【完結】亡国の王子、砂漠の王に求愛される 〜僕はお嫁さんじゃなくて、きみの戦友になりたいんだが〜

第１２話 きみの花嫁にはなれない

　リシャールの居城にある広間にて。
　夕食を囲んだ僕とリシャールは、今日起きた出来事について言葉を交わした。リシャールは聞き上手で、会話がぽんぽんと弾んだ。

「僕たち、出会ったばかりという気がしないね」
「ああ。あんたと語らっていると、時間があっという間に過ぎていく」

　食後に、甘い香りがするお茶を勧められた。
　
「疲労に効く薬草茶だ」
「へえ。随分と飲みやすいな」
「うちの薬師は優秀なんだ」
「リシャール。マイルズ先輩から遺書の話を聞いたよ」
　
　僕はリシャールの琥珀色の瞳を見つめた。

「きみには本当によくしてもらっている。ありがとう」
「礼なんかいらない。当然のように受け取ってくれ」
「そういうわけにはいかない」
「なあ、ウィルレイン。俺は……あんたを愛している」

　まぶしそうに目を細めると、リシャールはうつむいた。

「そんなこと言われても、迷惑だよな。でも、日に日にあんたへの想いが募っていくんだ」
「僕もリシャールが好きだよ」
「それは恋心という意味か？」
「……いや。友愛だよ」

　期待を持たせる方が酷である。
　僕は自分が異性愛者であることを告げ、リシャールに諦めてもらうよう促した。しかしリシャールは熱っぽい目で僕を見つめ続けた。

「すまん。あんたは苦しい立場に置かれているのに、追い詰めるようなことを言ってしまった」
「いいんだ、リシャール。僕はきみの戦友になれるよう、これからも励んでいくよ」

　席を立った僕を、リシャールが後ろから抱き締めた。

「……抵抗しないんだな」
「だってリシャールの手は震えているじゃないか。きみは強引にコトを運ぶ男じゃない。僕はそう信じている」
「ウィルレインには敵わないな。あんたはいつだって勇敢で、堂々としている」

　リシャールの指が僕の体から離れていく。
　彼の体温が完全に遠ざかってしまった時、僕の胸に切なさが募っていった。
　この気持ちはなんだろう？
　リシャールの嫁となり、肌を交えることは望んでいないはずなのに。

「俺は、あんたの旦那になれるよう努力する」
「……僕のどこがいいんだ」
「それが知りたければ、俺のベッドに来い」

　僕の顎を掴むと、リシャールは視線を合わせてきた。琥珀色の瞳には炎のような輝きが宿っている。

「今の俺は、ボーンドラゴンに負ける気がしねぇ。あんたを抱くまでは、死んでたまるか」
「僕は娼館で汚された身だぞ」
「……あんたは清らかだよ」

　リシャールは僕のこめかみに軽く口づけた。
　砂漠の民が日常的に行なっている親愛のキスだ。無理に唇を奪おうとしないのがリシャールらしくて、僕はますます彼の友人に選ばれたくなった。

「俺は思うんだが、愛っていうものは性愛だけとは限らない。夫婦のあいだにだって同志愛があるだろう？　ウィルレイン。あんたが俺に感じてくれた友愛。それがさらに発展していくことを願っている」
「……僕は今日、湯船に浸かりたいんだが、きみと一緒に入る必要があるんだよな」
「互いに後ろを向いていればいいさ」