魔法使いの弟子とお手伝いさん

クイン

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2話

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 風呂から上がると、ホタルが起きていた。おますは先に湯をいただいたことをあやまるが、ホタルは寝た自分が悪いから気にするなとおますを労った。そしてブランケットをかけてくれたことに感謝したのだった。
 ホタルはそのまま風呂に入りに行った。おますは夕飯の支度に取り掛かる。今日は前に買った豚肉で生姜焼きを作ろうと考えた。ホタルに食事制限のないことは本当に助かる。好き嫌いから始まり、アレルギー体質など、食生活は色々と問題が多い昨今。なんでも食べられると言ってくれたホタルはとてもありがたかった。それだけでおますの仕事の負担が減るのである。だがしかし、そもそも幽霊がごはんを食べるのはいかがなものかとさえ思う。摂取した栄養や排泄物はどうなっているのか? それにどうして彼に触れるのか……? 謎があまりにも多すぎる。今度ハーリーと会うことがあったら問い詰めよう……そんな考えが一瞬で切り替わった。
「あ!」
 醤油のボトルが空だったのだ。これでは生姜焼きのたれをつくることはできない。今からメニューを変えるわけにもいかない……。おますはエプロンを取った。今から買いに行くそう決断を下した。
「いい湯だな、あははん。いい湯だな、あははん」
 と上機嫌に歌っているホタル。浴室のドアを少し開け、
「すいません、買い物にいってきますね」
「おいっす! 気をつけてな」
 世の幽霊好きがこの光景を見たらさぞがっかりするであろう。物語の幽霊はさも恐ろしや~な印象なのに、いい湯だなを歌う幽霊なんかいたら上からたらいが落ちてきそうだ。おますはくすりと笑って、玄関を出た。
 
 屋敷から少し離れた公道。醤油を買ったおますは急いでホタルのいる屋敷に戻っていた。
「おい! 本当にこの辺なのかよ!」
「ああ、確かだよ。おかしいなー」
 ガラの悪そうな三人組の男がスマホをいじりながらあーだこーだと喚いていた。おますは関わりたくないので下に目線を落としながら、すれ違った。
「へー……声かける?」
 タンクトップ姿の男がピアスだらけの男にそう言った。
「いいね、はははは」
 おますの胸の鼓動は激しく刻む。明らかにねちっこく、いやらしい視線をおますは感じる。
「そんなことしてねーでさっさと場所見つけろ!」
 乾いた音とともに――いってー! という声がした。おますは振り返るとうずくまるタンクトップの男。お尻を蹴られたみたいでお尻を撫でていた。ある程度距離を離しても、男達の声は届き、おますは必死に足を動かすのであった。
 
 屋敷の台所でホッと一息をつく、おます。
「おかえり、どうしたんじゃおます。顔が青いぞ」
 心配してくれるホタルの顔を見て、おますやっと落ち着きを取り戻した。
「大丈夫ですよ。ちょっと嫌というか怖いことがありまして」
 幽霊よりも実際生きている人間の方が怖いとはよくいうが、本当にそうだとおますは思った。そしてすぐに晩御飯の準備に取り掛かった。
 夜の七時を越えたあたりで、二人は向かい合って食事をしていた。美味いだったり、明日の晩御飯は何がいいかといった、他者からみたら若いおしどり夫婦にしか見えなかった。何気ない日常の一場面に突如訪れた歪。騒音が二人の耳に入り、食事の手が止まった。
「何?」
「シャッターをあげる音……ガレージだ」
 二人は同時に立ち上がり、ガレージへと向かった。近づくにつれ、人の声が聞こえてきた。
「本当だ! カワサキのZ400FⅩだ」
「こっちはホンダのCBⅩだ」
「な! 俺の言った通りだろ?」
 大きな声で話す覆面をした男達。おますはその声に聞き覚えがあった。そう先ほど道であった男達の声であった。おますは再び、嫌な汗をかく。
「あいつら人の家に勝手に入って単車(バイク)を」
 二人はガレージに一番近い、おますの部屋の窓から、身を隠すようにしゃがんだ状態で、彼らの様子を窺っていた。
 ホタルは腰を上げ、不法侵入者の連中の所に行こうとした。
〝待って!〟とおますはホタルの腕を掴んだ。
「どうして止める?」
「危険です! 凶器を持っているかもしれません」
「しかしだおますよ」
 それでは、先生からいただいたバイクが盗まれるじゃないかと言いたげなホタルの表情。
 おますは今朝の電話のことを思い出した。あれはこのことを報せていたのかもしれない――それならそうと言ってくれたら、なんとでも対処できたのに……。あふれ出てくる不満を噛み殺し、ホタルの腕をより一層強くつかむ。
「おますよ、ちょっ痛てー」
 あ、その言葉を発せられておますは急に手を離した。その勢いでホタルは転倒。そして
「誰だ!」
 外にいる男の一人が叫んだ。
 おますはすぐにホタルに駆け寄り、ホタルを抱き起す。そのまま二人で部屋をでて居間の方に走った。
 
 
 外の男達は屋敷の中から物音がするので警戒を強めた。
「おい、おまえが行ってみてこい」
「え、なんで俺?」
 タンクトップの男が坊主頭の男に抗議する。
「お前がここを見つけて下調べをした。人は誰も住んでいないって言ったよな」
 と睨みを利かす坊主頭の言うことに、しぶしぶ了承するタンクトップの男。屋敷の中をゆっくりと男は土足で進む。夜で、もぬけの殻の日本家屋の中を歩くのは相当不気味であった。
「おいおい、どういうこったぁー誰も住んでないんじゃないのかよ」
 居間には電気がついていた。そして食べかけの食事がある。タンクトップの男は居間に入り、ホタル達が食べ残していた米粒に触る。まだぬくもりのある食べ物に男は青冷めた表情を浮かべながらも、怒声を上げ、自身を鼓舞した。
「隠れてるなら出てこい!」
 誰も住んでいないはずの家にさっきまで食事をしていた形跡。タンクトップの男は不気味で仕方がなかった。男はポケットからサバイバルナイフを取り出す。何が現れてもいいように護身用としてである。
 ホタルとおますは居間の隣にあるホタルの部屋の押し入れの中で息を潜めていた。
 生きてきた中で強盗が家に押しかけてくることなんて初めての体験であり、恐怖がおますの身体を埋め尽くした。止まらない震え、おますは物音を出さないよう必死に努めた。その様子を見たホタル、震えたおますの手を握り、耳元で、
「大丈夫じゃ。必ず守る」
と囁いた。枝のような手や腕、一見頼りなく見えるのだが、今のおますにとってこれほどまでに頼れ、心を落ち着かせるものはなかった。
 タンクトップの男がホタルの部屋に入ってきた。ナイフを突き付けながら部屋を見渡す。
「なんなんだよ、ここは……旧車が置いてあるから盗みに来ただけなのに、下見に来た時よりなんだか、山奥に移動したような感じもするし……気持ちわりー」
 ぶつくさと不満を言うタンクトップの男。彼もこの異様さに恐怖していた。そしてホタルとおますのいる押し入れに目をやった。
 唾を飲み込む――この場にいる全員がそれをした。
 ゆっくりと足音が押し入れの方に向かってくる。タンクトップの男の手が、襖の引手を掴む。ゆっくりと襖が開いていく、ホタルはおますを強く抱きしめた。開かれていく隙間から光が押し入れの中に入ってくる。――もうダメだ!
 おますがそう思った瞬間、
「おい!」
 タンクトップの仲間の一人が居間から叫ぶ。
「いつまでやってんだ、ズらかるぞ!」
 荒い息を吐きながらタンクトップの男は、
「ああ、わかった……」
 そう言って、タンクトップの男はその場を離れた。後、数センチ開かれたいたら完全にホタルとおますは見つかっていたのだった。
 しばらくして辺りから何も聞こえなくなった。
「おますよ……」
「はい」
「カッコ悪いんじゃが、今の俺は腰が抜けて立つことができん」
「『馬が合い』ますね、私もです」
 二人はお互いの顔を見合わせて笑ったのだった。
 
 
 次の日――ガレージを見に行くと、盗まれたのは三台の内、一台だけであった。それもおますが脚立でぶつけたZ400FXであった。
「一台だけで良かったといっていいのでしょうか?」
「まあ、不幸中の幸いといった所じゃ」
 ホタルの顔がとても悲しそうであった。
「警察には連絡したのか?」
「したんですけど、ここにくるまでに土砂災害があってなかなかこれないそうです」
「まったく怠慢じゃのう」
 嘘である。警察になど連絡はしていない。おますはここの生活の中で誤魔化し方が上手くなってきたという実感があった。セクハラのことは不意であり、まったくもって予想外であったため、上手くできなかったが今回は時間があった。それらしいことを並べることができた。加えて、幽霊屋敷と言われた場所で生活している私の身分はどう証明したらいいかわからない。それにホタルは幽霊だ。通報など不可能だと結論付けたおます。
「しかし、あやつらは訳の分からんこと言っていたな……」
 ホタルの発言におますは首を曲げる。
「俺の持っている単車バイクは、みなバイク屋でどれも現在売っているやつじゃぞ。それを旧車扱い……あやつらは何をいっているのだ? わからぬ」
 おますの顔の血の気が引く。――盲点であった。ここに置いている品のほとんどは1980年代に合わせている。まるで時を止めたかのように。あのバイクがここにあるということは、そういうことなのだ。あの男達が窃盗を働く理由――それはもう今は生産されてない珍しいバイクの入手。
 誰かが尋ねてくるから無視――この言葉の意味……それはホタルに現代人との接触をさせないこと――。
「なんとかしないと……」
「そうじゃな、さてと――」
 突然、ホタルがうずくまり、激しい咳を繰り返し始めた。
「大丈夫ですか!」
 返事もできないほどの咳を繰り返すホタル。今まで見たことのないホタルの様子に、困惑と混乱がおますを襲う。とにかく部屋で寝かせるためホタルの肩を抱いた。蝉の鳴き声が、足を重くさせるようだった。
 
 
 
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