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第8話 清き水
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「リシャールの手……あったかい」
酔いを言い訳に、僕はリシャールに甘えた。
リシャールの指をなぞれば、剣だこができていた。子どもの頃に可愛がってくれた武官の大きな手のひらを思い出す。王族に触れてはいけないという決まりはあったものの、僕がねだれば彼は手を繋いでくれた。
そう。
武官の名はクルトという。彼は無事だろうか。僕が幼かった頃、30代だったから、すでに勇退しているかもしれない。
「……クルト」
「あんたの大事な人の名前か?」
「そうだ。クルトだけじゃない。ネニエル、メルサルディ、ハギス、レティシア。他にも名前を覚えている。彼らはガーランド王朝を信じて、ナシェル王国のために尽くしてくれた」
「ウィルレイン。コルプトの実はな、縁起のいい食べ物なんだ。コルプトを自然の恵みとして受け取った者には、清き水が与えられると言われている」
「そうなのか……」
「あんたは水を呼ぶ実を二つも食べたんだ。涙の一粒ぐらいこぼしたって、誰も笑いやしないよ」
「そんなに器用に泣けはしない……」
リシャールの包み込むような優しさに触れて、僕は号泣した。
天幕を出て、空を見上げる。
父と母の名を呼ぶ僕の声が、砂漠の星空に吸い込まれていった。あの銀河のどこかに両親の魂を宿した星が輝いているのだろうか。
僕は天を仰いだ。
涙の雫が唇を濡らす。
コルプトの実が持つ苦さと、涙の塩辛さが合わさって、妙な風味へと変わる。涙で薄めても不味さが際立っているコルプトの実を見習って、僕も図太くなるとしよう。
人は自然から学ぶべきだと父はよく語っていた。
だから、無理な治水工事はせずに、元来の地形を温存しようとした。新たな雇用を生み出す代わりに、水守りや森林の番人といった伝統職を保護した。
革命軍は父のそういった姿勢を保守の極みだと糾弾して、各地に蜂起を促したのだった。他国で啓蒙思想を学んだ旅の学者たちが言論活動によって革命軍を援護した。
何が正しかったのだろうか?
僕は父母を支えるため、民を守るため、最善を尽くしてきただろうか?
次から次へと後悔が浮かぶ。僕は生涯をかけて、この重たい気持ちと向き合っていかなければならない。
いつまでも泣いている場合ではないな。
まなじりに残る涙を指先で払う。
僕が落ち着いたのをみとめると、リシャールがぎゅっと手を握ってきた。僕たちは天幕の中に戻った。
酔いを言い訳に、僕はリシャールに甘えた。
リシャールの指をなぞれば、剣だこができていた。子どもの頃に可愛がってくれた武官の大きな手のひらを思い出す。王族に触れてはいけないという決まりはあったものの、僕がねだれば彼は手を繋いでくれた。
そう。
武官の名はクルトという。彼は無事だろうか。僕が幼かった頃、30代だったから、すでに勇退しているかもしれない。
「……クルト」
「あんたの大事な人の名前か?」
「そうだ。クルトだけじゃない。ネニエル、メルサルディ、ハギス、レティシア。他にも名前を覚えている。彼らはガーランド王朝を信じて、ナシェル王国のために尽くしてくれた」
「ウィルレイン。コルプトの実はな、縁起のいい食べ物なんだ。コルプトを自然の恵みとして受け取った者には、清き水が与えられると言われている」
「そうなのか……」
「あんたは水を呼ぶ実を二つも食べたんだ。涙の一粒ぐらいこぼしたって、誰も笑いやしないよ」
「そんなに器用に泣けはしない……」
リシャールの包み込むような優しさに触れて、僕は号泣した。
天幕を出て、空を見上げる。
父と母の名を呼ぶ僕の声が、砂漠の星空に吸い込まれていった。あの銀河のどこかに両親の魂を宿した星が輝いているのだろうか。
僕は天を仰いだ。
涙の雫が唇を濡らす。
コルプトの実が持つ苦さと、涙の塩辛さが合わさって、妙な風味へと変わる。涙で薄めても不味さが際立っているコルプトの実を見習って、僕も図太くなるとしよう。
人は自然から学ぶべきだと父はよく語っていた。
だから、無理な治水工事はせずに、元来の地形を温存しようとした。新たな雇用を生み出す代わりに、水守りや森林の番人といった伝統職を保護した。
革命軍は父のそういった姿勢を保守の極みだと糾弾して、各地に蜂起を促したのだった。他国で啓蒙思想を学んだ旅の学者たちが言論活動によって革命軍を援護した。
何が正しかったのだろうか?
僕は父母を支えるため、民を守るため、最善を尽くしてきただろうか?
次から次へと後悔が浮かぶ。僕は生涯をかけて、この重たい気持ちと向き合っていかなければならない。
いつまでも泣いている場合ではないな。
まなじりに残る涙を指先で払う。
僕が落ち着いたのをみとめると、リシャールがぎゅっと手を握ってきた。僕たちは天幕の中に戻った。
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