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アイラと廉
その6-01
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「アイラ、アイラのお母さんから電話だよ」
クローゼットを片していたアイラは廉を振り返って、出された電話を受け取った。
「なあに、ママ?」
「アイラ? ――あら、良かったわ。やっと繋がったから」
アイラのアパートの引き払いを決定したその次の週には、アイラは、ほとんどの持ち物を、廉のアパートに運び終わっていた。
元々、ニュージーランドから送ってきた荷物で、冬物などは、まだ箱詰め状態だったので、それを運び出すだけで終わり、アイラの今の洋服などは、まとめてスーツケースに詰め込んで運んだので、それも大した時間はかからなかったのだ。
他の小物類や身の回りの所持品なども、仕事を終えて帰ってきたアイラが、簡単に箱に詰めていったので、昨日の土曜に、廉の車で運び込んで、それもほとんど終わっていた。
電化製品で持っているものと言えば、キッチン用品がほとんどで、冷蔵庫と洗濯機などはレンタルにしてあったので、それを返品して、大きな荷物はほとんどなくなっていた。
ここに来て買ったベッドは売りに出すことにして、中古屋に卸そうかと考えたのだったが、新聞に広告を出したら、次の日に買い手が見つかった。
新品だったので、かなりの値段で引き取ってもらえて、そっちもホクホクで始末がついたアイラだった。
それで、昨日、廉と二人で荷物を運び終わり、簡単なものをほどき始めたアイラだ。
今日は、洋服をしまい込んで、それで終わらせる予定だったのだ。
アイラの洋服やら、その他、諸々の所持品が多いので、先にアイラが好きなようにクローゼットを整理したら、廉も自分の洋服の必要な分だけを、こっちの部屋に運んでくることになっている。
廉が両親と何を話したかは知らないが、アパートの件は大した問題でもなかったようで、アイラが移ってくるので、廉とアイラは廉の両親用だった、エンスーツの大きな寝室に移ることにしたのだ。
それで、廉の自室の部屋の荷物も、ある程度は移動する必要があったのだ。
それとは反対に、先週の電話から、その後、プッツリ連絡が途切れてしまって、確認したくてしたくて、うずうずしているアイラの母親の気持ちも知らず。
アイラは自分のアパートの電話を切ってしまっていたし、平日の仕事がある時では長電話できない――と、判断したアイラの母親は、週末が来るのを待ち遠しげに待っていたことを、アイラは全く知らない。
それで、昨日も、廉の所に電話をしてみたが、引越しの移動で忙しかった二人は、電話があったことも知らず、それで、まだか、まだか――と、うずうずしていたアイラの母親は、今日やっと、娘を掴まえることができたのだ。
この場合、アイラの携帯電話に直接電話する、という手もあったのだが、昔から、自活していたアイラは仕事で忙しく、仕事中は携帯を持ち歩いていないので、滅多に、携帯でアイラが捕まったことがなかった。
だから、家の方の電話に連絡するのが、一番確実な方法な為、アイラの母親も、ずっと待たされてしまったのだ。
「昨日もね、ちょっと電話してみたのよ」
「ああ、そうだったの。昨日は、移動で忙しかったから」
「もう、引越し済ませたの?」
「そうね。ほとんどの荷物も箱詰めだったし、ベッド以外は、大きな荷物もなかったから」
「じゃあ、アパートは、全部、引き払っちゃったの? ――今月末に引越しかと思ってたわ」
「期日は来月の中頃までだし、急ぐ必要はないけど、荷物もそんなにないから。今週でも、来週でも、引越しは大した変わらないかな」
「じゃあ、あっちには、もう戻らないの?」
「掃除をまだ済ませてないから、来週は掃除かな。でも、荷物はないから、戻る必要はないわね」
そうなの、へえぇ――と、電話の向こうでは、不思議に、深く納得している母親の気配だった。
アイラは電話を片手に、自分の洋服をクローゼットに掛けていっているので、そこら辺の微妙なニュアンスは聞き逃していた。
「それで?」
「それで? ――なに?」
アイラは不思議に聞き返す。
「ねえ、そこら辺の事情が抜けてると思わない? ママは、全然、そこら辺の話を、聞いていないんだけど」
「あれ? そうだっけ」
「そうよぉ。全然、聞いてないわよ」
どういうことよ――と、アイラの母親の口調は、ちょっとアイラを責めている。
ここずっと仕事で忙しかったし、廉と毎日一緒にいるものだから、そこら辺の説明は、もうとっくの昔にしたものだと、すっかり忘れていたアイラだった。
「いつからなの? その話だって、聞いてないのにぃ」
もう――プンプンと、アイラの母親が拗ねているのは間違いなかった。
ころっと、アイラの母親に話すことを忘れていたアイラだったので、アイラの母親が拗ねる理由も、簡単に納得していた。
「ごめーん。もう、話したと思って、忘れてたわ」
「聞いてないわよ、ママは。ねえ、いつからなの? どうやって、二人で暮らすことになったの? 一緒に暮らすんだから――結婚?」
「そんなのしないわよ」
最後の質問はあっさり否定されて、そこでガックリするアイラの母親グレナだったが、それでも、まだ望みは捨て切れないのである。
「じゃあ、なに? ねえね、そこら辺の事情が、全部、抜けてるのよ。ママは、全然、聞いていません」
この様子だと、簡単には終わらせてくれなさそうで、それでアイラも片すのをそこでやめていた。
クローゼットを片していたアイラは廉を振り返って、出された電話を受け取った。
「なあに、ママ?」
「アイラ? ――あら、良かったわ。やっと繋がったから」
アイラのアパートの引き払いを決定したその次の週には、アイラは、ほとんどの持ち物を、廉のアパートに運び終わっていた。
元々、ニュージーランドから送ってきた荷物で、冬物などは、まだ箱詰め状態だったので、それを運び出すだけで終わり、アイラの今の洋服などは、まとめてスーツケースに詰め込んで運んだので、それも大した時間はかからなかったのだ。
他の小物類や身の回りの所持品なども、仕事を終えて帰ってきたアイラが、簡単に箱に詰めていったので、昨日の土曜に、廉の車で運び込んで、それもほとんど終わっていた。
電化製品で持っているものと言えば、キッチン用品がほとんどで、冷蔵庫と洗濯機などはレンタルにしてあったので、それを返品して、大きな荷物はほとんどなくなっていた。
ここに来て買ったベッドは売りに出すことにして、中古屋に卸そうかと考えたのだったが、新聞に広告を出したら、次の日に買い手が見つかった。
新品だったので、かなりの値段で引き取ってもらえて、そっちもホクホクで始末がついたアイラだった。
それで、昨日、廉と二人で荷物を運び終わり、簡単なものをほどき始めたアイラだ。
今日は、洋服をしまい込んで、それで終わらせる予定だったのだ。
アイラの洋服やら、その他、諸々の所持品が多いので、先にアイラが好きなようにクローゼットを整理したら、廉も自分の洋服の必要な分だけを、こっちの部屋に運んでくることになっている。
廉が両親と何を話したかは知らないが、アパートの件は大した問題でもなかったようで、アイラが移ってくるので、廉とアイラは廉の両親用だった、エンスーツの大きな寝室に移ることにしたのだ。
それで、廉の自室の部屋の荷物も、ある程度は移動する必要があったのだ。
それとは反対に、先週の電話から、その後、プッツリ連絡が途切れてしまって、確認したくてしたくて、うずうずしているアイラの母親の気持ちも知らず。
アイラは自分のアパートの電話を切ってしまっていたし、平日の仕事がある時では長電話できない――と、判断したアイラの母親は、週末が来るのを待ち遠しげに待っていたことを、アイラは全く知らない。
それで、昨日も、廉の所に電話をしてみたが、引越しの移動で忙しかった二人は、電話があったことも知らず、それで、まだか、まだか――と、うずうずしていたアイラの母親は、今日やっと、娘を掴まえることができたのだ。
この場合、アイラの携帯電話に直接電話する、という手もあったのだが、昔から、自活していたアイラは仕事で忙しく、仕事中は携帯を持ち歩いていないので、滅多に、携帯でアイラが捕まったことがなかった。
だから、家の方の電話に連絡するのが、一番確実な方法な為、アイラの母親も、ずっと待たされてしまったのだ。
「昨日もね、ちょっと電話してみたのよ」
「ああ、そうだったの。昨日は、移動で忙しかったから」
「もう、引越し済ませたの?」
「そうね。ほとんどの荷物も箱詰めだったし、ベッド以外は、大きな荷物もなかったから」
「じゃあ、アパートは、全部、引き払っちゃったの? ――今月末に引越しかと思ってたわ」
「期日は来月の中頃までだし、急ぐ必要はないけど、荷物もそんなにないから。今週でも、来週でも、引越しは大した変わらないかな」
「じゃあ、あっちには、もう戻らないの?」
「掃除をまだ済ませてないから、来週は掃除かな。でも、荷物はないから、戻る必要はないわね」
そうなの、へえぇ――と、電話の向こうでは、不思議に、深く納得している母親の気配だった。
アイラは電話を片手に、自分の洋服をクローゼットに掛けていっているので、そこら辺の微妙なニュアンスは聞き逃していた。
「それで?」
「それで? ――なに?」
アイラは不思議に聞き返す。
「ねえ、そこら辺の事情が抜けてると思わない? ママは、全然、そこら辺の話を、聞いていないんだけど」
「あれ? そうだっけ」
「そうよぉ。全然、聞いてないわよ」
どういうことよ――と、アイラの母親の口調は、ちょっとアイラを責めている。
ここずっと仕事で忙しかったし、廉と毎日一緒にいるものだから、そこら辺の説明は、もうとっくの昔にしたものだと、すっかり忘れていたアイラだった。
「いつからなの? その話だって、聞いてないのにぃ」
もう――プンプンと、アイラの母親が拗ねているのは間違いなかった。
ころっと、アイラの母親に話すことを忘れていたアイラだったので、アイラの母親が拗ねる理由も、簡単に納得していた。
「ごめーん。もう、話したと思って、忘れてたわ」
「聞いてないわよ、ママは。ねえ、いつからなの? どうやって、二人で暮らすことになったの? 一緒に暮らすんだから――結婚?」
「そんなのしないわよ」
最後の質問はあっさり否定されて、そこでガックリするアイラの母親グレナだったが、それでも、まだ望みは捨て切れないのである。
「じゃあ、なに? ねえね、そこら辺の事情が、全部、抜けてるのよ。ママは、全然、聞いていません」
この様子だと、簡単には終わらせてくれなさそうで、それでアイラも片すのをそこでやめていた。
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