその様なそぶりは全く見せなかったのだ。
そして、最近カナデが取り組んでいたのは木気を操って植物を育成するような魔術ではない。元の世界に戻れなくなった俺を送り返すための魔術なのだ。
俺がこの世界に来たのは、原因の一つにカナデの魔術によってこの世界と俺の世界が繋がってしまったという事があるがその繋がったゲートはすぐに消滅してしまっている。直接の原因はその魔術を見た俺が、見様見真似で再現して、不用意にも準備なく自らこの世界に足を踏み入れたことなのだ。
もし、俺がこの世界に来なければ、カナデは自分の目的のための陰陽道の研究を進められただろうし、直接この世界に来ることなしにゲート越しのコンタクトに留めれば、安全な状態で陰陽道に関するレクチャーが出来たかも知れない。
しかし、それは全て仮定の話だ。最早遅い。
俺は自分の不用意な行いを後悔した。
魔術師としてはエルフが所有する他の宝物にも興味があったが、流石に無理を言う訳にはいかない。国宝を一つ貸与してくれるだけでもありがたいことなのだ。
待っている間部屋を見回すと、生えたままの木を利用した宝物庫であるものの、かなり頑丈な作りであることが伺える。
「この宝物庫は若い世界樹をそのまま利用して作られているんだニャー」
猫妖精のダイキチが俺の興味深げな表情に気が付き、宝物庫について解説してくれた。
なるほど、木製ながら通常の金属を超える頑丈さを感じられるし、宝物庫自体に強力な魔力を感じるのはそういう訳か。
これならそう簡単に焼け落ちたり、瞬間移動の魔術で盗みを働くこともできないだろう。
「お待たせしました。これが国宝の朱い鋼でございます。ご所望の品かどうかご検分下さい」
「ああ。どうもありがとうございます」
侍従が両手に盆を高く掲げて戻ってきた。その盆には怪しく、そして神々しく輝くバレーボール大の金属が載せられている。入ってきた時点で強烈な魔力が肌を刺した。
部屋の中に備えられた台に盆ごと置いてもらい、鑑定を開始する。この魔力を帯びた金属塊が、俺の元居た世界でいうところのヒヒイロカネと同じものなのかは俺にしか判別できないのだ。
ヒヒイロカネは希少な金属であり、元居た世界の魔術師達の間でも実物を見た者は少ないだろう。故にヒヒイロカネを見分けるのは本来難しい。
しかし、陰陽師の一門を統べる我が九頭刃家には実物が納められているし、ある程度の研究が進められている。
俺はまだ若く現役バリバリの戦闘魔術師だったので、その研究内容を全て網羅している訳ではないが、ヒヒイロカネの見分け方は教わっている。
陰陽道では水金地火木、そして陰陽の様々な気を使いこなすが、これをヒヒイロカネに送り込んだ時の反応で判別することが可能なのである。
この世界に来てから体質上魔力を十分使いこなすことが出来ないが、魔力は微弱でも精密な作業は可能だ。送り込む気の種類や量を調整し、その反応を観測するなど朝飯前だ。ダイキチやアマデオが見守る中作業を黙々と進めていく。
そして、結論が出た。
「間違いない。これはヒヒイロカネだ」
「やったニャ。こんなに簡単に見つかるなんて思ってなかったニャー」
「これで元の世界に帰れますね」
ダイキチとアマデオが我が事の様に喜んでくれる。
そう。このヒヒイロカネを使えば、元の世界に通じる転移魔術が完全な形で出来上がり、帰還することが叶うのだ。そうすれば、俺はこの世界では単なる異邦人にすぎないのが、元の陰陽道一門の次期後継者にして最強と謳われた魔術師に復権することが出来るのだ。
侍従がヒヒイロカネを持ち出すときの器を取りに再度宝物庫へ向かった。何しろ国宝なのだから外を持ち歩く時にはそれなりの格式がある外装が求められるという体面的な事情があるし、魔力を遮断しなければ何が起こるか分からないという実用的な事情もある。
ダイキチとアマデオと俺の三人だけで部屋に取り残された。
「ところで、カナデは御父上の族長と話があるようだけど、何の話か予想がつくか?」
宝物庫へ来る前から気になっていたことを、ヒヒイロカネの捜索というもう一つの気掛かりが片付いた解放感から二人に問いただした。
「……多分カナデのこれからの事だにゃ……」
「ダイキチ! その話は……」
「頼む。教えてくれないか?」
話し始めたダイキチをアマデオが制止しようとしたが、俺の真剣な表情を見て話さずにおくのは無理だと判断したのだろう。二人はカナデの事情について話し始めた。
カナデは今でこそバナード魔術学院の学生で陰陽師としての修業をしているが、本来はエルフの姫君である。そして、そのエルフは本来精霊魔術を修めるのが習わしである。
魔術学院に入学することは構わない。大陸中の有力者の子弟中でも魔術に素養がある者はこぞって入学しているので、彼らとパイプを作る事は有益な事だ。ただ、何の気まぐれかカナデはエルフの本分である精霊魔術ではなく陰陽道を学ぶ事を選択したのだ。
俺のいた世界では陰陽道は世界魔術協会でも有力な魔術一派だったが、この世界では違う。碌な魔術書もなければ教える者もいない、マイナーどころか滅びてもおかしくない魔術なのだ。
そんな役に立つのか分からないし、まともに学ぶことが出来るのかも分からない魔術をエルフの姫が学ぼうと言い出した時、国の誰もが反対した。格式だけの話ではない。国の行く末に関わるからだ。
エルフの国が所在するペペルイの森は現在も途轍もなく広大だが、これは本来の姿ではない。魔王の襲来以前は更に広かったのだという。そこにはエルフだけではなく様々な種族が暮らしており、ダイキチの様なケットシーやアマデオの様な鬼族も含まれていた。それが魔王との戦争で森の範囲が狭まってしまい、多くの種族が狭まった森に集まることで現在はかなり圧迫されているのだそうだ。
もちろん、エルフ達もただ手をこまねいている訳ではない。種を播き、それを精霊魔術により育てて森を広げる努力をしている。ただ、今のところ森の人口密度の緩和に繋がるほどの成果は出ていないということだ。
エルフの族長の一族は、その優れた精霊魔術と地位から森の拡張運動の先陣に立つことが期待されている。中でも膨大な魔力を秘めたカナデは幼い頃から期待されていた。それなのに、役に立つのか全くもって分からない陰陽道に現を抜かすなど許される訳がないのは当然の事だ。
しかし、カナデは反対意見に対して反論した。エルフの宝物庫に納められていた陰陽道の魔術書によれば、陰陽道は木の気を直接操ることが出来る。これを完成させれば森の修復に役立つのではないかと。
これでも完全に反対意見を抑えることは出来なかったが、一応理屈は通っている。陰陽道を学ばせてみて成功したなら良し、成果が出なければ陰陽道は諦める。
その様な取り決めがされたそうだ。
「それで、その期限が……」
「もうそろそろという訳なんだニャー」
そんな事情があるなど全く知らなかった。カナデはその様なそぶりは全く見せなかったのだ。
そして、最近カナデが取り組んでいたのは木気を操って植物を育成するような魔術ではない。元の世界に戻れなくなった俺を送り返すための魔術なのだ。
俺がこの世界に来たのは、原因の一つにカナデの魔術によってこの世界と俺の世界が繋がってしまったという事があるがその繋がったゲートはすぐに消滅してしまっている。直接の原因はその魔術を見た俺が、見様見真似で再現して、不用意にも準備なく自らこの世界に足を踏み入れたことなのだ。
もし、俺がこの世界に来なければ、カナデは自分の目的のための陰陽道の研究を進められただろうし、直接この世界に来ることなしにゲート越しのコンタクトに留めれば、安全な状態で陰陽道に関するレクチャーが出来たかも知れない。
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