本で釣れました~冒険者令嬢は恋愛よりも本をとる

東川 善通

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冒険者令嬢はリリースを希望します

私が本で釣りました?

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 夜会当日。私は朝から準備とお復習に時間をとっていた。お兄様もお昼頃に顔を出し、ココット達のおもちゃになっていた。それにしても、燕尾服とかも揃えられているとは恐れ入った。そこは準備しろというもんだと思ったけど、どうやら王子様は是が非でもお兄様には夜会に出席させたいらしい。

「もう、いいだろ!! 服はこっちで準備してんだから」
「準備されているのも十分ベルトラン様にお似合いですが、こちらも良いかと」

 どこから出してるのか次々と現れる服にお兄様はげんなり。それにしても、顔が整ってるって凄いわ。何を着てもカッコいいもの。決して身内贔屓なんかじゃないわ。

「アルセリア様もそろそろ準備を」
「えぇ、わかったわ」

 シャルロさんに声をかけられ、私も準備のために部屋を移動する。コルセットにパニエにドレスと着替えしてもらう。それからは椅子に座って、化粧とヘアセットを同時進行。完成の声に鏡を見たら、別人がいた。普段化粧なんてしないから、こう見ると化粧の力って凄いわね。ちょっとは童顔も抑えられてるみたいだし、帰る前にやり方聞いておこうかしら。

「お、大分変わるもんだな」
「えぇ、私もそう思うわ」
「何をおっしゃいますか、元が大変素晴らしいのです。理解も早く、大変教え甲斐がございました」

 知識も多いので、できれば殿下を射止めていただければとぼそりと聞こえた。やめて、私に王子様の相手なんてできません!! いや、そもそもね、王子様を射止めるって難しいはずよ。今の今まで婚約者がいらっしゃらないことがその証拠。
 リヴァングストン王家。私も噂程度でしか聞いたことないのだが、一目惚れ一途という特殊な一族。そのため、お相手は一人という方がこれまでにも多い。むしろ、大多数。稀にその恋が叶わず、一人寂しくという方もいらっしゃるとか。でも、基本的には何らかしら頑張るのか結ばれるらしい。本で読んだヤンデレという方は殆どいないらしい。まぁ、今の第二王子が若干その気があるとかないとか。そういうのを第二王子様の生贄もといかの方を射止めた友人がいっていた。ちなみにお相手は同性異性関係がない。その場でビビッと来てしまうらしいのだ。と考えると、お兄様のご友人である王子様はそういう方に出会えてないという事。だからこそ、今回のような夜会が開催されるのだ。つまり今回、出席される方々は王子様と初対面な方が多いのだろう。
 まぁ、会ったこともないのでワンチャンあるといえば、あるのだけど、私の方はない方向でお願いしたい。私にお淑やかな云々は無理だもの。むしろ、自分で言うのもなんだけどこんな貧乏令嬢がお相手とか可哀想すぎるわ。



 そんなこんなで私とお兄様は夜会の開かれる王城へ。王城だなんて聞いてませんけどとじとりとお兄様を睨んだけど、肩を竦められるだけに終わった。一言言ってもらえれば、覚悟も改めてできたというのに、全く。

「レオには俺が挨拶しておくから、お前は食事でも楽しんでろ」
「あら、私も行きますわよ?」
「そんな緊張された表情で来られても嫌だろうよ。もう少し、この空気に慣れてからでいい」

 そう、私の頭をポンポンと撫でて、お兄様はご令嬢の花束の中に突入していった。あそこに王子様がいるのね。凄いわ。にしてもよ、お兄様、カッコよすぎません?? あれで何故モテないのか!? 貧乏だからですよね、わかってます。
 取り合えず、残された私はお兄様の言われた通り、食事を楽しむことにしよう。
 普段ならば食べられないような豪華な食事に舌鼓を打っているとこそこそ話す声。

「あれ、スティングラー家のご令嬢?」
「みたいよ。顔はよくても体は貧相ね」
「ホントね。それに貧乏ってことを考えれば絶望的ではなくて」

 クスクスと笑う声に私は嫌になる。別に私は結婚なんてしなくてもいいと思ってるもの。家と本のために冒険者として働ければ十分よ。
 そんな聞こえるような陰口とは別に普通に男性に声もかけられたりした。しかし、私が自己紹介をすれば途端に顔色が変わる。

「えっと、その、いい相手が見つかることを祈ってるよ」
「お互いにそうですわね」

 ふふっと笑ってそう言えば、男性は逃げていった。貴方から言ったのに失礼よね。こういうこともあったけど、面と向かって嫌味も言われた。王子様を狙ってるんでしょとかどうのこうの。全く興味ないですし、そもそも来る気自体皆無だったからね。
 疲れた。体がというよりも心がというやつよ。近くにいた使用人さんにお手洗いの場所を聞き、会場を離れる。場所は大丈夫。ミトロヒアルカのお陰で道とかはすぐに覚えられるようになってるから。
 お手洗いに行く途中で庭を発見。月光の降り注ぐガゼボはそれはもう神秘的で流石王城とまで思ってしまうほど。
 丁度持って来た本が『月光の妖精と花の女神』という本だし、どうせ、戻らなくても平気だろうから少しだけ読んでもいいよね! では、早速とスカートを捲り上げるわけにはいかない。そういうのはわかってるわ。お手洗いでついでに取り出しておくから問題ないわ。
 お手洗いの後、私は本を胸に抱え、月光のガゼボへとお邪魔した。姦しい会場とは違い、風に奏でられる草木の演奏は優しく落ち着く。

「うーん、この辺かしら」

 ガゼボの中をうろうろとして、月の明かりが本に差し込む場所を探す。ランタンでも拝借してくればよかったと思ったのはココに来てから。まぁ、借りようとしても貸してくれないだろうけど。

「ここがいいわね」

 いい場所を見つけ、本を読む。月が陰ってしまったら、本を読むのをやめて、手入れの行き届いた見事な庭園を眺める。青空の下で見ても、楽しめそうね。まぁ、そんな時間に来ることなどないのでしょうけど。
 穏やかだわ。先程までの心のダメージが癒されるわ。それにしてもよ、あんな陰口ばかりで何が楽しいのかしら。私にはわからないわね。
 ぺら、ぺらりと読書を再開し、文字を追っていると不意に差す影。月が陰った感じではないからと、目をちらりと上げれば男性の姿。影になっているから容姿までははっきりしないわね。

「今、本を読んでるの。そこに立たれたら読めないわ」
「あ、あぁ、それはすまない。レディ、貴女の隣に座っても?」
「えぇ、それは構わないわ。でも、私と一緒にいても面白いことなんてないわよ? パーティー会場の方が話し相手も見つかるのではなくて?」

 隣に腰を下ろした男性を改めてみると息を飲むほどの美しさだった。いや、顔がいいお父様やお兄様男性はよく目にしてたけど、彼ら以外に目を奪われるなんて思わなかった。
 金糸のような髪は月光に照らされキラキラと輝いていて、こんな人、会場にいたかしらと思うほど。まぁ、大して人は見てなかったけど。これだけの人だったら、ちらっと目に入っただけでも覚えてそうなものなのだけど。
 顔には勿論出さないわよ。本に目を戻しながらそれとなく、会場にと言ってみたけど、苦笑いを返された。

「正直な所、疲れてしまってね」
「そうなの。確かに貴方、美しいもの。参加されたご令嬢たちは放っておかないでしょうね」

 疲れたように息を吐いた彼に素直な言葉をかける。これだけ美人なら、声をかけないなんてことはないだろう。私ですら、声を出してしまいそうだし。

「出来れば、放っておいてほしい所なんだけど。まぁ、俺のことはいいとして、貴女も令息たちは放っておかないんじゃないかな?」
「残念ね。私はスティングラー家の人間だから、自己紹介した途端逃げられるわ」

 貧乏って私も言うけど、実際には生活には困ってないのよね。ただ、普通のご令嬢方のように夜会を開いたり、服や宝飾品を買ったりと湯水の如く使うお金がないだけ。それでも、普通の貴族の方からしたら、堪えられないことなのだろうけど。だって、使用人はいないから自分のことは自分でしなくてはダメだし、生活を豊かにするためには自分で稼がなくてはいけないから。結構、楽しいのにね。
 さて、私がスティングラー家の者と知って彼はどうするかしら。ちらりと見たけれど、彼の表情に変化はなし。移動する気もないよう。

「スティングラー家は貧乏と言われているけど、そんなに貧乏ではないだろう? それにあまりに逼迫してるのであれば、援助の上乗せの申請もするだろうし」
「いつどう転ぶかわからない家を親戚に持つのが嫌なのだと思うわ。もしかしたら、親戚になった途端金を無心してくるのかもと考えてるのかもしれないわね」

 不愉快でしかないわ。折角の景色の中なのにごめんなさいと続ければ、彼は自分が聞いてしまったからと逆に謝った。貴方が謝る必要なんてないのに、変な人よね。

「ところで、実はさっきから気になっていたんだが、何を読んでいるんだい?」
「あぁ、これね、これは『月光の妖精と花の女神』というものよ」

 多くの人に愛されているのは妖精と女神が愛し合うハッピーエンドになってるけど、実はこれは悲恋物で夜に目覚めてしまった花の女神様のお世話を月光の妖精がするの。一生懸命に愛して、見守っていくのだけど、月の神様が花の女神様に惚れて、自分の花嫁としてしまう。妖精は自分の主人のお嫁さんになるのだから、素晴らしいことだ、誇らしいと自分に言い聞かせて、初めて彼女と出会った場所で彼女を思いながら眠りにつく。そんな話で、原作! と思ってワクワクして読んだら、全く違う話で困惑したのを覚えてるわ。月の神様と妖精をなんで同じにしたのと憤ったけど、同時に子供が読むことを考えれば、ハッピーエンドの方が都合がよかったのでしょうね。

「えっと、それは楽しいのかい?」
「楽しいとは違うかもしれないけど、そうね、例えばここの描写」

 困惑したようにそう呟く彼に気持ちはわかるわと心の中で頷く。そして、読んでいたところには栞を挟んで前のページを開いて彼に見せる。近づいた私に彼はきょとんと目を丸くしたけど、他意がないのがわかったのかどこかなと一緒に本を覗き込んだ。
 一回目はただ文字通りの印象を受けると思う、けれどこのあとの展開を読んだ後にもう一度読み直すと印象が変わる。この時には既になんてことを考えられるというような説明を彼にすれば、なるほどと頷く。

「会話できる程度にはと色々と本を読んでたんだけど、確かにそういう読み方もあるのか。うん、面白いことを聞いた」
「面白いと言ってもらえて光栄だわ」
「貴女のおすすめの本などあるのかな?」

 おすすめ。人に薦められるのは色々あるけど、彼が楽しめそうな本はどんなのがあるかしら。話のネタにっていうのじゃなくて、純粋に彼自身が楽しめそうなもの。……結構、難しいわね。

「もしかして、迷惑だったかい?」

 考え込んでしまっていたようで彼にそう声をかけられ、慌ててしまう。

「貴方が面白いと思えるものを考えてたの。折角なら、ほら、面白いとか楽しいって思ってもらいたいじゃない」

 素直にそう伝えれば、彼は目を丸くしたけど、すぐに目を細めて、笑みを浮かべた。

「今、貴女がよく読んで本を教えてくれるかい?」
「よく読んでる本? そうね、異邦人の研究書とかはよく読んでるけど」
「また不思議なものを読んでるね」
「あら、結構楽しいのよ」

 そんな話をして、珍しい本ならうちにもあるよと言われ、ピクリと反応してしまう。

「よかったら、俺個人として貴女を招待させてもらっても?」
「迷惑じゃないかしら?」
「楽しく読んでもらえる人ならきっと歓迎してくれるよ」

 彼の家に招待してもらう約束をしていたら、ふと彼は忘れてたと頭を掻いた。どうしたのかしら、やっぱり私のような娘を招待するのは嫌なのかしらと顔に出ていたらしく、彼はそうじゃないと否定する。

「あまりに貴女といるのが楽しくて貴女のお兄さんが探してるのを忘れてた」
「まぁ、それは嬉しいけど大変なことね。すぐにお兄様のもとへ戻るわ」
「あぁ、そうするといい。招待状はご実家の方に送らせてもらうよ」
「えぇ、楽しみにしてるわ」

 本を抱え、お辞儀をして彼と別れを告げる。
 お兄様には怒られてしまった。当然ね。取り合えず、ガゼボで本を読んでいたと言えばお前らしいと言われつつ、頬を抓られた。頬が伸びてしまったらどうするつもりかしら。

「にしても、よく戻ってきたな。お前のことだから、終わるまで戻ってきそうにねぇのに」
「あぁ、それは親切な方がお兄様が探してると教えてくれたの」

 名前はと聞かれて、気づいた。彼の名前聞いてない。顔に出てたようでお兄様は何してんだと呆れ顔。

「まぁ、次に会うときにでも、礼を言っておけよ」
「えぇ、そうするわ」

 二人で残りの時間を過ごし、私たちはシャルロさんたちに挨拶をして、そのまま実家への帰路についた。



 夜会から一ヶ月。私は普通の生活に戻っていた。勿論、冒険者としてミトロヒアルカに潜ったり、本を読んでゴロゴロしたりの生活よ!
 とはいえ、そんな平凡な生活はとある一通の手紙で一変した。途轍もなくめんどくさい方向に。
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