【完結】初夜失敗? 気にするな! 俺はおまえが大好きだよ

古井重箱

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 冒険者ギルドの喧騒はなかなか収まらなかった。
 イルミナが貼り出した成績表には、ギルドに所属するすべての冒険者の名前がある。すなわち、最下位も明らかになる。

「またビリでした……」

 クライヴの舎弟のリッキーが涙目になりながらつぶやいた。
 リッキーは18歳で、この港町メルヴァの出身らしい。地元には後援会があり、親戚や友人から期待をかけられているそうだが結果を出せていない。
 アシュレイが思うに、リッキーは優しすぎる。土魔法の使い手なのだから、巨大な岩石をモンスターの頭上に落とすといった攻撃的な戦法を取ればいい。
 リッキーのダンジョン攻略動画を見たことがあるが、植物採取の時はいきいきしているが、戦闘の時は目が死んでいる。
 イルミナがリッキーに蔑むような視線を送った。

「泣く暇があったら鍛錬しろ」
「……そうできればいいんですが、俺は弱いです」
「なら引退するんだな。知ってのとおり、ダンジョン攻略動画は派手な戦闘を扱ったものが好まれる」

 ビジョンの映像が切り替わり、新たなサムネイルが映し出された。
 
『【閲覧注意】コカトリスを生け取りにして食べてみた
 【ソロ】超巨大バジリスクを一刀両断しました【瞬殺】』

 刺激的な見出しが並んでいる。

「これは東部の街サンティスの冒険者ギルドのメンバーが撮影した動画だ。おまえたちの動画よりも人気がある」
「サンティスの冒険者に負けないような動画を撮れ……つまりはもっと危険を冒せということか?」

 アシュレイが尋ねると、イルミナはニンマリと笑った。

「察しのいい駒は大好きだ」
「駒という言葉は撤回してもらえないか、イルミナ。確かにあんたはギルド長だが、俺の主君というわけではない。冒険者として、俺は自由にやらせてもらう」
「ふん。よかろう。アシュレイは数字が取れているからな」

 リッキーが両膝を床につく。

「俺、こんな弱いままじゃ何もできない……」

 人目を憚らずに泣きじゃくるリッキーに、クライヴが肩を貸した。

「立てよ、リッキー。おまえには俺という仲間がいるじゃねーか」
「でも、クライヴさん。俺はいっつもあなたの足を引っ張ってます……」
「おまえは親父さんみたいな強い男に憧れて、冒険者になったんだろう? なりたい自分になろうぜ! 夢を諦めるな!」

 リッキーが袖で涙をぬぐった。それを見て、クライヴが満足そうにうなずく。

「おまえの心も体も、まだ死んではいない。一緒に高みを目指そうぜ!」
「そうだぜ、リッキー。おまえはルーキーなんだから、焦る必要はない」
「俺もそう思うよ」

 クライヴの舎弟たちがリッキーの背中を叩く。
 人の輪の中心にいるクライヴがとても輝いて見える。アシュレイはクライヴという男に対する認識を改めた。奴はただの傲慢野郎ではない。迷える仲間に手を差し伸べる優しさがある。

「クライヴさんの憧れのヒーローは誰ですか?」

 リッキーの質問を受けて、クライヴが満面の笑みを浮かべた。

「俺の理想は至高の魔法戦士ガルドだ! みんなも知ってるとおり、ガルドはこの島国を侵略戦争から守った英雄さ。ガルドは地水火風、すべてのエレメントを操ったと言われている」
「それだけじゃない。ガルドは人格者だった」

 アシュレイも話に加わった。ガルドはアシュレイにとっても英雄なのだった。

「『男とは弱き者の盾。未来を切り拓く剣』。ガルドはそんな名言を残している」
「へえ。アシュレイもガルドを崇拝してんのか。おまえはクールだから、ヒーローに憧れるなんてことはないと思っていたぜ」
「……俺の父は臆病な男だったからな。ロールモデルにはならなかった。俺はガルドの戦記を読んで、彼に心酔するようになった」
「そうだったのか! 俺もガルドの戦記は読破したぜ。なあ、これから酒場に行ってガルドの素晴らしさについて語り合わないか?」

 クライヴの誘いをアシュレイは拒んだ。

「おまえと馴れ合うつもりはない」
「へえへえ、そうですか。A級冒険者の俺たちが組んだら、面白いことができそうなんだけどな」

 イルミナが新たなクエスト依頼書を貼り出した。

「まだダンジョンの最奥部に到達した者はいない。引き続き、探索を頼んだぞ。あと、数字が取れそうな動画を撮ること」
「はいはい、分かりましたー。悪いけど、俺は今日は休むよ。アシュレイと同率とはいえ、1位になった記念に祝い酒を振る舞うぜ! 酒場に行こう」

 クライヴの舎弟たちが手を叩いて喜んだ。

「アシュレイ、おまえも来いよ」
「遠慮しておく。俺は鍛錬場に行く。試したい技があるんだ」
「また勉強か? よくやるねぇ」
「クライヴさん。こんなカタブツは放っておいて、酒場で楽しくやりましょうよ!」
「そうだな。みんな、行こう!」

 舎弟を引き連れて、クライヴは冒険者ギルドをあとにした。
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