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ヒロインの気持ちと私の気持ち

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気まずい雰囲気の中、先に口を開いたのは
智暁くんだった。



智暁「…で?この掲示板の事、調べて何すんの?」

私「あ、それは…」



ちょっと、悪い顔をした智暁くんが
私の顔を覗き込む。

藤堂先生と平野先生の変な噂を
書き込んだ犯人探しなんて
言えるわけないけど、どうせバレて…



智暁「犯人探し、な。」



ほら、やっぱり、バレてる。
まぁ、そうだよね。この掲示板調べてる時点で
犯人探しだって言ってるようなものだし。



私「そんな感じです…」

智暁「まぁ、俺もちょっと興味あるから
別にいいけど」



そうだったの?全然興味無さそうにしてたし
面倒臭そうに見えたんだけどな。



智暁「あ、あった。」

私「なに?」

智暁「このパソコンに履歴残ってる。
しかも夜。二十二時三分だと。
書き込まれた時間と一致。ほら。」

私「あ。スクショ」




スクショ残してるとか、すごっ!
流石!と言っていいのかな?

でも、この時間帯は、当然生徒は学校に残っていない。
教員も皆、帰ってるはず。それなのに誰が?

警備員の人?それとも、事務の人?まさかね…

履歴残ってるって事は、このパソコンで
何かしたって事だよね。



智暁「俺なら消すけど」

私「え?」

智暁「履歴」

私「あぁ!」

智暁「この時間にパソコン開いて藤堂の事
書いたとして、消すの忘れるって
どうなのかなって。当然俺なら消してくけど。」



確かに。普通なら、痕跡残さないようにするよね。私の場合は、消し方わかんないから
そのままになってしまうだろうけど
こういう、良くない事してるんだったら尚更…

あ!



私「私、消し方わかんない!
だから、履歴を消せなかったって事は?」

智暁「そんな事、あるわけ…」

私「だって実際、履歴がどうとか智暁くんに
聞くまでわからなかったんだよ?
だったら、知らない人がいても
おかしくないよね」



すると、智暁くんはパソコンの電源を切って
椅子から立ち上がった。



智暁「帰るぞ」

私「え?もう?」

智暁「下校時間」



智暁くんの声と同時くらいに
下校時間を知らせるチャイムの音が鳴った。



智暁「また明日、何か痕跡残してないか
調べればいいし」



智暁くんと帰る方向が同じ、というか
どうやらヒロインの家のすぐ隣らしい。
私達は、一緒の帰り道を並んで歩く。

智暁くんは、あれからずっと考え込んだまま
駅に向かう道も、電車の中でも一言も喋らなかった。
 


私「でも、ラッキーだったね!証拠の履歴が
残ってるパソコンに、たまたま当たるなんて」

智暁「たまたま?んなわけないって」

私「どうして?」

智暁「あぁ、そうか。お前は知らないんだったな。
俺達がさっき使ってたのは授業中に
先生が使っているパソコンで、生徒側のパソコンとは、配電盤が別々になってるんだ。

生徒側のパソコンの配電盤は、違う場所に
あるから、授業の前に担当の先生が配電盤を
ONにしてから来る。
その日の授業が終わったら、また先生が配電盤をOFFにする。

でも、先生側のパソコンはこのパソコンルームにあって放課後、生徒が使ってもいいように
基本は、ONのままになってる」



あぁ、そういう事かぁ。
授業が終わった後の履歴は、基本的に
先生用のパソコンしか、ありえないって事ね。



智暁「多分、書き込んだのパソコン詳しくないやつだな。」

私「そうなの?だって、詳しくなきゃ
あんな事、出来ないんじゃないの?」

智暁「うん。だから、さっきから
ずっとそれ考えてる。
パソコン出来ない奴が、どうやって
仮名で、書き込んだのかって。」



確かに、そうかも。それとも、実はすごーくパソコンとか出来るけど、出来ない人がやったように見せかけてる、とかだったりして…

もし、そうだったらタチ悪すぎだよね。

藤堂先生と渡邊先生は、何かわかったかな?

藤堂先生か…

そういえば変な誤解されたままになってるなぁ。まず、こっちの誤解を解くべきなのかな?

こういう時、私なら「まぁいいか」とか言って放置してるだろうな。
でも、ヒロインならどうするんだろう?
このゲーム、どこまで行動が制限されてるのか、わかんないから困るよね。

連絡待つべき?いやいや、渡邊先生は知ってるけど、藤堂先生の連絡先知らないわ!

聞いておくべきだったなー。
ってか、その前に私に連絡くれるのかな?



私「うーん…」

智暁「おい。家、着いたけど大丈夫か?」

私「え?あ、うん。今日は、ありがとう
また…」

智暁「ちょっと待って。」



家に入ろうとする私を智暁くんが引き止めた。

なんだろう?



智暁「お前、やっぱ藤堂の事、好きなの?」

私「え?な、何で?」



突然、変な事言ってきたから動揺してしまった!
この前も、同じような事言われたっけ。
あの時は、何言ってるんだろうってくらいにしか思わなかったのに変だな。



智暁「勘。」

私「へ?」

智暁「嘘だよ。随分、藤堂の為に
頑張るなと思って。」



その言葉を残して、そのまま智暁は家に入っていってしまった。

「藤堂の為に」…か。

確かに、藤堂先生に、お弁当作ったし
藤堂先生に喜んで欲しくて
テスト勉強頑張ったし、今回の事だって…



一瞬、あの時の藤堂先生の笑顔が浮かんだ。

いつも私に向ける「ニヤリ」とした、ちょっとズルい笑い顔じゃなくて
片方の口角を上げただけの、笑い顔じゃなくて
学校で見せる爽やかな作り笑顔じゃなくて

この前、私に一度だけ見せてくれた
「ニッコリ」と微笑んだ、あの笑顔。

私、藤堂先生に笑って欲しいって
思ってる…かも?

そう思ったら、さっき智暁くんが言った
言葉が「ストン」と私の心に落ち着いた。

あぁ、そっか。ここまで頑張れるって事は
藤堂先生の為だからなんだ。

ヒロイン…じゃなくて“私が”藤堂先生の事
気になり始めてる。
いや、もしかしたら好き…なのかも?

「好き」と言う言葉が浮かぶと、急に恥ずかしくなった。

なんて言ったらいいのか。
うん十年もご無沙汰だった感情が溢れて、甘酸っぱい気持ちになったからかな。

頬を両手で抑えると、少し火照っているようだった。





自分の部屋のベッドに横になり、パソコンルームの出来事を思い出す。



私「やっぱり誤解、ときたいかも」



さっき、ヒロインならどうするとか
そんな事、考えてたけど
今の私は、このままじゃ嫌だな、なんて思ってる。

だけど、どうやって藤堂先生に言えばいいんだろう?



私「智暁くんとはキスしてません!」



面と向かって言えそうもないし
どうでもいい、とか言われそう。



『 ぼふっ』



顔面を枕に埋めた。

そして、枕に埋めた顔を上げ



私「未遂です!」



いやいや、コレはコレで、しようとしてた
みたいな言い方になるよね。



私「ゴミ取ってもらってたんです!」



これなら余計な事言ってないし、ストレートに伝わりそう!

うん。これにしよう。

でも、なんか、だから何?とか言われそう。

あー、ダメだ。



『 ぼふっ』『 ぼふっ』



恋愛偏差値の低い私には、どうしたらいいのかわかんない…



『 ぼふっ!』



そんな事を考えながらベッドの上で
軽く暴れていたら、スマホの着信が鳴った!

手に取ると、知らない番号からだった。



私「誰だろう?」



私は導かれるまま、スマホの受話器のマークを
上にフリックした。

    
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