本で釣れました~冒険者令嬢は恋愛よりも本をとる

東川 善通

文字の大きさ
3 / 20
冒険者令嬢はリリースを希望します

私はネギをしょったカモでした

しおりを挟む
 資金作りから帰った私の目の前にはお母様がいざという時に着ていたらしい水色の可愛らしいベルラインドレス。きっとお祖父様がお母様のために無理をして作ったのでしょうね、装飾もそうだけど、シルクの布もたっぷりと使用されている。いや、ドレスだけじゃないわね、その傍にはお出かけセットまでサロンに準備されていた。

「何、これ」

 思わず零した言葉。誰だって零すわ、こんな準備がされていたのなら。まるで、追い出されるかのような……。

「まさか!?」

 実はもう私すらも置いておくことができないから出て行けと言う暗示なのでは!?

「んなわけ、あるか!」

 ゴスッと鈍い音が私の頭からした。痛い。
 バッと振り向けば、王都にいるはずのお兄様――ベルトラン・スティングラーが本を持って立っていた。もしかして、その分厚い本で、私の事叩きました? 酷いわ!
 しかも、どうやら私の推測は声に出ていたようでお兄様は呆れた表情。しょうがないじゃない! なんの話のないままに用意されてるんだから、誰だって勘違いするわ。

「今度、王都で夜会があってな」
「お断りします」
「無理だ。断るな。決定事項だ」

 思わず断ったにも関わらずお兄様は引いてくれません。そんな私達の会話が聞こえたのかお父様もサロンに顔を覗かせる。

「お父様、お兄様が王都での夜会に出ろと」
「え、あ、うん」
「……まさか」
「残念だったな、アル、発案者は父上だ」

 助けてという私に目を右往左往させるお父様。果てしなくイヤな予感。信じたくなかったけれど、どや顔でお兄様が正解を告げてくれやがりました。
 ガクッと項垂れた私にお父様はアル、すまないと声をかけてくれるけど、こんなのってあんまりよ。どうせ、お兄様は私が逃げないための見張りだろうし、お父様に悲しい顔されたら行かないわけにはいけないじゃない!!

「まぁ、その、なんだ、これとは別に王都で本買ってやるから」
「うぅ、約束よ。破ったらただじゃおかないから」

 本に負けてるじゃないかとか言わないで。わかってるから。自分でも弱いわねと思ったくらいよ。
 でも、しょうがないじゃない! こっちには売ってない高価な本や貴重なものがあったりするんだから。誘惑には正直にいくわ! 大丈夫。ちゃんと、そこはお兄様やお父様限定だから、これ。

「相手探せよ?」
「一応、形は気を付けるわ。でも、私、話すのは苦手よ」
「そこは頑張れとしかいいようがないな」

 あれ? 結局、これは出ていけということじゃない。嫌よ、ダンジョンもあるのに。まぁ、相手が見つからなければそれで終わりだし、こんな貧乏令嬢を欲しがる人なんていないでしょ。ぶっちゃけ、年齢的には行き遅れというあれだし。いや、自分で言ったけど、結構ショックね。冒険者の中には三十路辺りまで独身っていう人もいるけど、貴族社会の中ではそんなことは相手が死亡しただとか何らかの問題があったとかよくない印象を持たれる。できることなら、私だって、結婚したいわ。
 ふと、私は重要な逃げ道に気づいた。

「私、ドレスの着付けや化粧、うまくできないわ」
「あぁ、それは大丈夫だ。俺の友人に使用人を貸してもらえるよう頼んだ」

 既に読んでましたとばかりににやりと笑って答えたお兄様。ちょっとイラッとしたので脇腹を殴っておくことにします!
 そして、更に残酷なことに私が稼いだお金は夜会のための交通費用だった。なんということでしょう。



「本当、酷いでしょ」
「なるほどな、アルはカモネギになっててドナドナされるってことか」
「『カモネギ』? 『ドナドナ』?」

 時間が少しあるからということで私はミトロヒアルカの友人ムカの所を訪れた。暫く留守にすることを伝えるのと愚痴を言いたくてね。そしたら、よくわからない言葉を告げられた。なにその、美味しそうなのと呪文みたいなのは。
 ちなみにムカは私たちスティングラー家の人間にしか見えない幽霊みたいなもの。時と場合によって男にも女にもなれるらしい。ちなみにムカのおかげでここにある本は読めるのよね。たまに異邦人研究をまとめた本を一緒に読んで語り合ったりもすることがある。まぁ、ムカはゲラゲラ笑ってるんだけど。

「んー、簡単に言えば、あれだ、餌が自分を旨くするものを一緒に持ってくるってこと。ドナドナは連行されていくこと的な感じだな」

 何となくイメージは掴めたけどもう少し詳しくと言えば、由来から答えてくれた。ドナドナ、まさに私だわ。

「ま、気を付けてな」

 溜息を吐いた私にムカはそう言ってポンポンと頭を叩いた。うん、ムカとまた話すためにも頑張らないとこう。そうしよう。
 そして、いってらっしゃいと見送られ、私はお兄様と一緒に王都へと旅立った。



「おい、馬車を借りたのに何でお前は御者台にいるんだ」
「いや、その、お母様のドレスを汚しそうだし、中は落ち着かないもの」

 中は格安のということもあって質素な作りで、中々の座り心地だったのだけど、深窓の令嬢じゃない私にはその空間が我慢できなかった。本を読んでればいいじゃない? 確かにその通り。でも、私と一緒にドレスや装飾一式も同じ空間にあるわけで、何かの手違いで汚したり壊したりした暁にはショックで立ち直れなくやってしまいそうなのよね。
 だから、荷台には鍵をかけてしれっとお兄様の隣に腰を下ろした次第です。

「お前らしいっちゃらしいけどな」

 そう苦笑いをしつつ呟いてたけど、中に入っとけと言わない辺りお兄様はわかっておられるし、優しさでもあるかもしれないわね。
 とはいえ、御者台では本を読む環境じゃないので、お兄様とお喋り。
 お兄様がいない間のこと、ムカと考えた悪戯計画何てものを私が話し、お兄様は王都での仕事や環境を語ってくれた。そこで、驚いたのだけど、なんとですよ、お兄様、王様から目をかけてもらっているそうで、勅命を受けることも度々だそう。まさかのお兄様の事実に驚きが隠せない。

「ま、家に入れる分とあれに大体、消えるがな」
「まだ集めているのね」
「当然だろ。俺の生き甲斐だぞ」

 あれというのは武具のこと。私が本を集めるのが好きなら、お兄様は武具。お母様は押し花だったらしいわ。一番お金がかかるのがお兄様よね。まぁ、本も貴重なものは相応の金額になるのだけど。

「それにしても、どうして目をかけてくださってるのかしら」
「あぁ、そこは王子のレオ、レオカディオと友人だからだろうな」

 なんということでしょう。お兄様ったらいつの間にこの国の王子様とご友人になられたのでしょう。詳しく出会いから聞いたら、お兄様も王子様のことを存在は知っていたものの名前や姿を知らなかったらしく、学校に入学した際、一人でいたから声を普通にかけてしまったらしい。そこから、普通に接してほしいと言われ、今の今まで付き合いがあるとのこと。

「お兄様が無事でよかったわ」
「あぁ、そうだな。俺も今考えれば不敬罪で捕らえられててもおかしくないと思った」

 そんなお兄様の交友を聞きながら、野宿したりと長い道のりを楽しんだ。
 まぁ、その頃の私は全てを軽く考えてましたとも。えぇ、考えてましたとも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...