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クライヴの体に無数の枝が突き刺さったのを見た瞬間、アシュレイの意識が爆ぜた。
「貴様……っ!」
アシュレイは夢魔に向かって駆け出し、小さな頭めがけて杖を振り下ろした。夢魔はよけなかった。ぐしゃりという鈍い音がして、夢魔の頭部が陥没する。手応えを感じたのも束の間、アシュレイの背後から夢魔の笑い声が聞こえてきた。
「僕に物理攻撃は効かないよ」
夢魔はまたしても七色の種を床に蒔いた。種はすぐに発芽して、七色のツルへと変わった。七色のツルがアシュレイの手首を戒める。
「あれを出すんだ。フライングレコーダーだっけ? 動画を配信する道具」
「何をするつもりだ?」
「配信を通じて、人間の意識をジャックする。そのあとはそうだなー。みんなの無意識を具現化しちゃおうか! 夢の中で人を殺していた子にはその願いどおりに死体を、人を犯していた子には裸体をプレゼントしてあげる。ははっ。僕って優しいね!」
要するに夢魔は、悪夢を実現させるということか。
「そんなこと……許してたまるか!」
アシュレイは七色のツルに噛み付いた。しかし、食いちぎることはできなかった。夢魔が指先を動かす。怪しげな所作に連動して、アシュレイの手が耳元のイヤリングに伸びた。
またしても抵抗を試みたが力は及ばず、アシュレイはフライングレコーダーを起動してしまった。
フライングレコーダーがあたりを飛び回る。
夢魔が拍手をした。
ダンジョンの中空に、四角い枠がいくつも浮かび上がる。
「これは……ビジョンか?」
アシュレイは呆然とした。
枠の中には見知らぬ人々の顔が映っていた。人々はみな、困惑した様子だった。
「なんだ、この動画……?」
「ビジョンを閉じることができない!」
驚き、恐怖に駆られる声が聞こえる。
「夢魔よ、何をした?」
「こちらからも、リアルに反応を知れた方が面白いだろう? 今、きみが投稿しているライブ動画を視聴している人々の姿を映し出してみたよ」
夢魔が羽根をはためかせて宙を舞い、ビジョンに触れようとする。
アシュレイは氷でできたニードルを放ち、夢魔の行動を遮った。
「貴様、まさか視聴者にも悪さをするつもりか?」
「さっき言ったでしょ。僕は無意識を実現させてあげたいんだって。僕は神様だもん。憐れな人間に慈悲を与えるのは当然の義務でしょう」
「おまえなんて、神様じゃない!」
火炎でできた弾丸が夢魔の羽根を焼いた。
「クライヴ! 無事だったのか!?」
「見ろよ、アシュレイ。俺の体には傷ひとつついていないだろう」
確かに、巨木の枝に貫かれたはずなのに、クライヴは無傷だった。
「こいつの得意技はおそらく精神攻撃だ。俺を何回も痛めつけて、アシュレイにダメージを与えるつもりだったんだろう」
夢魔は、ふはっと笑った。
「僕の特技が分かったところで、きみたちに何ができる? 僕には通常の属性攻撃は効かないよ」
先ほど火炎で焼かれたはずの夢魔の羽根が復活した。
「丸い四角、光らない光。そういった現実には起こり得ないことしか僕に干渉することはできない」
夢魔の哄笑がフロアに鳴り響いた。
「さて、観客のみなさま。そろそろ幕開けと致しましょう。夢でしか果たせなかったあなたの背徳的な望みを僕が叶えてあげる」
「……クライヴ。俺に考えがある」
「アシュレイ?」
「炎獣を召喚してくれ」
クライヴはアシュレイの言葉に従った。
燃え盛る炎に体を覆われた四つ足の獣が、フロアに出現する。
アシュレイはクライヴに続いて、氷獣を召喚した。
「おまえの炎獣に、限界まで火焔を吐かせてくれ」
「アシュレイ、まさか」
「丸い四角ならば夢魔に干渉できる。それなら、冷たい炎で焼き尽くすというのはどうだ?」
「つまり……ふたつの属性を掛け合わせ、禁呪・氷獄の火炎を発動させるってことか」
夢魔の手から、七色の種が無数にこぼれ落ちた。
床に落ちた種はすぐさま芽を生やし、ツルへと変化した。七色のツルが鞭のように身をしならせながら、中空に浮かんだビジョンに向かって伸びていく。
夢魔はフロアの中央に立ち、恍惚の表情を浮かべている。
「今だっ! 炎を放て!」
炎獣が雄叫びを上げ、火焔を吐き出した。
アシュレイは氷獣を操った。鋭い牙が生えた口から、凍てつくブレスが放たれる。
炎と氷。
互いに相殺し合ってしまう属性が、同じ勢いで夢魔の細い体に襲いかかった。
「貴様……っ!」
アシュレイは夢魔に向かって駆け出し、小さな頭めがけて杖を振り下ろした。夢魔はよけなかった。ぐしゃりという鈍い音がして、夢魔の頭部が陥没する。手応えを感じたのも束の間、アシュレイの背後から夢魔の笑い声が聞こえてきた。
「僕に物理攻撃は効かないよ」
夢魔はまたしても七色の種を床に蒔いた。種はすぐに発芽して、七色のツルへと変わった。七色のツルがアシュレイの手首を戒める。
「あれを出すんだ。フライングレコーダーだっけ? 動画を配信する道具」
「何をするつもりだ?」
「配信を通じて、人間の意識をジャックする。そのあとはそうだなー。みんなの無意識を具現化しちゃおうか! 夢の中で人を殺していた子にはその願いどおりに死体を、人を犯していた子には裸体をプレゼントしてあげる。ははっ。僕って優しいね!」
要するに夢魔は、悪夢を実現させるということか。
「そんなこと……許してたまるか!」
アシュレイは七色のツルに噛み付いた。しかし、食いちぎることはできなかった。夢魔が指先を動かす。怪しげな所作に連動して、アシュレイの手が耳元のイヤリングに伸びた。
またしても抵抗を試みたが力は及ばず、アシュレイはフライングレコーダーを起動してしまった。
フライングレコーダーがあたりを飛び回る。
夢魔が拍手をした。
ダンジョンの中空に、四角い枠がいくつも浮かび上がる。
「これは……ビジョンか?」
アシュレイは呆然とした。
枠の中には見知らぬ人々の顔が映っていた。人々はみな、困惑した様子だった。
「なんだ、この動画……?」
「ビジョンを閉じることができない!」
驚き、恐怖に駆られる声が聞こえる。
「夢魔よ、何をした?」
「こちらからも、リアルに反応を知れた方が面白いだろう? 今、きみが投稿しているライブ動画を視聴している人々の姿を映し出してみたよ」
夢魔が羽根をはためかせて宙を舞い、ビジョンに触れようとする。
アシュレイは氷でできたニードルを放ち、夢魔の行動を遮った。
「貴様、まさか視聴者にも悪さをするつもりか?」
「さっき言ったでしょ。僕は無意識を実現させてあげたいんだって。僕は神様だもん。憐れな人間に慈悲を与えるのは当然の義務でしょう」
「おまえなんて、神様じゃない!」
火炎でできた弾丸が夢魔の羽根を焼いた。
「クライヴ! 無事だったのか!?」
「見ろよ、アシュレイ。俺の体には傷ひとつついていないだろう」
確かに、巨木の枝に貫かれたはずなのに、クライヴは無傷だった。
「こいつの得意技はおそらく精神攻撃だ。俺を何回も痛めつけて、アシュレイにダメージを与えるつもりだったんだろう」
夢魔は、ふはっと笑った。
「僕の特技が分かったところで、きみたちに何ができる? 僕には通常の属性攻撃は効かないよ」
先ほど火炎で焼かれたはずの夢魔の羽根が復活した。
「丸い四角、光らない光。そういった現実には起こり得ないことしか僕に干渉することはできない」
夢魔の哄笑がフロアに鳴り響いた。
「さて、観客のみなさま。そろそろ幕開けと致しましょう。夢でしか果たせなかったあなたの背徳的な望みを僕が叶えてあげる」
「……クライヴ。俺に考えがある」
「アシュレイ?」
「炎獣を召喚してくれ」
クライヴはアシュレイの言葉に従った。
燃え盛る炎に体を覆われた四つ足の獣が、フロアに出現する。
アシュレイはクライヴに続いて、氷獣を召喚した。
「おまえの炎獣に、限界まで火焔を吐かせてくれ」
「アシュレイ、まさか」
「丸い四角ならば夢魔に干渉できる。それなら、冷たい炎で焼き尽くすというのはどうだ?」
「つまり……ふたつの属性を掛け合わせ、禁呪・氷獄の火炎を発動させるってことか」
夢魔の手から、七色の種が無数にこぼれ落ちた。
床に落ちた種はすぐさま芽を生やし、ツルへと変化した。七色のツルが鞭のように身をしならせながら、中空に浮かんだビジョンに向かって伸びていく。
夢魔はフロアの中央に立ち、恍惚の表情を浮かべている。
「今だっ! 炎を放て!」
炎獣が雄叫びを上げ、火焔を吐き出した。
アシュレイは氷獣を操った。鋭い牙が生えた口から、凍てつくブレスが放たれる。
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