奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part1

Б.д もう二度と会わない - 07

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 それで、縄に塗られたろうを燃やしながら、緑色の炎が縄を駆け抜けていき、その通りすがり様、燈篭とうろうまきにも火がつけられる。

 ボワッ――と、緑色の炎が立ち上がり、それを見ている騎士団の騎士達だって、かなり不気味な感じを受けてしまっている。

「……うわあぁっ……!!」

 部族連合の一人が、悲鳴を上げていた。

 空を駆け抜ける緑色の炎を、兢々きょうきょうと凝視していた兵士達の前に――巨大なかたまりが、突然、現れたのである。

 見上げるほどの巨大な人間? ――ではなく、全身、モジャモジャの毛のようなもので覆われ、そして、真っ赤な顔は、ものすごい大きな目玉がついていて、裂けた大きな口元からは、二本だけ長い刃が伸び出ていた。

「……っひ――なんだ、こいつらはっ……!?」
「……なんだっ……!!」

 ユラリと、また巨大な人間が出て来た。暗闇から、のろり、のろりと、また次の一体が現れる。

 20~30人ほどいる部族連合の兵士達の周囲を囲むかのように、巨大な――怪物が迫って来る。

「く、来るなっ……! ……来るなっ……!!」

 部族連合の兵士達が、狂ったように剣を振り回す。

 ウガアァァァァ――!

 人為らざる異形の雄叫おたけびがとどろき、部族連合の兵士達だって、その場で腰を抜かしてしまっていた。

 その隙を狙い、林の陰に潜んでいた騎士団の騎士達が、一斉攻撃を仕掛ける。

「うわっ――!」
「くそっ――――!!」

 だが、時すでに遅し。

 突如、現れたのせいで、戦闘不能に陥ってしまった部族連合の兵士達は、隙どころか、闇雲やみくもに剣を振り回して、必死に目を閉じてしまっていた状態だ。

 その程度の剣での戦いなら、騎士団の騎士達だって、負けていない。
 すぐに、そこに駆けて来た部族連合の伏兵を、全滅させていた。

 これ、ハンスが(もう大喜びで)作った傑作の“モンスター”。
 全身、つたや枝などでモジャモジャにして、こちらも、即興で作った“天狗もどき”の仮面を被っていたのだ。

 巨大に見えたのは、大人の肩に肩車してもらっている子供達の背が加算して、通常の倍の身長に見えてしまったからだ。

 おまけに、モジャモジャと、緑色の炎の反射のおかげで、影が更に巨大に見えたから、部族連合の兵士達だって、だと誤解してしまったのだ。

 音響増幅の為に、の小道具。

 「モンスター」 も、「天狗」 も、この世界には存在しない。「鬼火」 も、存在しない。

 そんな不気味なものが、突然、目の前に現れて、それはそれは、もう、部族連合の兵士達も、度肝を抜かしたことだろう。




 昨夜の戦は、かなり苛烈を極めていた。

 次々に侵攻してくる部族連合の兵士達をなぎ倒し、突き刺し、接戦での斬り合いとなり、その繰り返しで――罠を仕掛けた周辺は、前回とは違い、部族連合のしかばねで埋もれ返るほどの激戦となっていた。

 枡形ますがた虎口こぐちに飛びこんできた部族連合の歩兵たちは、虎口こぐちの後ろで隠れているやり隊に突き刺されるか、その場を通り抜けても、落とし穴に落ち、串刺し状態。

 騎馬兵も少しは突入してきたが、入り口が狭いだけに、向こうも警戒を強め、大した期待できる騎馬兵が侵入してこなかったことだけが、残念な点である。

 だが、それでも、丸馬出まるうまだしを回って侵入してきた騎馬兵達も、簡単に落とし穴に落ち、馬共々、串刺しだ。
 それに追い打ちをかけるように、まだ息のある兵士は、上からの長槍で刺し殺される。

 剣での戦いもできるようにと、落とし穴の向こう側では、剣の騎士達も待機させていたが、その機会は一度も回ってこなかった。

 明け方には――もう、閑散とした周囲だけが残り、撤退した部族連合の騎馬兵だけは取り逃がしたが、それでも、半数以上の部族連合の兵士達は、殲滅せんめつすることができた。

 昨夜の戦で、全戦敗戦を一気に挽回ばんかいし、これで、やっとイーブン以上の勝ちごまを取ったアトレシア大王国だった。

 穴のある領壁付近では、昨日の戦疲れも見せず、朝早くから、騎士団の騎士達により、部族連合の戦死した兵士達の回収が行われていた。戦の後片付けも、しなければならない。

 ここ数日、随分、親切にベッドを譲ってくれた王太子殿下の好意で、ベッドで休息をしていたセシルは、今日はもう起き上がっている。

 端から見たら、まだ顔色も戻っていなく、青白さが目立ち、今にもぶっ倒れるのではないか、とさえも疑わしい様相をしていたが、もうこれ以上、ブレッカの地に居残る理由はセシルにはない。

「こちらが、記載された出費の返済です。確認してもらいたい」

 スッと、フィロが前に出て来て、革袋を受け取った。

 その中を開き、(ご丁寧に) 机の上でお金を数えていく。

「全額返済されています」
「そうですか」

 フィロがお金を革袋にしまっている間、セシルは机の向こう側に座っている王太子殿下を見返す。

「これで、全部、清算したことにしてあげましょう」

 その意味が解からず、王太子殿下は、慎重にセシルを見返しているだけだ。

「今回の王国軍が犯した不義、非礼その他諸々の許されぬ行為も含め、ノーウッド王国の王宮には、報告しないであげます」

 まさか――そんなことをセシルに言われるとは思わず、思ってもいず、王太子殿下も、傍に控えている騎士団団長のハーキンも、微かな驚きを見せる。

「それは――」
「好都合でしょう?」

 それで、王国の醜態しゅうたいから、恥まで、暴露されなくて済むのだから、という暗黙の皮肉だけが落とされる。

 王太子殿下は、無言のまま反論しない。

「もう、二度と会うこともないでしょうから」

 そして、もう二度と会いたくもないから――と、二重の意味合いが混ざって聞こえるのは、絶対に間違いではない。

「もう二度と会いもしない、関わり合いもしない相手に、一々、時間を潰してやる気はないもので」

 それで、今回は――アトレシア大王国の王国軍の非礼は赦免しゃめんされた、と言うのだろうか?

 謝罪程度で許されるような次元の問題でないことくらい、王太子殿下も、騎士団団長のハーキンも、百も承知だ。

 だが、もし――セシルが、本気でノーウッド王国の王宮に報告しないとしゃめん免してくれるのなら、さすがに――アトレシア大王国は、セシルに大きな借りを作ってしまうことになる。

 目の前の二人が考えている、いや懸念しているような思惑など、セシルには全くの興味もない。

 多忙なセシルの時間を、今までも、随分と費やしてくれたものだ。
 もう、さっさとこの地を立ち去って、いなくなりたいくらいである。

「では」

 淡々と、それだけだった。
 付き人を連れ、セシルはさっさとその場を立ち去っていく。

 一度として後ろを振り返ることもなく、もう、顔を見たくないであろうアトレシア大王国側の人間に背を向け、挨拶もなく、その場から――忽然と、その姿も気配も消えていた。

「王太子殿下…………」

 長い溜息ためいきが吐き出され、一体、騎士団長のハーキンも、何が言いたかったのか判らない。

 これで、一応――ブレッカの南の問題は解決した、と言えるのだろう?
 言えるはずだ……。

 なんだか、あまりにすっきりとしない終わり方だったのか、納得いかない――何に納得がいかないのかも分らず――嵐が過ぎ去っていた後の混乱だけが残されたかのような気分だった。

 王太子殿下も微かに眉間を寄せたまま、言葉なし。

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