やっぱりやらねば(続)

Anastasia

文字の大きさ
17 / 45
アイラと廉

その6-01

しおりを挟む
「アイラ、アイラのお母さんから電話だよ」

 クローゼットを片していたアイラは廉を振り返って、出された電話を受け取った。

「なあに、ママ?」
「アイラ? ――あら、良かったわ。やっと繋がったから」

 アイラのアパートの引き払いを決定したその次の週には、アイラは、ほとんどの持ち物を、廉のアパートに運び終わっていた。

 元々、ニュージーランドから送ってきた荷物で、冬物などは、まだ箱詰め状態だったので、それを運び出すだけで終わり、アイラの今の洋服などは、まとめてスーツケースに詰め込んで運んだので、それも大した時間はかからなかったのだ。

 他の小物類や身の回りの所持品なども、仕事を終えて帰ってきたアイラが、簡単に箱に詰めていったので、昨日の土曜に、廉の車で運び込んで、それもほとんど終わっていた。

 電化製品で持っているものと言えば、キッチン用品がほとんどで、冷蔵庫と洗濯機などはレンタルにしてあったので、それを返品して、大きな荷物はほとんどなくなっていた。

 ここに来て買ったベッドは売りに出すことにして、中古屋に卸そうかと考えたのだったが、新聞に広告を出したら、次の日に買い手が見つかった。

 新品だったので、かなりの値段で引き取ってもらえて、そっちもホクホクで始末がついたアイラだった。

 それで、昨日、廉と二人で荷物を運び終わり、簡単なものをほどき始めたアイラだ。

 今日は、洋服をしまい込んで、それで終わらせる予定だったのだ。

 アイラの洋服やら、その他、諸々の所持品が多いので、先にアイラが好きなようにクローゼットを整理したら、廉も自分の洋服の必要な分だけを、こっちの部屋に運んでくることになっている。

 廉が両親と何を話したかは知らないが、アパートの件は大した問題でもなかったようで、アイラが移ってくるので、廉とアイラは廉の両親用だった、エンスーツの大きな寝室に移ることにしたのだ。
 それで、廉の自室の部屋の荷物も、ある程度は移動する必要があったのだ。

 それとは反対に、先週の電話から、その後、プッツリ連絡が途切れてしまって、確認したくてしたくて、うずうずしているアイラの母親の気持ちも知らず。

 アイラは自分のアパートの電話を切ってしまっていたし、平日の仕事がある時では長電話できない――と、判断したアイラの母親は、週末が来るのを待ち遠しげに待っていたことを、アイラは全く知らない。

 それで、昨日も、廉の所に電話をしてみたが、引越しの移動で忙しかった二人は、電話があったことも知らず、それで、まだか、まだか――と、うずうずしていたアイラの母親は、今日やっと、娘を掴まえることができたのだ。

 この場合、アイラの携帯電話に直接電話する、という手もあったのだが、昔から、自活していたアイラは仕事で忙しく、仕事中は携帯を持ち歩いていないので、滅多に、携帯でアイラが捕まったことがなかった。

 だから、家の方の電話に連絡するのが、一番確実な方法な為、アイラの母親も、ずっと待たされてしまったのだ。

「昨日もね、ちょっと電話してみたのよ」
「ああ、そうだったの。昨日は、移動で忙しかったから」

「もう、引越し済ませたの?」
「そうね。ほとんどの荷物も箱詰めだったし、ベッド以外は、大きな荷物もなかったから」

「じゃあ、アパートは、全部、引き払っちゃったの? ――今月末に引越しかと思ってたわ」
「期日は来月の中頃までだし、急ぐ必要はないけど、荷物もそんなにないから。今週でも、来週でも、引越しは大した変わらないかな」

「じゃあ、あっちには、もう戻らないの?」
「掃除をまだ済ませてないから、来週は掃除かな。でも、荷物はないから、戻る必要はないわね」

 そうなの、へえぇ――と、電話の向こうでは、不思議に、深く納得している母親の気配だった。

 アイラは電話を片手に、自分の洋服をクローゼットに掛けていっているので、そこら辺の微妙なニュアンスは聞き逃していた。

「それで?」
「それで? ――なに?」

 アイラは不思議に聞き返す。

「ねえ、そこら辺の事情が抜けてると思わない? ママは、全然、そこら辺の話を、聞いていないんだけど」
「あれ? そうだっけ」

「そうよぉ。全然、聞いてないわよ」

 どういうことよ――と、アイラの母親の口調は、ちょっとアイラを責めている。

 ここずっと仕事で忙しかったし、廉と毎日一緒にいるものだから、そこら辺の説明は、もうとっくの昔にしたものだと、すっかり忘れていたアイラだった。

「いつからなの? その話だって、聞いてないのにぃ」

 もう――プンプンと、アイラの母親が拗ねているのは間違いなかった。

 ころっと、アイラの母親に話すことを忘れていたアイラだったので、アイラの母親が拗ねる理由も、簡単に納得していた。

「ごめーん。もう、話したと思って、忘れてたわ」

「聞いてないわよ、ママは。ねえ、いつからなの? どうやって、二人で暮らすことになったの? 一緒に暮らすんだから――結婚?」

「そんなのしないわよ」

 最後の質問はあっさり否定されて、そこでガックリするアイラの母親グレナだったが、それでも、まだ望みは捨て切れないのである。

「じゃあ、なに? ねえね、そこら辺の事情が、全部、抜けてるのよ。ママは、全然、聞いていません」

 この様子だと、簡単には終わらせてくれなさそうで、それでアイラも片すのをそこでやめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...