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第17話 あの子の面影
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国王は血によって守られて、玉座を温めているだけ。
そんな戯れ歌をセレスティ領の民は口ずさんで笑っていたものだ。
でも僕は、一国のあるじであるこのお方の眼力に恐れをなした。
『どうして僕がアズリールだと分かったのですか』
「帰らずの森が出現した日、ブランシェール学院から行方不明者が出た。それはセレスティ家の子息だった」
『それだけでは、ラピステルがアズリールだという根拠にはならないのでは?』
「ふん。七色水晶が邪悪な存在であることは、国政を司る者ならば既知の事実よ。それでもレヴィウスを帰らずの森に行かせたのは、貴君へのつまらぬ恋心と引き換えに、あやつの命を手に入れるためだ」
『……恋心?』
国王陛下は冷たい声で言った。
「たった2度しか会ったことがないアズリール・セレスティと番いたいとレヴィウスは私に強く訴えていた」
『レヴィウス様が……そんな。まさか僕を?』
「私は美しいキリエ・フィレンカを娶らせるつもりだった。フィレンカ家との交渉もまとまっていた。それなのにレヴィウスは貴君がいいと言って聞かなかった」
じゃあ、レヴィウス様が命よりも大切にしていたものって……僕との思い出だったのか?
「貴君との記憶と引き換えに、レヴィウスは命を得たのだ」
『……左様でございますか』
「分かってくれるな、アズリール・セレスティ。王族にとって婚姻は仕事の一環だ。自由恋愛は民の特権である」
『僕は……正体を明かさずラピステルとして生きればいいんですね』
「すでに貴君の実家には話をつけてある。セレスティ領は王家に守られて繁栄することだろう」
お父様が僕の恋を守るために動いてくれるわけないか。お父様が欲しいのは王家からの庇護だ。それが手に入るのならば、息子が聖獣として生きることになっても構わないのだろう。
「貴君の今後に関してだが、この王宮で手厚く面倒を看させてもらう」
『僕を監視なさるんですね。帰らずの森から生還したレヴィウス様の伝説が、余計な情報によって歪められないために』
「そうだ。恋をしたオメガに守られて生還したなどという話は、王家が求める伝説ではない」
『……いっそ殺してください』
僕はこの先、キリエがレヴィウス様と結婚生活を送る姿をそばで見守らないといけないのか? そんなのあんまりだよ。
「そうはいかん。レヴィウスはラピステルの存在によって支えられている」
『……あなたは鬼だ』
「いかにも。この国を導くためならば、私はなんだってする」
これ以上の対話は不要であろう。
僕はどっと疲れて、その場に身を投げ出した。
「そうだ、その姿でよい。貴君は聖獣として生きよ。レヴィウスのことはキリエ・フィレンカに任せるのだ」
国王陛下が呼び鈴を鳴らした。
複数の武官が現れて、僕を別の部屋へと運んでいった。
◇◇◇
「ラピステル。お願いだ。何か口にしてくれ」
レヴィウス様の声が聞こえる。僕の背中を撫でる、優しい手のひらの感触も伝わってくる。
王命が下ったあと、僕は寝込んでいた。
食欲が湧かない。手足も重だるくて動く気がしない。このまま死んでしまえばいいのに。
でも僕が死んだら、レヴィウス様はどうなる? すごく悲しむだろう。
僕は……生きなきゃ。
レヴィウス様に元気な姿を見せなきゃ。
「ラピステル。薄い粥なら食べられるか」
僕は薄い粥を舐めた。口の周りが汚れる。
レヴィウス様は僕に恋をしていたらしい。でも、犬になってしまったオメガを愛することは、さすがにできないだろう。
「無理をさせてすまない。明日、一緒に民の前に出てくれるか?」
僕はか細い声でワンと鳴いた。
レヴィウス様は生ける伝説とならなければいけない。そのために僕がすべきことはただ一つ。聖獣として生きることだ。
僕が望んだことじゃないか。
レヴィウス様の命が守られるのならば、自分はどうなっても構わないって。
僕はクーンと鳴きながらレヴィウス様の藍色の瞳をのぞき込んだ。するとレヴィウス様は落涙された。
「俺は……きみを忘れている気がする。なぜだ? ラピステルはここにいるのに、俺は大切なものを失くしてしまった。そう思えてならないのだ」
レヴィウス様、泣かないで。
僕は恐れ多くもレヴィウス様の手のひらを舐めた。レヴィウス様が僕に抱きつく。
「ラピステル。きみは今、俺の腕の中にいてくれるんだよな? これは幻覚ではないんだよな?」
レヴィウス様は……本当に僕のことを愛してくださったのかもしれない。たった2回会っただけの僕に、レヴィウス様は運命を感じてくれたのだ。
苦しまないで、レヴィウス様。
僕はあなたを守る盾になります。
いずれ、キリエがあなたを愛することでしょう。だから僕のことは忘れたままでいいんです。
僕はアズリール・セレスティではありません。あなたのための聖獣ラピステルです。
おおーんと吠えると、レヴィウス様がハッとなった。
「きみはもう元気を取り戻したようだな。……俺も強くならねばいけないな」
レヴィウス様が僕の頭を撫でてくれたその時のことだった。
ノックもなしにドアが開いて、むっとするような花の匂いが漂ってきた。そして現れた細身の少年。
……キリエ?
どうしてここに。
「レヴィウス様。駄犬と遊ぶ暇があったら、俺を構ってよ。そうじゃないと俺、どこかに行っちゃうよ」
「……好きにすればいい。俺のラピステルを駄犬呼ばわりするような人間とは関わりたくない」
「はーん? この俺にそんなことを言っていいのかな? 俺たち来月、婚約するのに」
どくんと僕の心臓が跳ねた。
まさかそんなに早く話が進んでいるとは思わなかった。
レヴィウス様がキッとキリエを睨んだ。
「……俺はきみに興味も関心も抱いていない。何度もそう言っているだろう」
「俺だってレヴィウス様に興味なんてないよ。あんたって説教くさいし、顔以外は最悪。俺が欲しいのは王妃の座! 権力! たくさんの財宝! そして民からの羨望だ!」
「きみの考えには反吐が出る」
「せいぜい、いきがってれば。俺のヒートが始まったらフェロモンに当てられて腰を振っちゃうのはそっちなんだからさあ」
僕はあまりの物言いに我慢できなくなった。
ウーッと唸りながら、キリエに牙を剥く。キリエは僕に「獣ってやだなー」と侮蔑のまなざしを送ると、あろうことかレヴィウス様にキスを迫った。
「やめろっ!」
レヴィウス様が顔を背ける。
キリエはすると、シャツのボタンを外しはじめた。
「既成事実が欲しいんだよ、こっちは。大陸一の美少年と言われているこの僕に迫られてるんだからね? 光栄に思いな」
「きみのフェロモンはドブの匂いがする」
「なんだと……! この犬狂いの暗愚王太子が!」
キリエが僕の腹を蹴ろうとした。
その時のことだった。
レヴィウス様が身を挺して僕を守ってくれた。ごつっという鈍い音が響き、キリエの靴底がレヴィウス様の背中に当たる。レヴィウス様は毅然とした表情でキリエに告げた。
「……気が済むまで俺を蹴れ。そして二度と俺の前に姿を見せるな」
「なんなんだよ! 俺に関心を向けられて、どうしてそんな不服そうなわけ?」
「きみには心がない」
「じゃあその犬には心があるって言うのかよ! そいつはただの犬じゃねぇか!」
キリエが椅子を蹴り飛ばした。あまりにも大きな物音が轟いたので、武官が駆けつけてきた。
「一体、何事ですか?」
「俺……レヴィウス様に襲われそうになっちゃった」
「王太子殿下。なんということを」
「貴様、くだらん嘘も見抜けぬのか。俺のこの背中を見ろ。キリエ・フィレンカに蹴られた跡がついているぞ」
「確かに……お背中に靴跡がありますね」
「俺がキリエ・フィレンカを襲う? こいつに対する俺の態度を見ていれば、そんな話にはならないと分かるだろう」
「こわーい。か弱いオメガを嘘つき呼ばわり? 俺が蹴っちゃったのはレヴィウス様が強引に迫ってきたからだよぉ。武官さん。レヴィウス様と俺、どっちを信じてくれるの?」
キリエが瞳を潤ませながら、武官の太ももを撫でた。
武官のそげた頬がポッと赤くなる。まったく、こんな安っぽい色仕掛けに引っかかるなよ!
僕は情けない武官を睨めつけた。
「この犬、さっきから反抗的なんだよね。俺、犬って嫌いだな。同級生のアズリールくんを思い出すんだよね」
「アズリール……? その名は……俺の……。いや、違う。俺は……もう彼のことを奪われた……」
「キャハハハッ! 本当に覚えてないんだ。陛下の言うとおりだね」
「父上が何か言っているのか?」
「どうでもいいことだよ。レヴィウス様は俺と結婚するんだから」
そしてキリエは僕を見下ろすと、ニィッと笑った。
「初夜の警備はきみに頼むよ、アズリールくん。おっと失礼。今はラピステルだったね」
キリエは……僕の正体を知っているのか?
「レヴィウス様が俺に突っ込むところを眺めてればいいさ」
『キリエ。僕はそこまできみに恨まれてたんだね……』
「はぁ? 気持ち悪いから頭に直接語りかけてくんなよ。きみみたいなイモが俺に勝てるわけないっつうの」
「ラピステル? 俺にも語りかけてくれないか」
レヴィウス様。
僕もそうしたいです。でも、ダメなんです。僕は……アズリールという名前を捨てたから。
「……気分が悪くなった。その臭いオメガをどこか遠くに連れて行ってくれ」
「なんだと? 俺が臭いだって? この犬狂いめ」
「キリエ様。レヴィウス様は病み上がりなので、お手柔らかに」
「あーん! きみって優しい。きみ、アルファ? ベータ? どっちでもいいか。俺の親衛隊に入れてあげる」
キリエは武官の腕にぶら下がりながら、ようやく退室した。
「ラピステル。きみを守れず、すまない。俺は情けない男だ……」
僕はクーンと鳴きながらレヴィウス様に寄り添った。
レヴィウス様。
どうかご自分を責めないでください。レヴィウス様は何も悪くありません。
「きみといると安らぐ……。きみに触れていると俺の記憶にわずかに残された、あの子の面影が少しだけ鮮やかになるんだ」
レヴィウス様は今でも僕を想っていてくださるのですか? 僕は感極まって、アオーンと鳴いた。
……僕、諦めたくない。キリエなんかにレヴィウス様を託せるわけがない。
レヴィウス様の記憶が戻る方法はないだろうか?
そんな戯れ歌をセレスティ領の民は口ずさんで笑っていたものだ。
でも僕は、一国のあるじであるこのお方の眼力に恐れをなした。
『どうして僕がアズリールだと分かったのですか』
「帰らずの森が出現した日、ブランシェール学院から行方不明者が出た。それはセレスティ家の子息だった」
『それだけでは、ラピステルがアズリールだという根拠にはならないのでは?』
「ふん。七色水晶が邪悪な存在であることは、国政を司る者ならば既知の事実よ。それでもレヴィウスを帰らずの森に行かせたのは、貴君へのつまらぬ恋心と引き換えに、あやつの命を手に入れるためだ」
『……恋心?』
国王陛下は冷たい声で言った。
「たった2度しか会ったことがないアズリール・セレスティと番いたいとレヴィウスは私に強く訴えていた」
『レヴィウス様が……そんな。まさか僕を?』
「私は美しいキリエ・フィレンカを娶らせるつもりだった。フィレンカ家との交渉もまとまっていた。それなのにレヴィウスは貴君がいいと言って聞かなかった」
じゃあ、レヴィウス様が命よりも大切にしていたものって……僕との思い出だったのか?
「貴君との記憶と引き換えに、レヴィウスは命を得たのだ」
『……左様でございますか』
「分かってくれるな、アズリール・セレスティ。王族にとって婚姻は仕事の一環だ。自由恋愛は民の特権である」
『僕は……正体を明かさずラピステルとして生きればいいんですね』
「すでに貴君の実家には話をつけてある。セレスティ領は王家に守られて繁栄することだろう」
お父様が僕の恋を守るために動いてくれるわけないか。お父様が欲しいのは王家からの庇護だ。それが手に入るのならば、息子が聖獣として生きることになっても構わないのだろう。
「貴君の今後に関してだが、この王宮で手厚く面倒を看させてもらう」
『僕を監視なさるんですね。帰らずの森から生還したレヴィウス様の伝説が、余計な情報によって歪められないために』
「そうだ。恋をしたオメガに守られて生還したなどという話は、王家が求める伝説ではない」
『……いっそ殺してください』
僕はこの先、キリエがレヴィウス様と結婚生活を送る姿をそばで見守らないといけないのか? そんなのあんまりだよ。
「そうはいかん。レヴィウスはラピステルの存在によって支えられている」
『……あなたは鬼だ』
「いかにも。この国を導くためならば、私はなんだってする」
これ以上の対話は不要であろう。
僕はどっと疲れて、その場に身を投げ出した。
「そうだ、その姿でよい。貴君は聖獣として生きよ。レヴィウスのことはキリエ・フィレンカに任せるのだ」
国王陛下が呼び鈴を鳴らした。
複数の武官が現れて、僕を別の部屋へと運んでいった。
◇◇◇
「ラピステル。お願いだ。何か口にしてくれ」
レヴィウス様の声が聞こえる。僕の背中を撫でる、優しい手のひらの感触も伝わってくる。
王命が下ったあと、僕は寝込んでいた。
食欲が湧かない。手足も重だるくて動く気がしない。このまま死んでしまえばいいのに。
でも僕が死んだら、レヴィウス様はどうなる? すごく悲しむだろう。
僕は……生きなきゃ。
レヴィウス様に元気な姿を見せなきゃ。
「ラピステル。薄い粥なら食べられるか」
僕は薄い粥を舐めた。口の周りが汚れる。
レヴィウス様は僕に恋をしていたらしい。でも、犬になってしまったオメガを愛することは、さすがにできないだろう。
「無理をさせてすまない。明日、一緒に民の前に出てくれるか?」
僕はか細い声でワンと鳴いた。
レヴィウス様は生ける伝説とならなければいけない。そのために僕がすべきことはただ一つ。聖獣として生きることだ。
僕が望んだことじゃないか。
レヴィウス様の命が守られるのならば、自分はどうなっても構わないって。
僕はクーンと鳴きながらレヴィウス様の藍色の瞳をのぞき込んだ。するとレヴィウス様は落涙された。
「俺は……きみを忘れている気がする。なぜだ? ラピステルはここにいるのに、俺は大切なものを失くしてしまった。そう思えてならないのだ」
レヴィウス様、泣かないで。
僕は恐れ多くもレヴィウス様の手のひらを舐めた。レヴィウス様が僕に抱きつく。
「ラピステル。きみは今、俺の腕の中にいてくれるんだよな? これは幻覚ではないんだよな?」
レヴィウス様は……本当に僕のことを愛してくださったのかもしれない。たった2回会っただけの僕に、レヴィウス様は運命を感じてくれたのだ。
苦しまないで、レヴィウス様。
僕はあなたを守る盾になります。
いずれ、キリエがあなたを愛することでしょう。だから僕のことは忘れたままでいいんです。
僕はアズリール・セレスティではありません。あなたのための聖獣ラピステルです。
おおーんと吠えると、レヴィウス様がハッとなった。
「きみはもう元気を取り戻したようだな。……俺も強くならねばいけないな」
レヴィウス様が僕の頭を撫でてくれたその時のことだった。
ノックもなしにドアが開いて、むっとするような花の匂いが漂ってきた。そして現れた細身の少年。
……キリエ?
どうしてここに。
「レヴィウス様。駄犬と遊ぶ暇があったら、俺を構ってよ。そうじゃないと俺、どこかに行っちゃうよ」
「……好きにすればいい。俺のラピステルを駄犬呼ばわりするような人間とは関わりたくない」
「はーん? この俺にそんなことを言っていいのかな? 俺たち来月、婚約するのに」
どくんと僕の心臓が跳ねた。
まさかそんなに早く話が進んでいるとは思わなかった。
レヴィウス様がキッとキリエを睨んだ。
「……俺はきみに興味も関心も抱いていない。何度もそう言っているだろう」
「俺だってレヴィウス様に興味なんてないよ。あんたって説教くさいし、顔以外は最悪。俺が欲しいのは王妃の座! 権力! たくさんの財宝! そして民からの羨望だ!」
「きみの考えには反吐が出る」
「せいぜい、いきがってれば。俺のヒートが始まったらフェロモンに当てられて腰を振っちゃうのはそっちなんだからさあ」
僕はあまりの物言いに我慢できなくなった。
ウーッと唸りながら、キリエに牙を剥く。キリエは僕に「獣ってやだなー」と侮蔑のまなざしを送ると、あろうことかレヴィウス様にキスを迫った。
「やめろっ!」
レヴィウス様が顔を背ける。
キリエはすると、シャツのボタンを外しはじめた。
「既成事実が欲しいんだよ、こっちは。大陸一の美少年と言われているこの僕に迫られてるんだからね? 光栄に思いな」
「きみのフェロモンはドブの匂いがする」
「なんだと……! この犬狂いの暗愚王太子が!」
キリエが僕の腹を蹴ろうとした。
その時のことだった。
レヴィウス様が身を挺して僕を守ってくれた。ごつっという鈍い音が響き、キリエの靴底がレヴィウス様の背中に当たる。レヴィウス様は毅然とした表情でキリエに告げた。
「……気が済むまで俺を蹴れ。そして二度と俺の前に姿を見せるな」
「なんなんだよ! 俺に関心を向けられて、どうしてそんな不服そうなわけ?」
「きみには心がない」
「じゃあその犬には心があるって言うのかよ! そいつはただの犬じゃねぇか!」
キリエが椅子を蹴り飛ばした。あまりにも大きな物音が轟いたので、武官が駆けつけてきた。
「一体、何事ですか?」
「俺……レヴィウス様に襲われそうになっちゃった」
「王太子殿下。なんということを」
「貴様、くだらん嘘も見抜けぬのか。俺のこの背中を見ろ。キリエ・フィレンカに蹴られた跡がついているぞ」
「確かに……お背中に靴跡がありますね」
「俺がキリエ・フィレンカを襲う? こいつに対する俺の態度を見ていれば、そんな話にはならないと分かるだろう」
「こわーい。か弱いオメガを嘘つき呼ばわり? 俺が蹴っちゃったのはレヴィウス様が強引に迫ってきたからだよぉ。武官さん。レヴィウス様と俺、どっちを信じてくれるの?」
キリエが瞳を潤ませながら、武官の太ももを撫でた。
武官のそげた頬がポッと赤くなる。まったく、こんな安っぽい色仕掛けに引っかかるなよ!
僕は情けない武官を睨めつけた。
「この犬、さっきから反抗的なんだよね。俺、犬って嫌いだな。同級生のアズリールくんを思い出すんだよね」
「アズリール……? その名は……俺の……。いや、違う。俺は……もう彼のことを奪われた……」
「キャハハハッ! 本当に覚えてないんだ。陛下の言うとおりだね」
「父上が何か言っているのか?」
「どうでもいいことだよ。レヴィウス様は俺と結婚するんだから」
そしてキリエは僕を見下ろすと、ニィッと笑った。
「初夜の警備はきみに頼むよ、アズリールくん。おっと失礼。今はラピステルだったね」
キリエは……僕の正体を知っているのか?
「レヴィウス様が俺に突っ込むところを眺めてればいいさ」
『キリエ。僕はそこまできみに恨まれてたんだね……』
「はぁ? 気持ち悪いから頭に直接語りかけてくんなよ。きみみたいなイモが俺に勝てるわけないっつうの」
「ラピステル? 俺にも語りかけてくれないか」
レヴィウス様。
僕もそうしたいです。でも、ダメなんです。僕は……アズリールという名前を捨てたから。
「……気分が悪くなった。その臭いオメガをどこか遠くに連れて行ってくれ」
「なんだと? 俺が臭いだって? この犬狂いめ」
「キリエ様。レヴィウス様は病み上がりなので、お手柔らかに」
「あーん! きみって優しい。きみ、アルファ? ベータ? どっちでもいいか。俺の親衛隊に入れてあげる」
キリエは武官の腕にぶら下がりながら、ようやく退室した。
「ラピステル。きみを守れず、すまない。俺は情けない男だ……」
僕はクーンと鳴きながらレヴィウス様に寄り添った。
レヴィウス様。
どうかご自分を責めないでください。レヴィウス様は何も悪くありません。
「きみといると安らぐ……。きみに触れていると俺の記憶にわずかに残された、あの子の面影が少しだけ鮮やかになるんだ」
レヴィウス様は今でも僕を想っていてくださるのですか? 僕は感極まって、アオーンと鳴いた。
……僕、諦めたくない。キリエなんかにレヴィウス様を託せるわけがない。
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