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冷たい炎。
常識で考えれば、そんなものがこの世に存在することはあり得ない。アシュレイが読んでいた魔法書では、冷たい炎すなわち氷獄の火炎は禁呪扱いになっていた。おまけに「その術を試みる二者は連理の枝のごとく、互いに縛られる」と注記してあった。
アシュレイは微笑んだ。
クライヴとのえにしが深くなることは厭わしくない。どうせ惚れた弱みで、地獄の底まで追いかけてやろうと思っていたところだ。
この命、クライヴに捧げたい。
アシュレイと同じようにクライヴも覚悟を決めてくれたのだろうか。クライヴもまた笑顔を浮かべた。
氷獣が凍てついたブレスを放つ。炎獣の火焔と混ざり合ったブレスは七色に輝いている。禁呪を浴びた夢魔の全身は、ひなたの氷菓のように溶け去っていった。羽根がぼとりと床に落ちる。
「そんな……っ! 僕に干渉できる者がいるなんて……っ!」
「夢魔よ。人間を舐めるな」
崩れた顔をさらに歪めて、夢魔が叫ぶ。
「このダンジョンにはまだ上階があって、僕の眷属が跋扈してるよ。きみたちは生き残れるかな?」
夢魔を絶命させるには、あともう少し力を放出しないといけない。だが、アシュレイもクライヴも立っているのが限界だった。互いの背中に腕を回し、支え合う。
火焔と凍てついたブレスが弱まりかけたその時、ビジョンを通じて拍手が聞こえてきた。
「がんばれー! 冒険者!」
「そんな奴に負けるな!」
「俺たちが力を分けてやる!」
アシュレイはクライヴに笑いかけた。
「ファンの声援はいつだって俺たちの元気の源だな」
「ああ!」
「さあ、仕上げだ!」
「行けーっ!」
氷獄の火炎が夢魔を焼き尽くした。
「終わったのか……?」
アシュレイは床に転がった夢魔のコアらしき球体を拾い上げた。そして力を込めて、手で握り潰した。かくして古来、神と呼ばれていたモノはこの世から姿を消した。
ふたりのギルドカードが発光した。
『瘴気、消失。クエストの完了を確認。帰還してください』
風の精が飛んできて、アシュレイにインタビューを始めた。
「ついにダンジョンの主を倒しましたね。今のお気持ちは?」
「みなさんの声援のおかげです」
「おーい、みんな! ありがとな!」
クライヴがビジョンに向かって手を振った。
「禁呪である氷獄の火炎の発動により、俺、クライヴ・ラドフォードは、このアシュレイ・スウィングラーと運命共同体になった。これからはふたりで冒険に出かけるから、また配信を見てくれ!」
「クライヴさーん! たまには俺とも出かけてくださいよー」
ビジョンにリッキーが映っていた。クライヴは「いいだろう」とうなずいた。
「よくやったな、駒。これからは『夢魔殺し』と名乗るがいい」
ギルド長のイルミナの発言を受けて、視聴者のテンションが爆発した。
「すげー! 『夢魔殺し』か!」
「最強ってことじゃね?」
アシュレイは一礼した。
「みなさん、祝福をありがとう。俺とクライヴの冒険はまだ続く」
フライングレコーダーがフロアの中央に突如として現れた螺旋階段を撮影した。夢魔が死滅したため、上階への道が開かれたのだろう。
「クライヴ。おまえは最高の相棒だ」
「愛してるぜ、アシュレイ」
ふたりは拳と拳を合わせた。
かくして港町メルヴァに『夢魔殺し』が誕生した。その日は各地で英雄の活躍を讃えた歌が歌われた。
常識で考えれば、そんなものがこの世に存在することはあり得ない。アシュレイが読んでいた魔法書では、冷たい炎すなわち氷獄の火炎は禁呪扱いになっていた。おまけに「その術を試みる二者は連理の枝のごとく、互いに縛られる」と注記してあった。
アシュレイは微笑んだ。
クライヴとのえにしが深くなることは厭わしくない。どうせ惚れた弱みで、地獄の底まで追いかけてやろうと思っていたところだ。
この命、クライヴに捧げたい。
アシュレイと同じようにクライヴも覚悟を決めてくれたのだろうか。クライヴもまた笑顔を浮かべた。
氷獣が凍てついたブレスを放つ。炎獣の火焔と混ざり合ったブレスは七色に輝いている。禁呪を浴びた夢魔の全身は、ひなたの氷菓のように溶け去っていった。羽根がぼとりと床に落ちる。
「そんな……っ! 僕に干渉できる者がいるなんて……っ!」
「夢魔よ。人間を舐めるな」
崩れた顔をさらに歪めて、夢魔が叫ぶ。
「このダンジョンにはまだ上階があって、僕の眷属が跋扈してるよ。きみたちは生き残れるかな?」
夢魔を絶命させるには、あともう少し力を放出しないといけない。だが、アシュレイもクライヴも立っているのが限界だった。互いの背中に腕を回し、支え合う。
火焔と凍てついたブレスが弱まりかけたその時、ビジョンを通じて拍手が聞こえてきた。
「がんばれー! 冒険者!」
「そんな奴に負けるな!」
「俺たちが力を分けてやる!」
アシュレイはクライヴに笑いかけた。
「ファンの声援はいつだって俺たちの元気の源だな」
「ああ!」
「さあ、仕上げだ!」
「行けーっ!」
氷獄の火炎が夢魔を焼き尽くした。
「終わったのか……?」
アシュレイは床に転がった夢魔のコアらしき球体を拾い上げた。そして力を込めて、手で握り潰した。かくして古来、神と呼ばれていたモノはこの世から姿を消した。
ふたりのギルドカードが発光した。
『瘴気、消失。クエストの完了を確認。帰還してください』
風の精が飛んできて、アシュレイにインタビューを始めた。
「ついにダンジョンの主を倒しましたね。今のお気持ちは?」
「みなさんの声援のおかげです」
「おーい、みんな! ありがとな!」
クライヴがビジョンに向かって手を振った。
「禁呪である氷獄の火炎の発動により、俺、クライヴ・ラドフォードは、このアシュレイ・スウィングラーと運命共同体になった。これからはふたりで冒険に出かけるから、また配信を見てくれ!」
「クライヴさーん! たまには俺とも出かけてくださいよー」
ビジョンにリッキーが映っていた。クライヴは「いいだろう」とうなずいた。
「よくやったな、駒。これからは『夢魔殺し』と名乗るがいい」
ギルド長のイルミナの発言を受けて、視聴者のテンションが爆発した。
「すげー! 『夢魔殺し』か!」
「最強ってことじゃね?」
アシュレイは一礼した。
「みなさん、祝福をありがとう。俺とクライヴの冒険はまだ続く」
フライングレコーダーがフロアの中央に突如として現れた螺旋階段を撮影した。夢魔が死滅したため、上階への道が開かれたのだろう。
「クライヴ。おまえは最高の相棒だ」
「愛してるぜ、アシュレイ」
ふたりは拳と拳を合わせた。
かくして港町メルヴァに『夢魔殺し』が誕生した。その日は各地で英雄の活躍を讃えた歌が歌われた。
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