7 / 19
07
しおりを挟む
転移石の力によって、アシュレイとクライヴ、そしてリッキーは酒場に着いた。
店内は多くの人で埋め尽くされていた。
「リッキー! 無事でよかった!」
「心配かけやがって!」
リッキーは苦笑いを浮かべ、その場にへたり込んだ。
「ははっ。もう限界です……」
ヒーラーがやって来て、リッキーの傷を癒した。リッキーの顔色がよくなっていく。
クライヴの舎弟たちは酒を注文すると、ジョッキを高く掲げた。
「われらがクライヴさんに乾杯!」
「俺だけじゃねぇよ。アシュレイも協力してくれた」
「氷撃のアシュレイが?」
「心まで氷でできてるって噂の御仁なのに」
「アシュレイは確かに単独行動が多いが、決して冷たい奴じゃない。誰よりも優しい男だ」
面と向かって褒められたので、アシュレイは照れてしまった。クライヴの顔をまともに見ることができない。
うつむいたアシュレイの肩に、クライヴが手を回した。
「今夜は一緒に飲もう、アシュレイ」
「……一杯だけだぞ」
「よっしゃ! おーい! 酒を持ってきてくれ」
乾杯をしたあと、アシュレイはジョッキに口をつけた。りんご酒の爽やかな酸味が舌の上で弾ける。酒とはこんなに美味しいものだったのか? アシュレイは自分の感覚が信じられなくなった。
クライヴがそばにいる。
ただそれだけで心が感じやすくなり、鼓動が乱れる。こんな気持ちになったのは初めてだ。
「どうした、アシュレイ。りんご酒は嫌いか?」
「いや……。なんだか胸がいっぱいで」
「そうか。リッキーを救出できたからな! 感動もひとしおだよな」
クライヴは舎弟たちと歌い始めた。ところどころ音程を外しても気にせず、楽しそうに口ずさんでいる姿がクライヴらしいと思った。アシュレイの口元が自然と緩む。
治癒が完了したリッキーが、アシュレイのもとにやって来た。
「アシュレイさん。今日は俺のために尽力していただき、本当にありがとうございます」
「気にするな。俺も駆け出しの頃は先輩に助けられたものだ」
アシュレイが微笑むと、リッキーが目を丸くした。
「氷撃のアシュレイは誰とも馴れ合わないって聞いてたけど……アシュレイさん、めちゃめちゃ優しいですね」
クライヴが嬉しそうな表情で会話に加わってきた。
「そうだろう、リッキー! アシュレイは優しいんだ。俺がビギナーだった頃、落とし穴にはまっているところを助けてくれた」
「そういえば、そんなことがあったな」
「あの日から俺は……アシュレイのことが……」
どくんと鼓動が跳ねた。
クライヴの言葉の続きを知りたいのに、怖くてたまらない。もしもクライヴがアシュレイに対して抱いているのがただの友愛だったらどうしよう。
全身の血が顔に集まってくる。
色恋には疎いアシュレイだがいい加減に分かった。アシュレイはクライヴに惚れてしまった。陽気で豪快なところ。面倒見がよくて仲間思いなところ。傲慢と見せかけて繊細なところ。クライヴを構成するすべてが好ましい。
「少し酔ってしまったようだ。今夜はこれで失礼する」
アシュレイはりんご酒を飲み干すと、逃げるように酒場を出た。
店内は多くの人で埋め尽くされていた。
「リッキー! 無事でよかった!」
「心配かけやがって!」
リッキーは苦笑いを浮かべ、その場にへたり込んだ。
「ははっ。もう限界です……」
ヒーラーがやって来て、リッキーの傷を癒した。リッキーの顔色がよくなっていく。
クライヴの舎弟たちは酒を注文すると、ジョッキを高く掲げた。
「われらがクライヴさんに乾杯!」
「俺だけじゃねぇよ。アシュレイも協力してくれた」
「氷撃のアシュレイが?」
「心まで氷でできてるって噂の御仁なのに」
「アシュレイは確かに単独行動が多いが、決して冷たい奴じゃない。誰よりも優しい男だ」
面と向かって褒められたので、アシュレイは照れてしまった。クライヴの顔をまともに見ることができない。
うつむいたアシュレイの肩に、クライヴが手を回した。
「今夜は一緒に飲もう、アシュレイ」
「……一杯だけだぞ」
「よっしゃ! おーい! 酒を持ってきてくれ」
乾杯をしたあと、アシュレイはジョッキに口をつけた。りんご酒の爽やかな酸味が舌の上で弾ける。酒とはこんなに美味しいものだったのか? アシュレイは自分の感覚が信じられなくなった。
クライヴがそばにいる。
ただそれだけで心が感じやすくなり、鼓動が乱れる。こんな気持ちになったのは初めてだ。
「どうした、アシュレイ。りんご酒は嫌いか?」
「いや……。なんだか胸がいっぱいで」
「そうか。リッキーを救出できたからな! 感動もひとしおだよな」
クライヴは舎弟たちと歌い始めた。ところどころ音程を外しても気にせず、楽しそうに口ずさんでいる姿がクライヴらしいと思った。アシュレイの口元が自然と緩む。
治癒が完了したリッキーが、アシュレイのもとにやって来た。
「アシュレイさん。今日は俺のために尽力していただき、本当にありがとうございます」
「気にするな。俺も駆け出しの頃は先輩に助けられたものだ」
アシュレイが微笑むと、リッキーが目を丸くした。
「氷撃のアシュレイは誰とも馴れ合わないって聞いてたけど……アシュレイさん、めちゃめちゃ優しいですね」
クライヴが嬉しそうな表情で会話に加わってきた。
「そうだろう、リッキー! アシュレイは優しいんだ。俺がビギナーだった頃、落とし穴にはまっているところを助けてくれた」
「そういえば、そんなことがあったな」
「あの日から俺は……アシュレイのことが……」
どくんと鼓動が跳ねた。
クライヴの言葉の続きを知りたいのに、怖くてたまらない。もしもクライヴがアシュレイに対して抱いているのがただの友愛だったらどうしよう。
全身の血が顔に集まってくる。
色恋には疎いアシュレイだがいい加減に分かった。アシュレイはクライヴに惚れてしまった。陽気で豪快なところ。面倒見がよくて仲間思いなところ。傲慢と見せかけて繊細なところ。クライヴを構成するすべてが好ましい。
「少し酔ってしまったようだ。今夜はこれで失礼する」
アシュレイはりんご酒を飲み干すと、逃げるように酒場を出た。
20
あなたにおすすめの小説
オメガのブルーノは第一王子様に愛されたくない
あさざきゆずき
BL
悪事を働く侯爵家に生まれてしまった。両親からスパイ活動を行うよう命じられてしまい、逆らうこともできない。僕は第一王子に接近したものの、騙している罪悪感でいっぱいだった。
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる