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69無情
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「おい、人が倒れているぞ!」
「これは?」
「それは猫耳族の族長、いえ前族長のルナです」
俺が終末の化け物を倒した後、しばらくして、元のルナが姿を現した。
ボロボロで衰弱してはいるが、間違いなくルナだ。
良かった。
終末の化け物を倒すのは当然だが、女の子を手にかけるとかはちょっとな。
と思っていたから、生きていてくれて良かった。
「うっ」
「大丈夫か? 族長?」
俺は族長、いや元族長のルナに手を差し出した。
「私なぞに手を貸してくれるのか?」
「お前は終末の化け物に醜いところを利用されただけだ」
「アルと言ったか、お前は人が良すぎる。どのような理由があっても罪は罪だ。私がしたことは取り返しが付かない。罪は償うしかない。私が人を恨み、嫉みを持ったためにたくさんの同族が奴隷になり、何人かは貴族の趣味のために殺された。決して許されることでない」
ルナはまるで人が変わったかのようだ。
どういうことだ?
「アル。お前に感謝する。今、私の心にあるのは自身のしたことへの後悔と被害を受けた者達へどうお詫びしたら良いかだけだ」
「ルナ? お前?」
「はは。どうやら、邪神に魅入られた私に宿った化け物が私の化け物の心を全部喰ってくれたようだ」
ルナは下を向いて小さな声で俺に言った。
そうか、ルナは生い立ちの上で宿った悪魔のような負の感情も、邪神に魅入られて増幅された負の心も終末の化け物と一緒に消えたのか?
「族長、いえ、元族長、あなたを里に連れ帰り、裁判を受けてもらいます」
「連れて行け、リリー。だが、私に族長として最後の判断をさせて欲しい。お願いだ」
「最後の判断? 今更一体何を?」
ルナの小さな声は俺以外には聞こえていなかったのだろう。
怪訝そうな顔をするリリー。
だが、俺はルナの最後の判断が何なのか察しがついた。
「リリー、俺からも頼む。族長としての最後の名誉をあげてくれ」
「アル殿がそう言うなら……」
☆☆☆
こうして事件は収まった。
まだ、これから奴隷として売られてしまった猫耳族の女の子を助けるという重要な仕事があるが、それは次期族長と国王陛下の仕事だ。
国王陛下はハウゼン伯爵の所業を知り、猫耳族に深く陳謝し、犠牲者の救出に力を貸してくれると約束した。
既に殺されてしまった女の子もいる。
非合法の奴隷は所持していること自体が罪なのだ。
その為、国王陛下は今回に限り、進み出て猫耳族の非合法な奴隷所有を申し出れば罰しないというおふれを出した。
だが、アリーの話だと、上流貴族などは体裁を恐れ、密かに処分。
つまり殺してしまうこともあり得ると言っていた。
アリーはかなり落ち込んでいた。
リーゼもだ。
元、公爵令嬢の彼女にもわかったのだろう。
そして、クリスもまた落ち込んでいた。
おそらくアリーやリーゼから聞いたのだろう。
そんな気持ちの中、猫耳族は宴を開いてくれた。
皆、事件解決の立役者の俺達を猫耳族の珍しい料理でもてなしてくれる。
俺達の接待にアイラとリリーが対応してくれた。
俺の両隣に二人がいるが、珍しくクリスは何も言わない。
アリーやリーゼもだ。
アイラもリリーも皆が楽しげに宴会を楽しむ中、時々辛そうな顔をしていた。
次期族長はアイラに決まったそうだ。
ちなみに候補者にはリリーも含まれていたが、アイラに決まった。
まあ、リリーはそそっかしいからな。
アイラの方が族長には適してるのだろう。
こうして宴が終わり、一泊して猫耳族の里を後にした。
アイラに猫耳族の秘薬を頼んだところ、快く分けてくれた。
「なんか、後味が悪いわね」
「そうね。流石のアル君も犠牲者全員助けるとか無理だもんね」
「でも、ご主人様は頑張ったのです。特別にご褒美をあげないといけません」
「まあ、な」
俺は皆に同意した。
だけど、皆にはルナから悪魔の心が消えてしまい、真人間に戻ったことは言わなかった。
世の中には取り返しのつかないこともある。
ルナ自身が言っていたこと。
知らない方がいいこともある。
そして、ルナが最後に族長として一つ判断をしたいと言っていた。
俺はそれが何なのか察しがついていた。
人攫いは死罪。
ルナの最後の判断とはつまり……
その時。
『――――― !!!!!!』
それは誰かの断末魔の最後の命の輝きと消滅。
俺の探査のパッシブスキルには倒された魔物や人が死んだ時の感じがわかる。
里の方から人の命が一つ消えた。
ルナだろう。
そしてルナの首を刎ねたのはおそらくリリーだろう。
里の戦士としての役割。
辛かっただろう。
ルナと話して、ルナから邪悪な心が消えていることを知っただろうから。
ルナが自分で自分に判断を下した理由。
察しがつく、ルナは自分に同情して次期族長が心を痛めるのがわかったのだろう。
ルナのやったことはたとえ改心したとしても許されることではない。
族長だったルナ自身が一番良くわかっているだろう。
ルナは恵まれない娼婦の娘だった。
だが、独学で学び、里の色々なことに尽力して認められて族長にまで登りつめた。
全ては自身の栄華のためだったが、恵まれないルナを里の人は認めた。
ルナが元娼婦だったことは里の公然の秘密だったそうだ。
アイラとリリーが宴の時に教えてくれた。
そのルナがこんな結末を迎えるとは……
無情。
そんな言葉が俺の脳裏をよぎった。
「これは?」
「それは猫耳族の族長、いえ前族長のルナです」
俺が終末の化け物を倒した後、しばらくして、元のルナが姿を現した。
ボロボロで衰弱してはいるが、間違いなくルナだ。
良かった。
終末の化け物を倒すのは当然だが、女の子を手にかけるとかはちょっとな。
と思っていたから、生きていてくれて良かった。
「うっ」
「大丈夫か? 族長?」
俺は族長、いや元族長のルナに手を差し出した。
「私なぞに手を貸してくれるのか?」
「お前は終末の化け物に醜いところを利用されただけだ」
「アルと言ったか、お前は人が良すぎる。どのような理由があっても罪は罪だ。私がしたことは取り返しが付かない。罪は償うしかない。私が人を恨み、嫉みを持ったためにたくさんの同族が奴隷になり、何人かは貴族の趣味のために殺された。決して許されることでない」
ルナはまるで人が変わったかのようだ。
どういうことだ?
「アル。お前に感謝する。今、私の心にあるのは自身のしたことへの後悔と被害を受けた者達へどうお詫びしたら良いかだけだ」
「ルナ? お前?」
「はは。どうやら、邪神に魅入られた私に宿った化け物が私の化け物の心を全部喰ってくれたようだ」
ルナは下を向いて小さな声で俺に言った。
そうか、ルナは生い立ちの上で宿った悪魔のような負の感情も、邪神に魅入られて増幅された負の心も終末の化け物と一緒に消えたのか?
「族長、いえ、元族長、あなたを里に連れ帰り、裁判を受けてもらいます」
「連れて行け、リリー。だが、私に族長として最後の判断をさせて欲しい。お願いだ」
「最後の判断? 今更一体何を?」
ルナの小さな声は俺以外には聞こえていなかったのだろう。
怪訝そうな顔をするリリー。
だが、俺はルナの最後の判断が何なのか察しがついた。
「リリー、俺からも頼む。族長としての最後の名誉をあげてくれ」
「アル殿がそう言うなら……」
☆☆☆
こうして事件は収まった。
まだ、これから奴隷として売られてしまった猫耳族の女の子を助けるという重要な仕事があるが、それは次期族長と国王陛下の仕事だ。
国王陛下はハウゼン伯爵の所業を知り、猫耳族に深く陳謝し、犠牲者の救出に力を貸してくれると約束した。
既に殺されてしまった女の子もいる。
非合法の奴隷は所持していること自体が罪なのだ。
その為、国王陛下は今回に限り、進み出て猫耳族の非合法な奴隷所有を申し出れば罰しないというおふれを出した。
だが、アリーの話だと、上流貴族などは体裁を恐れ、密かに処分。
つまり殺してしまうこともあり得ると言っていた。
アリーはかなり落ち込んでいた。
リーゼもだ。
元、公爵令嬢の彼女にもわかったのだろう。
そして、クリスもまた落ち込んでいた。
おそらくアリーやリーゼから聞いたのだろう。
そんな気持ちの中、猫耳族は宴を開いてくれた。
皆、事件解決の立役者の俺達を猫耳族の珍しい料理でもてなしてくれる。
俺達の接待にアイラとリリーが対応してくれた。
俺の両隣に二人がいるが、珍しくクリスは何も言わない。
アリーやリーゼもだ。
アイラもリリーも皆が楽しげに宴会を楽しむ中、時々辛そうな顔をしていた。
次期族長はアイラに決まったそうだ。
ちなみに候補者にはリリーも含まれていたが、アイラに決まった。
まあ、リリーはそそっかしいからな。
アイラの方が族長には適してるのだろう。
こうして宴が終わり、一泊して猫耳族の里を後にした。
アイラに猫耳族の秘薬を頼んだところ、快く分けてくれた。
「なんか、後味が悪いわね」
「そうね。流石のアル君も犠牲者全員助けるとか無理だもんね」
「でも、ご主人様は頑張ったのです。特別にご褒美をあげないといけません」
「まあ、な」
俺は皆に同意した。
だけど、皆にはルナから悪魔の心が消えてしまい、真人間に戻ったことは言わなかった。
世の中には取り返しのつかないこともある。
ルナ自身が言っていたこと。
知らない方がいいこともある。
そして、ルナが最後に族長として一つ判断をしたいと言っていた。
俺はそれが何なのか察しがついていた。
人攫いは死罪。
ルナの最後の判断とはつまり……
その時。
『――――― !!!!!!』
それは誰かの断末魔の最後の命の輝きと消滅。
俺の探査のパッシブスキルには倒された魔物や人が死んだ時の感じがわかる。
里の方から人の命が一つ消えた。
ルナだろう。
そしてルナの首を刎ねたのはおそらくリリーだろう。
里の戦士としての役割。
辛かっただろう。
ルナと話して、ルナから邪悪な心が消えていることを知っただろうから。
ルナが自分で自分に判断を下した理由。
察しがつく、ルナは自分に同情して次期族長が心を痛めるのがわかったのだろう。
ルナのやったことはたとえ改心したとしても許されることではない。
族長だったルナ自身が一番良くわかっているだろう。
ルナは恵まれない娼婦の娘だった。
だが、独学で学び、里の色々なことに尽力して認められて族長にまで登りつめた。
全ては自身の栄華のためだったが、恵まれないルナを里の人は認めた。
ルナが元娼婦だったことは里の公然の秘密だったそうだ。
アイラとリリーが宴の時に教えてくれた。
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無情。
そんな言葉が俺の脳裏をよぎった。
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