【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行

古井重箱

文字の大きさ
3 / 31

第3話 王太子殿下のご登場

しおりを挟む
 舞踏会の一週間前。
 鏡に映った自分を見て、僕は暗澹たる気持ちになった。
 亜麻色の髪と同系色のジャケットとジレはまだ許せる。でも、腰回りや太もものラインが丸わかりのボトムはいただけない。かがんだ時に下着の線が出ないようにするため、僕は紐のようなパンツを履かされた。
 純白のスカーフを留めるブローチは、僕の瞳と同じ深い緑色の宝石だ。確かこれは、家宝とされている宝石ではなかっただろうか。
 両親の期待の大きさに僕は押し潰されそうになった。

「アズリール様。王太子殿下は自然を愛するお方だそうですよ。セレスティ領に生息する鳥獣の話をされると、殿下の関心を引けるでしょう」
「ありがとう。ヴァレンシス」

 執事のヴァレンシスが、僕に王太子殿下と接する上でのマナーを教えてくれた。ポイントは、殿下が話すまでじっと待っていること。殿下のお話に相槌を打つこと。

「ただし、お喋りが目的なのではありません。アズリール様に欲情していただくことが肝要なのです」
「欲情って……」
「そのためのお衣装ですよ。会話が弾んだら、ダンスで王太子殿下を魅了してください」

 簡単に言ってくれる。
 恋愛経験ゼロの16歳の僕には、重荷以外の何ものでもないんですけど?
 衣装合わせを終えた僕は、お父様とお母様に姿を見せた。二人とも、ギラギラした目で僕を見ている。

「あら。アズリールは意外とヒップラインがきゅっと上がってるわね。可愛らしい形のお尻だわ」
「そんなこと言わないでください……」

 自分が何か、とてもいやらしい生き物になってしまったような気がする。
 お父様は「いいか。夢見るように潤んだ瞳で、殿下を見つめるのだぞ」と僕に念を押した。
 僕は書物を読んだり、街を散策したりして、見聞を広げるのが好きだ。地に足がついた現実的な考えを身につけたいとつねづね思っている。夢見がちで何を考えているか分からないミステリアスなオメガにはなれそうにない。

「いいか。セレスティ家の運命はおまえに託されているのだからな」
「はい……」

 僕は来週なんて永遠に来なければいいと願った。



◇◇◇



 時は進み、舞踏会の日がやって来た。
 今回は夜会ではなく、日中に開催される。せっかく天気がいいのだから、飛竜に乗って散歩に出かけたいものだ。
 僕はホールの入り口に立って、ゲストを出迎えることになった。
 すると、僕の隣にミハイロお兄様が近づいてきた。

「浮かない顔だな、アズリール」
「お兄様」

 ミハイロお兄様は既婚者の証である、結婚指輪を左手の薬指にはめている。ミハイロお兄様には愛されている人特有の、堂々たる自信がみなぎっていた。いや、順番が逆か。ミハイロお兄様が自分というものをしっかり持った人だから、お義兄様にいさまはメロメロになったのかも。
 僕はいまいち自分に自信がない。

「アルファは本能的に自分のオメガかどうか嗅ぎ分けるという。王太子殿下がおまえの運命の相手であることが望ましいが、万が一違ったとしても、おまえはまだ若い。いくらだって候補がいる」
「そうですよね……」

 そんなに気張らなくてもいいか。
 僕が王太子殿下に選ばれる可能性は極めて低いだろう。
 ミハイロお兄様の助言で力が抜けた僕は、笑顔でゲストを迎えた。

「ようこそお出でくださいました」
「きみがアズリールか」

 列の途中にいた、長身の青年が僕に声をかけてきた。王太子のレヴィウス様だ。姿絵で拝見したお顔よりも凛々しくてカッコいい。騎士団に所属しているレヴィウス様は、金髪を短く刈り込んでいる。高い知性と深い教養が感じられる藍色の瞳が、僕を観察している。
 レヴィウス様は僕を見て、何を感じたのだろう。

「初めまして、レヴィウス様」
「随分と緊張しているな。まあ、それは俺のせいなのだが」
「いえ。僕が未熟なだけです」

 アルファに対して強気に出ろ。主導権を握れとお父様はけしかけるが、無理だよ。アルファであるレヴィウス様のオーラが僕を圧倒する。

「長旅でお疲れではないですか。お飲み物をどうぞ」
「では一緒に来てくれ。きみと話したい」

 アルファはフェロモンを嗅ぎ分けて、オメガに対して好悪の感情を抱くという。僕のフェロモンの匂いは、レヴィウス様にとってさほど不快ではないのかな。
 僕はセレスティ領で採れる新鮮な発泡水にレモンを浮かべたドリンクをレヴィウス様に勧めた。

「ほう。これはうまいな」
「よかったです」
「アズリールはこの発泡水をよく飲むのか?」
「そうですね。飛竜散歩に出かけた時に」
「なるほど。セレスティ領は飛竜の産地であったな。きみは飛竜に騎乗できるのか。体も大きいし、力があるんだな」

 ああ、やってしまった。今の質問で、僕はきっとレヴィウス様の中で「ナシ」になった。ベータと同じぐらいの背格好なうえにワンパクな僕は、オメガとしての魅力に欠ける。
 夢見るように潤んだ瞳とやらは、今さら効かないであろう。僕の肌は真珠色ではなく、もっと色味がある象牙色だ。
 僕は気持ちを切り替えた。
 レヴィウス様が楽しめるように、僕は道化に徹するとしよう。僕はセレスティ領で起きた愉快な出来事を面白おかしく語った。

「へえ。きみの兄君が草原でヴァイオリンを演奏したら、猫が大量に寄ってきたのか。そんな珍しいことがあるものなんだなあ」

 話してみて分かった。レヴィウス様はよく笑う人だ。そして、ご自身も冗談がお好きで、僕に家臣のモノマネを披露してくれた。
 明るい人だな。
 こういう人と暮らせたら、幸せになれそう。
 ……あれ?
 もしかして僕、レヴィウス様を好きになりかけている?

「アズリール。そろそろ踊らないか」
「あっ、はい」

 どうしよう。 
 手を繋いだら、ドキドキしているのがバレてしまうかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...