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6.義実家
しおりを挟む中庭での結婚式も滞りなく終わり、ティメオと二人で玉座への移動となった。先ほど、逃げるようにして結婚式を後にした陛下と后も、玉座ではふんぞり返っていた。
(あぁぁ~、帰りたいよぉ)
玉座の前で膝を付いたマルベーは、こっそりため息を付く。ダブレットにゴテゴテした宝石を纏った陛下と、生地を何十枚と重ねたドレスの后。
左に立つのは弟殿下といった王族の身内。右側で待機しているのは、宰相を筆頭に役人のお偉いさん達が並ぶ。
一人一人挨拶されて、マルベーは愛想笑いをしながら返事をする。以前から、重役の顔は見知っていた。嫁ぐ前、できるだけ知っておこうと新聞を読み漁ったからだ。
こうして見ると、茶髪の宰相と娘である后はそっくりだった。
「素晴らしい式であったぞ、ティメオ」
「ありがたきお言葉」
ありきたりな定型文の繰り返し。怠くてしょうがないマルベーは、周囲を観察していた。分厚い絨毯に、両陛下の着飾った服装に……と宰相も同じように、指輪を何個も付けている。反対にティメオの白い手袋はすり切れていた。
(まぁ、ずっと戦地にいたからね、しょうがないね)
陛下は口元の髭が所々白くなった、見た目は好好爺だった。笑うと目尻の皺が深くなって、人が良さそうだ。
「まぁ、なんと申し上げますか、粗暴な式でしたわね――ですが、軍神にはお似合いでしたわ」
「……」
――人が良さそう、というのは気が弱いということ。后の嫌みに陛下は苦笑するばかりで、押し黙ってしまった。
「母上、何を申されますか。飾り気の無い、自然らしい……ほら、あの北の蛮族らしさがありましたね、素敵な式でしたよ」
(おっと、早速ジャブ)
挨拶もそこそこに、弟殿下の一刺しがきた。身長はマルベーくらい。ひ弱そうな体を、また重たそうなダブレットで誤魔化している。自分を庇護する両親の手前、軍神の前で強気に出れるのだろう。ティメオを見下したように笑っていた。
(ティメオがいなかったら、その北の蛮族に、宮殿も襲撃されてただろうに)
横を見ると、こちらは何を考えているのか、ティメオも黙り込んでいた。
「教養も無い、粗暴な荒くれ者の臭いが立ちこめていて……もう少しで気分が悪くなるところでしたわよ」
「あんな場所で過ごせるのですから、やはり兄上は育ちが違いますよね」
「民や貴族達に示しがつきませんわ。王族として、気品のかけらも無い式でしたね。これでどうやって、貴族達など納得しましょう」
「母上、あまり兄上を責めてはなりませんよ。兄上は学びの無い、自然体な方なのですよ」
扇子越しに、母子は笑いを堪えているようだった。陛下が再婚した時には既に、腹に子がいたとか噂されている。
ティメオは翌年、騎士団に入っているのだが、自発的に入ったのか、それとも暗殺を恐れて宮殿を離れたのか――マルベーにはどっちでも良かった。
(みんなティメオに殺されるのにイきってんなぁ)
他の王族や役人達は知らんぷり。ティメオは黙って拳を作っていた。
「……あ、そういえば……マルベー殿が、息子との縁談を強く望まれていたと聞いていたな。あー……ティメオのどこを気に入って?」
(え、そういう話になってんの?)
ダルい話の振られ方に、マルベーの顔が引き攣ったのは一瞬。すぐさま笑顔になった。ここは一つ、ティメオに敵意が無いことをアピールしておこう。
最悪、ティメオが宮殿で皆殺しにしても、自分やラファイエット、オルデム国が助かればそれでいい。玉座を向いて、声を張り上げた。
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