【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行

古井重箱

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第22話 婚約

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 婚約式は王宮の大広間で行われた。
 宮廷楽団が愛の神に捧げる讃美歌を奏でる。華麗なメロディが鳴り終えたあと、内務大臣が重々しく言葉を紡いだ。

「これより、アズリール・セレスティとレヴィウス王太子殿下の婚約式を始めます。お二人は前へ」

 僕たちは第二王子にして神官のヘクター様が用意した書類にサインをした。
 愛の神に婚約を報告するための神聖な書類である。とても緊張する。僕はなんとかつっかえずにサインを終えた。
 真っ白い神官服に身を包んだヘクター様が、僕に優しく声をかけた。

「アズリール・セレスティ。左手を前に」
「はい」

 レヴィウス様が僕の薬指に白金に輝くリングをはめる。レヴィウス様の瞳と同じ藍色の貴石がはめ込まれている。
 次は僕がレヴィウス様に指輪をはめる番だった。
 
「きみを永遠に愛すると誓う」

 僕の瞳のような緑色をした貴石が、レヴィウス様の左手の薬指に輝いている。僕はこれまで僕たちが歩んできた軌跡を振り返った。
 レヴィウス様。
 最初にお会いしたのは舞踏会の時でしたね。
 あなたは冗談を言ったり、家臣のモノマネをして僕を笑わせてくれました。緊張していた僕の心をほぐしてくれたんですよね。あなたのユーモアあふれる優しい心に僕はすっかり魅了されてしまいました。
 海浜公園では槍の雨に見舞われましたね。
 雨水に濡れながらも僕は幸せでした。二人で見上げた虹の美しさといったら! 僕はレヴィウス様ともっと一緒に時を過ごしたいと願い、聖界に赴いたのです。
 帰らずの森で、僕はあなたの力になれたでしょうか。
 僕はただ夢中でした。
 そして、七色水晶によって与えられた試練。
 でも、あなたは僕を完全には忘れなかった。記憶の中にかすかに残る僕の名前と面影を必死で探してくれました。
 僕は……幸せです。

「愛の神よ、二人の婚約を祝福してください。会衆は起立して、祈りを捧げなさい」

 ヘクター様の言葉に従って、この場に集まった人々が席から立ち上がった。国王陛下も例外ではない。王妃様の体を支えながら、愛の神に祈りを捧げている。
 僕のお父様は深々と頭を下げていた。
 お父様。
 不出来な息子ですが、こうしてよき日を迎えることができました。ありがとうございます。
 ミハイロお兄様は僕と目が合うと、ウインクをした。
 お兄様らしいお茶目な仕草に僕は微笑んだ。
 みんなから祝福されて、僕はレヴィウス様の婚約者になった。



◇◇◇



 僕たちはレヴィウス様の居室に戻った。
 指輪をはめたレヴィウス様は上機嫌だった。

「アズリールがいつも一緒にいるみたいだ」
「僕も。レヴィウス様に守っていただいている気持ちになります」
「愛の神はこれぐらい許してくれるだろう?」

 レヴィウス様は僕に口づけた。舌が遠慮がちに僕の歯列を舐めた。僕はくすぐったくて、思わず口を開いてしまった。ぬるりとレヴィウス様の舌が僕の口腔に入ってくる。

「すまん。つい調子に乗ってしまった」
「いえ。僕がボーッとしてるから……」

 僕はまだ16歳で、体が成熟しきっていない。僕たちの結婚は僕が18歳になった時に行う予定である。

「俺はきみが18歳になるまで我慢できるだろうか」
「僕もヒートがあるから……不安です」
「アズリールにとっては、自由を満喫できる最後の時間になるな。俺の伴侶になったら何かと不自由だろう」
「僕はキリエのところに通い続けたいです。ブランシェール学院にも遊びに行きたいし、ナナセとも会いたい」
「きみにはそうだ。たくさんの夢がある。俺はそれを邪魔してはいけないな。全部叶えられるよう、尽力する」

 レヴィウス様が僕を後ろから抱きしめた。
 うなじに顔をうずめられて、僕はドキドキが止まらなかった。2年後、僕たちは番になる。

「きみの香りは不思議だ。果実のようにも感じるし、新緑のようにも感じる」
「僕、そんなに匂いますか?」
「俺はどうだ」
「お日様と石鹸の匂いがします」
「……アズリール。俺を選んでくれてありがとう」
「そんな。こちらこそ」
「きみが死神を追い払う勇気をくれた。七色水晶の呪いに打ち勝つ力をくれた」
「僕はただ夢中で……」

 それから僕たちはベッドの上で世界地図を広げた。
 隣国サンダスには国土を縦断する大河が流れているらしい。

「元はとても美しい国だったと聞いている」
「サンダスの復興を支援するよう、国王陛下に提言なさっているんですよね」
「ああ。ただカネを渡したのでは、サンダスの誇りを傷つける。わが国の技術者や魔法使いを派遣して、壊れた建物を直しているところだ」
「僕もサンダスの歴史を勉強しなきゃ。言葉も」
「俺たちの時代は、サンダスとともに歩む時代になるだろう」

 レヴィウス様が僕を抱き寄せる。

「俺と一緒に、この国の未来を作ってくれ」
「はい」
「さて。国民学校の形骸化している授業を改善せねばな。海浜公園で会った子どもは授業が退屈だと言っていただろう? もっと生きた知識を伝えねば」
「それでしたら、島国タフラの事例が参考になるかと」

 僕は特に勉強が得意ではなかったが、最近は学術書ばかり読んでいる。そして時間を見つけては学者を捕まえて、知識を伝授してもらっている。僕は人間の姿に戻ったけれども、レヴィウス様の盾になりたいという気持ちは変わらない。
 その日、夕食に呼ばれるまで僕たちは意見を交わした。
 食後にはまた話したいことが出てきた。
 そんな僕たちの姿を見て、王妃様が優しく微笑んだ。
 僕たちの縁は太い橋のようだとシマ先生は言ってくれた。願わくばその橋が多くの人にとって平和の架け橋になりますように。
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