11 / 20
冒険者令嬢はリリースを希望します
精霊にも好みというものがあるらしい
しおりを挟む
「精霊が見えるの」
今の人達は多くが見えない。だから、すでに信じている人はごく少数派になっている。お爺さんやお婆さん世代だとうっすらぼんやり精霊が分かる人もいるらしいけど、殆どの人は口を噤んでしまっている。言ったところで、彼らを見せてあげることなんて簡単にはできないから。
「信じられないでしょう? 学園でも精霊はいないものとして教えられるってお兄様が言ってたわ」
ドラゴンの口に水を飲ませるようにお皿にした手を持っていけば、そこから私の魔力を食べる。精霊は一定の魔力を蓄えれれば、見えない人にも見えるように出来る。まぁ、この一定の魔力っていうのが曲者なんだけど。精霊によって量が違うのよね。だから、人によっては枯渇するまでだったりと命を懸ける羽目になる場合だってある。まぁ、スティングラー家の人間は豊富らしいので多少食べられたところで動けなくなったりということがない。
もぐもぐもぐもぐ。それにしても、よく食べるわね。普通ならもう少し少ない状態でも十分な気もするんだけど。あ、ウィルストップがかかった。もうダメだと止められたドラゴンは抗議の目をウィルに向けるけど、ウィルは笑顔を深めるだけ。ドラゴンは抗議を諦めたようで私の膝の上でブルブルッと体を震わせてから、座り直す。半透明だった体は色も明瞭になって、透けなくなった。
ルーサーさんを見れば、目を大きく見開いていた。あぁ、この子が見えるようになったのね。
「それ、は、精霊なのか?」
「えぇ、精霊よ。元々精霊は姿形を持たないものだから、こうやっていろんな生物の姿をとるの。勿論、人の姿を取る精霊だっているわ」
ウィルやお兄様の傍に居る精霊サラなんてそうだ。まぁ、彼らは元々人であったからなんだけど。
『やぁやぁ、初めまして、かなー。ルーサー、君の傍にいさせてもらってるよー』
驚いて立ち上がるルーサーさん。その手に取った剣を納めてもらってもいいかしら。
『ほらほらー、剣なんて危ないよー。まぁ、ぶっちゃけ、剣なんて僕には効かないわけだがねー。ただ単に実体化が解けるだけさー』
のんびりと喋り、私の膝で寛ぎ始めるドラゴン。ルーサーさんは危険ではないかと確認してきて、私は平気よと答える。それにドラゴンが全くもって失礼だなーなんて思ってもないだろう言葉を吐く。
「これが精霊……」
『その言い方、失礼だぞー。安全性に関しては君のお祖母さんは僕を認知してるし、お祖父さんもなんとなく認知してるんだからなー』
「なんとなく、ということはそこにナニかがいるとわかる程度ね」
「え、いや、待ってくれ、俺の祖父母は精霊が見えてるのか??」
え、え、と混乱するルーサーさん。まぁ、そうようね。いきなり、祖父母は実は見える人だよと言われればそうなる。しかも、自身は学園でいないものだと学んでいれば、更に当然。
『見えるよー。まだ彼らの時代にはアルちゃんの言った程度ぐらいならいたからねー』
いやー、でも、人と久しぶりに話すのは楽しいねーとけらけら笑うドラゴン。随分、人と話してなかったのね。
『てか、アルちゃんやー、魔力ちょーだい』
「ウィルのストップかかったからダメよ」
『ケチな精霊だねー。――アイタッ!!』
いい笑顔を向けてきたドラゴンだが、断れば私の後ろにいるウィルを睨む。けれど、ウィルも黙ったままではいなかったようでドラゴンにデコピン。ルーサーさんにはドラゴンしか見えてないから、顔が混乱してる。
「ウィルというのは」
「私と一緒にいてくれる精霊よ。基本的に魔力を持つ人一人につき一精霊がつくわ。例外は第二魔法を使う人にはその分つくけど」
『ちなみに僕はコーエンという名前があるんだよー。いい名前でしょー』
えっへんと胸を反らすドラゴン――コーエンはひとしきりゴロゴロした後、ふわりとルーサーさんの肩へと移る。重さがないことに戸惑ったのか、移られたことに戸惑ったのか、どうすればいいという顔でこちらを見てくる。
「コーエンはルーサーさんの精霊ね。精霊がいると魔力消費が少なくなるのよ」
「見えてないのに協力してくれてるってことか」
「えぇ、そうよ。ただ、精霊に見限られてしまうと魔力消費はよくて倍。酷ければ、数十倍必要になることがあるそうよ」
魔力の保有量が多ければ、大して問題はないだろうけど、なければ死に直結する可能性も出てくる。さらに恐ろしいのは多くの魔力を消費するという事で魔法を使わなくなること。そうなると保有量も徐々に目減りして、次世代も魔力が少なくなっていく。最終的には魔力を持たなくなる可能性だってある。けれど、そこをわかっているのは恐らくスティングラーの血筋のものぐらいじゃないかしら。
「ところでさー、魔力をあげる場合、条件とかある?」
「条件ね、やっぱり相性かしら」
『アルちゃんの魔力と相性バッチリー! もっと欲しいんだけどなー』
そう言ってコーエンはチラリとウィルに抗議してみるけれど、ウィルは素知らぬ顔。
『あ、そうかー、あれだねー、王太子と結婚してくれたら、いつでも貰いに行けるねー』
精霊の話をしてたのに、どうしてそこに持っていく。そんなことを思ってたのが顔に出てしまったらしく、ルーサーさんは大笑いし始めた。
「それもそうだなー、そうしてくれるとコーエンともこうして話せるなー」
『ねー』
余計な敵を増やしてしまった感が強い。いや、同じような魔力なら、お兄様でも有りでは?
そう思って尋ねてはみたけど、ダメらしい。なぜ。
『いやー、相性は確かにいいんだけどー、好みじゃないんだよねー』
その点、アルちゃんはどちらもバッチリだよーというコーエン。全く、好みのものがあると貪欲になるというのは人間も精霊も変わらないようね。
「そういやさー、あげ方ってこんな感じか?」
そう言って、私がコーエンにやっていたように手をお皿にしているルーサーさん。うーん、おしい。まぁ、それでも湧水のように漏れた魔力は溜まるから問題はないんだけど。
『ルーサーからは直接もらえてるから大丈夫だよー。とはいえよー、僕がもらうとしたらあんまりそこに魔力が溜めてないから意味ないかなー。ただ、僕以外の精霊にあげる時はそのやり方がいいかもねー』
そう、自分の精霊以外に渡すときは別に多く渡すこともないだろうから、少しで十分。今回は例外よ、例外。姿を見せてもらうためにあげたので、たっぷりだっただけ。
「なんだ、俺からしたら意味ないのか、つまんないなー」
『でも、折角だからもらってやろーじゃん』
ペロッと手を舐めたコーエンにルーサーさんは驚く。まぁ、突然、舐められたらね。とはいえ、そのぐらいしか溜まってなかったってことなんだろうけど。
「ちなみに沢山上げるときは手の中に水なり何かが溜まってるというのをイメージするといいわ。そもそも魔法自体イメージなのよ」
「イメージ? あのね、アルちゃん、魔法は呪文や短縮印を用いてやるもんだよー。俺の剣には強化の短縮印を彫り込んでるしさー」
『あー、あー、アルちゃん、気分悪くしないでねー。ルーサーの言ってること学園とか今のご時世だと当たり前のことだからねー。今の子はそのー、アルちゃんやベルちゃんみたいにさ、幼少期に精霊から魔法を教わらないんだー』
「……そう、精霊が見えなくなった弊害ね」
ルーサーさんの言葉に眉を顰めた私。それにすぐに気づいたコーエンは一生懸命ルーサーさんを庇う。わかってるわ。精霊が見えなくなったせいで魔法を使うための呪文や短縮印ができたことは理解できる。理解できるけど、そんなことも知らないのってバカにされた気がしてイラッとした。ルーサーさんはそんなこと思ってもないだろうし、私の勝手な想像だけど。
「え、コーエン、俺」
「ルーサーさん、大丈夫よ、気にしないで」
なんか違うこと言ったかとコーエンに確認しようとしたルーサーさんにそう言えば、困ったような寂しそうな目をする。
『よーし、ルーサーは帰ったらエリスと精霊と魔法のお勉強をしよー。エリスには僕から言っておくからねー』
「いや、お祖母様は勘弁してくれー。あの人、凄く厳しいんだってー」
『そりゃそうだよー。あの子、騎士総長まで上り詰めてたもーん。まー、ルークとの結婚を機に引退したんだけどねー』
え、と固まるルーサーさん。随分と威力の高い火炎弾がぶちこまれたみたいね。私は他所のお宅には興味ないからへぇって感じだけど、ルーサーさんは自分ちのことだから、そうなるわよね。そんなことを考えてるとウィルがそろそろ時間だぞと声をかけてきた。そういえば、お兄様と久々にギルドのお仕事を一緒にする約束をしてたわね。
「ごめんなさい、ルーサーさん、このあとお兄様と約束があるの」
「あー、もう、そんな時間かー」
『じゃー、僕も見えなくなった方がいいねー。丁度、もらった魔力も切れそうだしー』
アルちゃん、ありがとねーと私にグリグリ頭を押し付けた後、半透明になった。ただ、ルーサーさんは半透明のはずのコーエンをじっと見ている。いや、そこにいると思ってみてるのかしら。
私の考えてることを把握したらしいコーエンが、ふーっとルーサーさんの傍に移動してみる。
「ルーサーさん、見えてる?」
「半透明のコーエンがいる」
スーッと目がコーエンを追ったので、私が問えば呆然とした声で答えてくれた。今まで見えてなかったのに一度実体化してもらったくらいで見えるようになるなんてどういうことかしら。とはいえ、コーエン以外の精霊は見えないらしい。試しにウィルが見えるかと尋ねたところ首を振られたもの。精霊本人もわからないらしいから、私たちにわかる問題じゃないわね。
『いやー、これはこれで嬉しい誤算だねー』
えへへーと笑うコーエンにルーサーさんも確かになと笑みを浮かべる。うん、仲がいいのはいいことだけど、外でそうやって話しちゃダメだからね。そう注意すれば、ようやっと気づいたらしく分かったと頷く。
「では、私はお兄様との約束があるのでこちらで」
「なんだったら、送って行こーか?」
「いえ、大丈夫よ。お兄様も登城してるから」
それもそっかと頷いたルーサーさんと私は鍛練場の前で別れを告げ、城門でお兄様を待った。
早く来ないかなーと待ってたら、汗を流しながら殿下が走ってきた。いや、何故よ。あ、後ろにのんびり歩いてくるお兄様発見。なにがどういうことなのと目で訴えるけどお兄様は苦笑いを零すばかりで答えてはくれない。
「アル!」
「はい、なんでしょう、殿下」
「あー、その、明日、俺と出かけてくれないか?」
ギュッと手を握ってそう言ってきた殿下に私はどうすればいいのかわからず、ちらりとお兄様を見る。お兄様はお前の好きなようにしろと手ぶりで伝えてきた。というか、出かけるにしてもこれまでも出かけてたはずだし、慌てて伝えに来ることでもないと思うんだけど。
「すでに予定があるのかな」
答えない私を見て、しゅんとする殿下。やめて、どうしてそんな捨てられた子犬みたいな雰囲気出すの。いや、殿下も出してるけど、殿下の頭と肩に乗ってる子獅子と子狐、あなた達もよ!
「予定は特にございませんので、大丈夫ですわ」
「本当かい。よかった」
ぱぁっと花が開いたわ。そんな感じで満面の笑みを浮かべられたら眩しいじゃない。
「ちょっと遠出になるから動きやすくて汚れてもいい服装がいいかな」
行先は教えてくれず、時間と服装の指定だけして、殿下は職務がまだ残ってるからと城の中へと戻っていった。
「お兄様」
「俺もわからんって。まぁ、それより明日、レオに弁当作ってやれよ」
「いやいやいや、流石に殿下の口に入れるものを作れないから」
舌の肥えた人に出せる料理はないというもののどうやらお兄様の弁当が被害に遭っているらしい。お兄様を守るって考えましょう。そうしましょう。
「じゃあ、依頼ついでに」
「わかってる。付き合ってやるよ」
そして、依頼を難なくこなして、弁当の材料をしっかりと確保した。夕飯後、夕飯前に下処理したものに下拵えを施す。それ以外にも時間がかかりそうなものは先に準備をしておく。“冷蔵庫”なんて高度なものはないから、鉄板、木の板や魔石などを上手く組み合わせて擬きを作ったのよね。魔力を込めておけば、一日程度は“冷蔵庫”みたいに使うことが出来る。上手くやれば販売なんかも出来るだろうけど、魔力が少なくなってる今は難しそうなのよね。何か魔力に代わるものがあればいい商品になるはずよ。今はその部分を模索中。料理長たちにぜひともと言われるけど、これが中々大変なのよね。
まぁ、それはそうと遠出だと言っていたし、ナイフやフォークを使わない形の方がいいかしら。でも、手掴みはやはり行儀が悪いと思うかしら。うーん、あの方はどう転ぶかわからないから、今考えてもしょうがないわね。一応、カトラリーセットも持っていっておこう。
一通り準備を終えるとウィルが味見をしたいと言ってきた。あげません。今朝作ったクッキーでも食べてなさい。
今の人達は多くが見えない。だから、すでに信じている人はごく少数派になっている。お爺さんやお婆さん世代だとうっすらぼんやり精霊が分かる人もいるらしいけど、殆どの人は口を噤んでしまっている。言ったところで、彼らを見せてあげることなんて簡単にはできないから。
「信じられないでしょう? 学園でも精霊はいないものとして教えられるってお兄様が言ってたわ」
ドラゴンの口に水を飲ませるようにお皿にした手を持っていけば、そこから私の魔力を食べる。精霊は一定の魔力を蓄えれれば、見えない人にも見えるように出来る。まぁ、この一定の魔力っていうのが曲者なんだけど。精霊によって量が違うのよね。だから、人によっては枯渇するまでだったりと命を懸ける羽目になる場合だってある。まぁ、スティングラー家の人間は豊富らしいので多少食べられたところで動けなくなったりということがない。
もぐもぐもぐもぐ。それにしても、よく食べるわね。普通ならもう少し少ない状態でも十分な気もするんだけど。あ、ウィルストップがかかった。もうダメだと止められたドラゴンは抗議の目をウィルに向けるけど、ウィルは笑顔を深めるだけ。ドラゴンは抗議を諦めたようで私の膝の上でブルブルッと体を震わせてから、座り直す。半透明だった体は色も明瞭になって、透けなくなった。
ルーサーさんを見れば、目を大きく見開いていた。あぁ、この子が見えるようになったのね。
「それ、は、精霊なのか?」
「えぇ、精霊よ。元々精霊は姿形を持たないものだから、こうやっていろんな生物の姿をとるの。勿論、人の姿を取る精霊だっているわ」
ウィルやお兄様の傍に居る精霊サラなんてそうだ。まぁ、彼らは元々人であったからなんだけど。
『やぁやぁ、初めまして、かなー。ルーサー、君の傍にいさせてもらってるよー』
驚いて立ち上がるルーサーさん。その手に取った剣を納めてもらってもいいかしら。
『ほらほらー、剣なんて危ないよー。まぁ、ぶっちゃけ、剣なんて僕には効かないわけだがねー。ただ単に実体化が解けるだけさー』
のんびりと喋り、私の膝で寛ぎ始めるドラゴン。ルーサーさんは危険ではないかと確認してきて、私は平気よと答える。それにドラゴンが全くもって失礼だなーなんて思ってもないだろう言葉を吐く。
「これが精霊……」
『その言い方、失礼だぞー。安全性に関しては君のお祖母さんは僕を認知してるし、お祖父さんもなんとなく認知してるんだからなー』
「なんとなく、ということはそこにナニかがいるとわかる程度ね」
「え、いや、待ってくれ、俺の祖父母は精霊が見えてるのか??」
え、え、と混乱するルーサーさん。まぁ、そうようね。いきなり、祖父母は実は見える人だよと言われればそうなる。しかも、自身は学園でいないものだと学んでいれば、更に当然。
『見えるよー。まだ彼らの時代にはアルちゃんの言った程度ぐらいならいたからねー』
いやー、でも、人と久しぶりに話すのは楽しいねーとけらけら笑うドラゴン。随分、人と話してなかったのね。
『てか、アルちゃんやー、魔力ちょーだい』
「ウィルのストップかかったからダメよ」
『ケチな精霊だねー。――アイタッ!!』
いい笑顔を向けてきたドラゴンだが、断れば私の後ろにいるウィルを睨む。けれど、ウィルも黙ったままではいなかったようでドラゴンにデコピン。ルーサーさんにはドラゴンしか見えてないから、顔が混乱してる。
「ウィルというのは」
「私と一緒にいてくれる精霊よ。基本的に魔力を持つ人一人につき一精霊がつくわ。例外は第二魔法を使う人にはその分つくけど」
『ちなみに僕はコーエンという名前があるんだよー。いい名前でしょー』
えっへんと胸を反らすドラゴン――コーエンはひとしきりゴロゴロした後、ふわりとルーサーさんの肩へと移る。重さがないことに戸惑ったのか、移られたことに戸惑ったのか、どうすればいいという顔でこちらを見てくる。
「コーエンはルーサーさんの精霊ね。精霊がいると魔力消費が少なくなるのよ」
「見えてないのに協力してくれてるってことか」
「えぇ、そうよ。ただ、精霊に見限られてしまうと魔力消費はよくて倍。酷ければ、数十倍必要になることがあるそうよ」
魔力の保有量が多ければ、大して問題はないだろうけど、なければ死に直結する可能性も出てくる。さらに恐ろしいのは多くの魔力を消費するという事で魔法を使わなくなること。そうなると保有量も徐々に目減りして、次世代も魔力が少なくなっていく。最終的には魔力を持たなくなる可能性だってある。けれど、そこをわかっているのは恐らくスティングラーの血筋のものぐらいじゃないかしら。
「ところでさー、魔力をあげる場合、条件とかある?」
「条件ね、やっぱり相性かしら」
『アルちゃんの魔力と相性バッチリー! もっと欲しいんだけどなー』
そう言ってコーエンはチラリとウィルに抗議してみるけれど、ウィルは素知らぬ顔。
『あ、そうかー、あれだねー、王太子と結婚してくれたら、いつでも貰いに行けるねー』
精霊の話をしてたのに、どうしてそこに持っていく。そんなことを思ってたのが顔に出てしまったらしく、ルーサーさんは大笑いし始めた。
「それもそうだなー、そうしてくれるとコーエンともこうして話せるなー」
『ねー』
余計な敵を増やしてしまった感が強い。いや、同じような魔力なら、お兄様でも有りでは?
そう思って尋ねてはみたけど、ダメらしい。なぜ。
『いやー、相性は確かにいいんだけどー、好みじゃないんだよねー』
その点、アルちゃんはどちらもバッチリだよーというコーエン。全く、好みのものがあると貪欲になるというのは人間も精霊も変わらないようね。
「そういやさー、あげ方ってこんな感じか?」
そう言って、私がコーエンにやっていたように手をお皿にしているルーサーさん。うーん、おしい。まぁ、それでも湧水のように漏れた魔力は溜まるから問題はないんだけど。
『ルーサーからは直接もらえてるから大丈夫だよー。とはいえよー、僕がもらうとしたらあんまりそこに魔力が溜めてないから意味ないかなー。ただ、僕以外の精霊にあげる時はそのやり方がいいかもねー』
そう、自分の精霊以外に渡すときは別に多く渡すこともないだろうから、少しで十分。今回は例外よ、例外。姿を見せてもらうためにあげたので、たっぷりだっただけ。
「なんだ、俺からしたら意味ないのか、つまんないなー」
『でも、折角だからもらってやろーじゃん』
ペロッと手を舐めたコーエンにルーサーさんは驚く。まぁ、突然、舐められたらね。とはいえ、そのぐらいしか溜まってなかったってことなんだろうけど。
「ちなみに沢山上げるときは手の中に水なり何かが溜まってるというのをイメージするといいわ。そもそも魔法自体イメージなのよ」
「イメージ? あのね、アルちゃん、魔法は呪文や短縮印を用いてやるもんだよー。俺の剣には強化の短縮印を彫り込んでるしさー」
『あー、あー、アルちゃん、気分悪くしないでねー。ルーサーの言ってること学園とか今のご時世だと当たり前のことだからねー。今の子はそのー、アルちゃんやベルちゃんみたいにさ、幼少期に精霊から魔法を教わらないんだー』
「……そう、精霊が見えなくなった弊害ね」
ルーサーさんの言葉に眉を顰めた私。それにすぐに気づいたコーエンは一生懸命ルーサーさんを庇う。わかってるわ。精霊が見えなくなったせいで魔法を使うための呪文や短縮印ができたことは理解できる。理解できるけど、そんなことも知らないのってバカにされた気がしてイラッとした。ルーサーさんはそんなこと思ってもないだろうし、私の勝手な想像だけど。
「え、コーエン、俺」
「ルーサーさん、大丈夫よ、気にしないで」
なんか違うこと言ったかとコーエンに確認しようとしたルーサーさんにそう言えば、困ったような寂しそうな目をする。
『よーし、ルーサーは帰ったらエリスと精霊と魔法のお勉強をしよー。エリスには僕から言っておくからねー』
「いや、お祖母様は勘弁してくれー。あの人、凄く厳しいんだってー」
『そりゃそうだよー。あの子、騎士総長まで上り詰めてたもーん。まー、ルークとの結婚を機に引退したんだけどねー』
え、と固まるルーサーさん。随分と威力の高い火炎弾がぶちこまれたみたいね。私は他所のお宅には興味ないからへぇって感じだけど、ルーサーさんは自分ちのことだから、そうなるわよね。そんなことを考えてるとウィルがそろそろ時間だぞと声をかけてきた。そういえば、お兄様と久々にギルドのお仕事を一緒にする約束をしてたわね。
「ごめんなさい、ルーサーさん、このあとお兄様と約束があるの」
「あー、もう、そんな時間かー」
『じゃー、僕も見えなくなった方がいいねー。丁度、もらった魔力も切れそうだしー』
アルちゃん、ありがとねーと私にグリグリ頭を押し付けた後、半透明になった。ただ、ルーサーさんは半透明のはずのコーエンをじっと見ている。いや、そこにいると思ってみてるのかしら。
私の考えてることを把握したらしいコーエンが、ふーっとルーサーさんの傍に移動してみる。
「ルーサーさん、見えてる?」
「半透明のコーエンがいる」
スーッと目がコーエンを追ったので、私が問えば呆然とした声で答えてくれた。今まで見えてなかったのに一度実体化してもらったくらいで見えるようになるなんてどういうことかしら。とはいえ、コーエン以外の精霊は見えないらしい。試しにウィルが見えるかと尋ねたところ首を振られたもの。精霊本人もわからないらしいから、私たちにわかる問題じゃないわね。
『いやー、これはこれで嬉しい誤算だねー』
えへへーと笑うコーエンにルーサーさんも確かになと笑みを浮かべる。うん、仲がいいのはいいことだけど、外でそうやって話しちゃダメだからね。そう注意すれば、ようやっと気づいたらしく分かったと頷く。
「では、私はお兄様との約束があるのでこちらで」
「なんだったら、送って行こーか?」
「いえ、大丈夫よ。お兄様も登城してるから」
それもそっかと頷いたルーサーさんと私は鍛練場の前で別れを告げ、城門でお兄様を待った。
早く来ないかなーと待ってたら、汗を流しながら殿下が走ってきた。いや、何故よ。あ、後ろにのんびり歩いてくるお兄様発見。なにがどういうことなのと目で訴えるけどお兄様は苦笑いを零すばかりで答えてはくれない。
「アル!」
「はい、なんでしょう、殿下」
「あー、その、明日、俺と出かけてくれないか?」
ギュッと手を握ってそう言ってきた殿下に私はどうすればいいのかわからず、ちらりとお兄様を見る。お兄様はお前の好きなようにしろと手ぶりで伝えてきた。というか、出かけるにしてもこれまでも出かけてたはずだし、慌てて伝えに来ることでもないと思うんだけど。
「すでに予定があるのかな」
答えない私を見て、しゅんとする殿下。やめて、どうしてそんな捨てられた子犬みたいな雰囲気出すの。いや、殿下も出してるけど、殿下の頭と肩に乗ってる子獅子と子狐、あなた達もよ!
「予定は特にございませんので、大丈夫ですわ」
「本当かい。よかった」
ぱぁっと花が開いたわ。そんな感じで満面の笑みを浮かべられたら眩しいじゃない。
「ちょっと遠出になるから動きやすくて汚れてもいい服装がいいかな」
行先は教えてくれず、時間と服装の指定だけして、殿下は職務がまだ残ってるからと城の中へと戻っていった。
「お兄様」
「俺もわからんって。まぁ、それより明日、レオに弁当作ってやれよ」
「いやいやいや、流石に殿下の口に入れるものを作れないから」
舌の肥えた人に出せる料理はないというもののどうやらお兄様の弁当が被害に遭っているらしい。お兄様を守るって考えましょう。そうしましょう。
「じゃあ、依頼ついでに」
「わかってる。付き合ってやるよ」
そして、依頼を難なくこなして、弁当の材料をしっかりと確保した。夕飯後、夕飯前に下処理したものに下拵えを施す。それ以外にも時間がかかりそうなものは先に準備をしておく。“冷蔵庫”なんて高度なものはないから、鉄板、木の板や魔石などを上手く組み合わせて擬きを作ったのよね。魔力を込めておけば、一日程度は“冷蔵庫”みたいに使うことが出来る。上手くやれば販売なんかも出来るだろうけど、魔力が少なくなってる今は難しそうなのよね。何か魔力に代わるものがあればいい商品になるはずよ。今はその部分を模索中。料理長たちにぜひともと言われるけど、これが中々大変なのよね。
まぁ、それはそうと遠出だと言っていたし、ナイフやフォークを使わない形の方がいいかしら。でも、手掴みはやはり行儀が悪いと思うかしら。うーん、あの方はどう転ぶかわからないから、今考えてもしょうがないわね。一応、カトラリーセットも持っていっておこう。
一通り準備を終えるとウィルが味見をしたいと言ってきた。あげません。今朝作ったクッキーでも食べてなさい。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる