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Act1. 出逢い
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No Love Life『NLL』。2035年から施行された特殊な法律によってこの世界から愛という言葉が消えた。本来愛とは男女間は勿論のこと、家族や友人、同性なんかでも育まれていく大事なもの。しかしこの世の中、とうの昔から腐ってしまっていたが故に様々な問題が日本を超えて各国で問題視され根本的な問題解決を目論んだ各国政府が大胆な法律を強行して施行させた。
『NLL』が施行されてからというもの、国民は国に監視され、完全な束縛的非自由な国と化し、それは日本に留まらずアメリカやイギリス、そして小さな国々までも拡大していった。やはりどの国々でもそのあまりにも強引で身勝手な法律を認めることが出来ない人々が政府に対して抗議のデモを行ったところは少なくない。だが国はそれを良しとはせず、抗議を起こした人々を一人残らずこれまた『NLL』が出来てから各国に作られた『アイランド』へと収監されてしまった。
『アイランド』は三段階に分けられていて、それぞれA、B、Cと地区が分けられている。アイランドは日本列島のやや東部に政府が作った。アイランドに収監された人々は非国民として扱われ、そこを出るには最低でも七年、長くて十年再教育を受けなければならない。
2038年からはデモを行っていない人でさえも無作為に選ばれ収監されてしまう。毎年何万人という人がアイランドに収監され、再教育を受けなければならない。日本国は最終的に日本国民全員から『愛』という言葉を無くそうとしていた。そしてそれから十数年が経ち、年を重ねる度に収監されていく人の数は増えていき、それから少しと経たずに完全にこの世界から愛が消えてしまった。
2067年。アイランドB地区第5エリアで僕は生まれ育った。現在15歳の僕はアイランドの中で人工授精によって生まれた。第5エリア南部にある少し大きめの町で、僕は養育所にて育てられていた。この街は基本NLL施行後に生まれてきた人が収監される場所で、この町で僕達は『教育』される。
基本的に僕達は特殊な遺伝子操作と、産まれた時に特殊な電波によって脳を局部的に刺激する。そうすることによって確実に僕達の脳から『愛』という言葉自体が、そういう感情が起こらないように操作されているのだ。
そういう子達のことを『NLC』と呼び、僕もその一人だった。五歳になるととある施設に移されそこで本格的に教育を受ける。同じ境遇の子達も沢山そこにいて、基本的に友達として遊んだり笑い合ったりすることはあるけれど、どんなに年を重ねても相手に対して好意は湧かない。唯一認識するとすれば『ただの同世代の子』程度でありそれ以上でもそれ以下でもない。
町外れの森の奥、霧がかかったなんとも薄気味悪い川の辺で僕はただぽつんと一人水面を見つめていた。時折小魚が少しの数群れをなし水面付近を泳ぎ、その度にそれは小さな波となって円状に広がる。小石を側から拾って川の奥の方へと軽く投げると、ぽちゃん──と、音が聴こえてくる。その音がどこか心地よくて二度三度それを繰り返す。流石に飽きると僕は立ち上がりその場を後にした。
少し歩いて、喉が乾いたので自動販売機でジュースを購入した。炭酸ジュースなので、喉が渇いていた僕は缶の蓋を少し手間取りながら空けて、少し空気が抜ける音を聴いてそれを一気に喉の奥へと流し込んだ。シュワシュワと泡の弾ける刺激とジュースの爽快感とがベストにマッチしていて、僕の喉の乾きを潤すには十分だった。
それから近くの公園に寄ってブランコに乗る。周りには誰も人がいなくて、いるのはただ一人僕だけ。ちょっと寂しいけれどその気持ちを紛らわす為に僕はブランコの揺れる速さを上げた。
かなり高くまで上がるようになってから、怖くなってきたのであとはなるようになるままに落ちないようにしっかりとチェーンを握っていた。
僕は目を瞑る。特に考えることなんてないけれど、目を瞑る。今日の朝ご飯のことくらいしか思い付かなくて、それでいてそれが馬鹿らしくなって公園で一人笑ってしまった。すると左側のブランコが揺れ始める音が聴こえて、僕は咄嗟に目を開ける。するとそこには僕と同い年くらいの女の子がブランコに乗っていた。
「ねぇ、今何で笑っていたの?」
彼女は端正な顔立ちで、肌は白く髪は長くサラサラで、スタイルも良かった。
「別になんでもないよ。ただ考え事してただけ」
「そうなんだ。でも一人で笑っちゃう程面白いこと考えてたんでしょ? どんなこと考えてたの?」
正直顔から火を噴きそうな程だった。慌ててブランコから降りて彼女を見た。悪戯っぽい笑みを浮かべて彼女はそう僕に訊いた。ちょっと僕は意地を張って「なんだっていいだろ」と答えて公園から出るべく歩き出した。
「ねぇ、待ってよ。どこに行くの?」
後ろから少し距離を取りつつ彼女が着いてくる。僕はそれをうざったく感じて歩調を早める。すると彼女もそれに合わせようと早めてくる。どんどんお互いに早めていると後ろで「いたっ」と声が上がり、足音が止んだ。
振り返ってみると、彼女は膝を抱えて痛そうに「うぅ~」と唸っていた。心配になり近付いて「大丈夫?」と声をかける。
その瞬間ばっと彼女は立ち上がり僕の腕を掴んで満面の笑みで「捕まえたぞっ」と言うのだから僕は呆れて「見捨てれば良かった」 と愚痴をこぼした。
「私の名前はユラ。貴方は?」
「いきなりどうしたの?」
「別にそんなこと気にしなくていいよ。私は貴方の名前が知りたいな」
上目遣いでそう訊く彼女は近くのベンチに座り込むと先程まで痛そうにしていなかった右足首を摩っていた。
「さっきのは僕を捕まえるための演技じゃなかったの?」
「……お恥ずかしながら実は本当に足をくじいちゃってました……」
馬鹿なのかコイツはと思いながらも彼女を背にしてしゃがむ。彼女は?マークだ。
「ほら、早く」
「え、何が?」
「……おんぶだよ。歩けないんだろ?」
「歩けないことはないけど……じゃあお言葉に甘えて……」
そう言うと彼女は僕の肩を支えにして僕に体を預ける。やっぱり女の子だから軽い。僕は施設に帰るべく歩みを進めた。それにしてもこのエリアは特に変な場所だ。森や川がありながら少し歩くと現代感ある公園や自動販売機。そんなことを考えながら歩いて二十分。若干休憩を入れながら歩いていると施設に着いた。
「……ありがとう」
背中から下りた彼女が少し恥ずかしそうに僕にお礼を言う。何故恥ずかしそうにしているのか僕には分からなかった。
「別にいいよ。それよりも足、早く治療を受けた方がいいよ」
そう言うと彼女は頷いて「またね」と手を振って後から来た施設のスタッフの人と共に中へと消えていった。
「ん? ……またね?」
その時はまだ、僕には彼女のことが全く分かり得なかった。
『NLL』が施行されてからというもの、国民は国に監視され、完全な束縛的非自由な国と化し、それは日本に留まらずアメリカやイギリス、そして小さな国々までも拡大していった。やはりどの国々でもそのあまりにも強引で身勝手な法律を認めることが出来ない人々が政府に対して抗議のデモを行ったところは少なくない。だが国はそれを良しとはせず、抗議を起こした人々を一人残らずこれまた『NLL』が出来てから各国に作られた『アイランド』へと収監されてしまった。
『アイランド』は三段階に分けられていて、それぞれA、B、Cと地区が分けられている。アイランドは日本列島のやや東部に政府が作った。アイランドに収監された人々は非国民として扱われ、そこを出るには最低でも七年、長くて十年再教育を受けなければならない。
2038年からはデモを行っていない人でさえも無作為に選ばれ収監されてしまう。毎年何万人という人がアイランドに収監され、再教育を受けなければならない。日本国は最終的に日本国民全員から『愛』という言葉を無くそうとしていた。そしてそれから十数年が経ち、年を重ねる度に収監されていく人の数は増えていき、それから少しと経たずに完全にこの世界から愛が消えてしまった。
2067年。アイランドB地区第5エリアで僕は生まれ育った。現在15歳の僕はアイランドの中で人工授精によって生まれた。第5エリア南部にある少し大きめの町で、僕は養育所にて育てられていた。この街は基本NLL施行後に生まれてきた人が収監される場所で、この町で僕達は『教育』される。
基本的に僕達は特殊な遺伝子操作と、産まれた時に特殊な電波によって脳を局部的に刺激する。そうすることによって確実に僕達の脳から『愛』という言葉自体が、そういう感情が起こらないように操作されているのだ。
そういう子達のことを『NLC』と呼び、僕もその一人だった。五歳になるととある施設に移されそこで本格的に教育を受ける。同じ境遇の子達も沢山そこにいて、基本的に友達として遊んだり笑い合ったりすることはあるけれど、どんなに年を重ねても相手に対して好意は湧かない。唯一認識するとすれば『ただの同世代の子』程度でありそれ以上でもそれ以下でもない。
町外れの森の奥、霧がかかったなんとも薄気味悪い川の辺で僕はただぽつんと一人水面を見つめていた。時折小魚が少しの数群れをなし水面付近を泳ぎ、その度にそれは小さな波となって円状に広がる。小石を側から拾って川の奥の方へと軽く投げると、ぽちゃん──と、音が聴こえてくる。その音がどこか心地よくて二度三度それを繰り返す。流石に飽きると僕は立ち上がりその場を後にした。
少し歩いて、喉が乾いたので自動販売機でジュースを購入した。炭酸ジュースなので、喉が渇いていた僕は缶の蓋を少し手間取りながら空けて、少し空気が抜ける音を聴いてそれを一気に喉の奥へと流し込んだ。シュワシュワと泡の弾ける刺激とジュースの爽快感とがベストにマッチしていて、僕の喉の乾きを潤すには十分だった。
それから近くの公園に寄ってブランコに乗る。周りには誰も人がいなくて、いるのはただ一人僕だけ。ちょっと寂しいけれどその気持ちを紛らわす為に僕はブランコの揺れる速さを上げた。
かなり高くまで上がるようになってから、怖くなってきたのであとはなるようになるままに落ちないようにしっかりとチェーンを握っていた。
僕は目を瞑る。特に考えることなんてないけれど、目を瞑る。今日の朝ご飯のことくらいしか思い付かなくて、それでいてそれが馬鹿らしくなって公園で一人笑ってしまった。すると左側のブランコが揺れ始める音が聴こえて、僕は咄嗟に目を開ける。するとそこには僕と同い年くらいの女の子がブランコに乗っていた。
「ねぇ、今何で笑っていたの?」
彼女は端正な顔立ちで、肌は白く髪は長くサラサラで、スタイルも良かった。
「別になんでもないよ。ただ考え事してただけ」
「そうなんだ。でも一人で笑っちゃう程面白いこと考えてたんでしょ? どんなこと考えてたの?」
正直顔から火を噴きそうな程だった。慌ててブランコから降りて彼女を見た。悪戯っぽい笑みを浮かべて彼女はそう僕に訊いた。ちょっと僕は意地を張って「なんだっていいだろ」と答えて公園から出るべく歩き出した。
「ねぇ、待ってよ。どこに行くの?」
後ろから少し距離を取りつつ彼女が着いてくる。僕はそれをうざったく感じて歩調を早める。すると彼女もそれに合わせようと早めてくる。どんどんお互いに早めていると後ろで「いたっ」と声が上がり、足音が止んだ。
振り返ってみると、彼女は膝を抱えて痛そうに「うぅ~」と唸っていた。心配になり近付いて「大丈夫?」と声をかける。
その瞬間ばっと彼女は立ち上がり僕の腕を掴んで満面の笑みで「捕まえたぞっ」と言うのだから僕は呆れて「見捨てれば良かった」 と愚痴をこぼした。
「私の名前はユラ。貴方は?」
「いきなりどうしたの?」
「別にそんなこと気にしなくていいよ。私は貴方の名前が知りたいな」
上目遣いでそう訊く彼女は近くのベンチに座り込むと先程まで痛そうにしていなかった右足首を摩っていた。
「さっきのは僕を捕まえるための演技じゃなかったの?」
「……お恥ずかしながら実は本当に足をくじいちゃってました……」
馬鹿なのかコイツはと思いながらも彼女を背にしてしゃがむ。彼女は?マークだ。
「ほら、早く」
「え、何が?」
「……おんぶだよ。歩けないんだろ?」
「歩けないことはないけど……じゃあお言葉に甘えて……」
そう言うと彼女は僕の肩を支えにして僕に体を預ける。やっぱり女の子だから軽い。僕は施設に帰るべく歩みを進めた。それにしてもこのエリアは特に変な場所だ。森や川がありながら少し歩くと現代感ある公園や自動販売機。そんなことを考えながら歩いて二十分。若干休憩を入れながら歩いていると施設に着いた。
「……ありがとう」
背中から下りた彼女が少し恥ずかしそうに僕にお礼を言う。何故恥ずかしそうにしているのか僕には分からなかった。
「別にいいよ。それよりも足、早く治療を受けた方がいいよ」
そう言うと彼女は頷いて「またね」と手を振って後から来た施設のスタッフの人と共に中へと消えていった。
「ん? ……またね?」
その時はまだ、僕には彼女のことが全く分かり得なかった。
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