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三木の干殺し
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山中幸盛は敗走途中、追手の真壁次郎四郎を討ち取り、上月城へと逃げ込んだが、再び兵を出す余力はなく、籠城し援軍を待つ構えをとる。
花房職秀は後藤勝基の三星城を包囲し孤立させた。美作の城同士の連絡を断ち切り、背後から攻撃される恐れをなくす。
そして、宇喜多直家は再び兵を天神山城に集結させた。
「全軍、準備が整いました!」
直家の号令で、兵士が烈火のごとく城に攻め上る。
城攻めを中断しての周囲の平定は良い方に転んだ。前線で城を攻めていた兵士たちは、休息が取れ士気も十分。装備も新たに、攻め取った曲輪から攻撃を開始できる。逆に籠城側の兵士は、目の前に陣取られ、気が休まらぬまま日々を過ごしていた。
援軍が来るという可能性だけが、希望であったが、その時になっても、天神山城の兵には希望の元、直家にとっては最大の杞憂であった羽柴秀吉の兵は、姫路城から一歩も西へは進んでいないとの話が広がると、絶望に染まる。そして、出雲から吉川元春が上月城を目指して進軍すると、後先考えす逃げ出そうとする者が現れ始めた。それは、兵を率いる武将たちとて同じである。
「日笠青山城・城主、日笠頼房が城を捨てて逃走いたしました」
「逃げ出す者は放っておけ」
「明石景親より、降伏の申し出が来ております! 了承なされるなら、先陣を切って二の丸に攻め入るとの事です」
「延原景能、大田原長時、岡本氏秀の連名により、降伏を申し出ております」
「これで、城も落ちるか……」
初めから希望がなければ、どんな苦痛にも耐えられる。何も持たなければ闇の中を彷徨うのに次第になれるが、闇を照らせない小さな光でも、失えば道を見失う。
浦上宗景の腹心から次々と送られてくる降伏の申し出に、安堵しながらも喉につっかえて呑み込めない不快感を感じていた。
「浦上宗景らしき人物が、数人の護衛と共に、馬で街道を南へ向かっております!」
城攻めで城主の逃走。戦を終わりを告げる最後の知らせだった。そして、浦上家を主君と呼べなくなる知らせでもあった。
「街道を空けて、行きたい所へ向かわせよ」
「……逃がしても、よろしいのですか?」
「追うな」
最後に出来る事と言えば、その背を見送るくらい、他に出来る事など何もなかった。
今にして思えば、初めから、そういう関係であったのかもしれなかった。
「……手柄を立てさせる機会を、ふいに、させてしまったか…………街道を守っていた兵士たちには、恩賞を用意しよう」
白々しく強がっている子供のような言葉だと感じたが、それ以上、言葉を付け加えるのは、やめた。
羽柴秀吉が兵を動かせなかったのは、黒田職隆の描いた策略の通りに、播磨の東で三木城の別所長治が織田信長に反旗を翻したからだった。
三木城を包囲したまでは良かったが、さらに東で、有岡城の荒木村重が反旗を翻し、援軍を送られる見込みが無くなると、三木城を包囲したまま戦うでもなく退くでもなく、動きを止めていたのだった。
「我らの勝利も、別所の挙兵があってこそ。直ぐ助けに行くべきだ!」
忠家が床を叩いて、吼えた。
三万の羽柴兵に囲まれた三木城には、周辺の村人も逃げ込んでいた。事前に籠城の準備を整えてはいても、探るまでもなく城の中の様子を察する事が出来た。
「吉川元春殿が上月城を包囲しても、しらぬ顔か。羽柴秀吉、聞いていたより切れ者かもしれん」
合戦において数の有利は揺るぎない勝利への条件である。しかし、どんな大軍で大勝しようとも、戦えば消耗する。傷を負い、武器の刃は鈍り、戦いの高揚感が過ぎ去れば、気力と体力を失う。消耗した兵など物の数ではないのだ。
一度でも戦火を交えた後には、休息が必要。だからこそ、動かぬ羽柴秀吉の兵を攻められないのだ。
味方を増やすために他の城に救援に向かうか、背後に敵を抱えないために包囲した城を落としにかかれば、次の敵と戦う時には、前線に立てる兵の数は増える。だが、消耗した兵だ。前線は消耗した兵から崩れ、勢いに乗った敵に蹂躙され、大軍が敗北する。
「はい、宇喜多全軍で羽柴秀吉を攻めたとしても、包囲を破るのにどれだけの時間がかかるか……」
「それも、荒木村重が後方を抑えていればだ。勝ったとはいえ城を攻めた後、直ぐには動けん。織田信長が東の兵を送って来れば、長くは持つまい」
「三木城も、……ですが」
「そうだな、民を助けるためには、戦に勝たねばならない。負ければ、何も守れん。だが、連戦しても敗北を知らぬは、兵の命を顧みぬ覇者のみ……か」
花房職秀は後藤勝基の三星城を包囲し孤立させた。美作の城同士の連絡を断ち切り、背後から攻撃される恐れをなくす。
そして、宇喜多直家は再び兵を天神山城に集結させた。
「全軍、準備が整いました!」
直家の号令で、兵士が烈火のごとく城に攻め上る。
城攻めを中断しての周囲の平定は良い方に転んだ。前線で城を攻めていた兵士たちは、休息が取れ士気も十分。装備も新たに、攻め取った曲輪から攻撃を開始できる。逆に籠城側の兵士は、目の前に陣取られ、気が休まらぬまま日々を過ごしていた。
援軍が来るという可能性だけが、希望であったが、その時になっても、天神山城の兵には希望の元、直家にとっては最大の杞憂であった羽柴秀吉の兵は、姫路城から一歩も西へは進んでいないとの話が広がると、絶望に染まる。そして、出雲から吉川元春が上月城を目指して進軍すると、後先考えす逃げ出そうとする者が現れ始めた。それは、兵を率いる武将たちとて同じである。
「日笠青山城・城主、日笠頼房が城を捨てて逃走いたしました」
「逃げ出す者は放っておけ」
「明石景親より、降伏の申し出が来ております! 了承なされるなら、先陣を切って二の丸に攻め入るとの事です」
「延原景能、大田原長時、岡本氏秀の連名により、降伏を申し出ております」
「これで、城も落ちるか……」
初めから希望がなければ、どんな苦痛にも耐えられる。何も持たなければ闇の中を彷徨うのに次第になれるが、闇を照らせない小さな光でも、失えば道を見失う。
浦上宗景の腹心から次々と送られてくる降伏の申し出に、安堵しながらも喉につっかえて呑み込めない不快感を感じていた。
「浦上宗景らしき人物が、数人の護衛と共に、馬で街道を南へ向かっております!」
城攻めで城主の逃走。戦を終わりを告げる最後の知らせだった。そして、浦上家を主君と呼べなくなる知らせでもあった。
「街道を空けて、行きたい所へ向かわせよ」
「……逃がしても、よろしいのですか?」
「追うな」
最後に出来る事と言えば、その背を見送るくらい、他に出来る事など何もなかった。
今にして思えば、初めから、そういう関係であったのかもしれなかった。
「……手柄を立てさせる機会を、ふいに、させてしまったか…………街道を守っていた兵士たちには、恩賞を用意しよう」
白々しく強がっている子供のような言葉だと感じたが、それ以上、言葉を付け加えるのは、やめた。
羽柴秀吉が兵を動かせなかったのは、黒田職隆の描いた策略の通りに、播磨の東で三木城の別所長治が織田信長に反旗を翻したからだった。
三木城を包囲したまでは良かったが、さらに東で、有岡城の荒木村重が反旗を翻し、援軍を送られる見込みが無くなると、三木城を包囲したまま戦うでもなく退くでもなく、動きを止めていたのだった。
「我らの勝利も、別所の挙兵があってこそ。直ぐ助けに行くべきだ!」
忠家が床を叩いて、吼えた。
三万の羽柴兵に囲まれた三木城には、周辺の村人も逃げ込んでいた。事前に籠城の準備を整えてはいても、探るまでもなく城の中の様子を察する事が出来た。
「吉川元春殿が上月城を包囲しても、しらぬ顔か。羽柴秀吉、聞いていたより切れ者かもしれん」
合戦において数の有利は揺るぎない勝利への条件である。しかし、どんな大軍で大勝しようとも、戦えば消耗する。傷を負い、武器の刃は鈍り、戦いの高揚感が過ぎ去れば、気力と体力を失う。消耗した兵など物の数ではないのだ。
一度でも戦火を交えた後には、休息が必要。だからこそ、動かぬ羽柴秀吉の兵を攻められないのだ。
味方を増やすために他の城に救援に向かうか、背後に敵を抱えないために包囲した城を落としにかかれば、次の敵と戦う時には、前線に立てる兵の数は増える。だが、消耗した兵だ。前線は消耗した兵から崩れ、勢いに乗った敵に蹂躙され、大軍が敗北する。
「はい、宇喜多全軍で羽柴秀吉を攻めたとしても、包囲を破るのにどれだけの時間がかかるか……」
「それも、荒木村重が後方を抑えていればだ。勝ったとはいえ城を攻めた後、直ぐには動けん。織田信長が東の兵を送って来れば、長くは持つまい」
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