俺の、僕の、可愛い人。

コッシー

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1話

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俺、黒田茂くろだしげるは昔から可愛い男が好きだった。

俺と同じ性別にもかかわらず筋肉のない華奢な身体に、丁度頭に手が乗せられるくらいの小さな身長、それでいて童顔で、柔らかくて、何故か良い匂いがして、なんだか守ってやりたくなるオーラを出しまくっているワンコ系みたいなーー。

そんな可愛い男が俺の好みだ。

しかし、見た目だけでは意味がない。
その中身も重要なのだ。

「そう!俺はか弱くて、初心で、照れ屋さんで、寂しがり屋の可愛い男が良いんだよ!!!」

興奮とはある意味、発作の様なものだ。

つまり興奮を抑えきれなかった俺は、ついさっきまで座っていた椅子を思いっきり倒し、なんとも恥ずかしい性癖を暴露しながら立ち上がってしまった。

しかもここは、俺が通う大学の食堂である。

がやがやとしていた空気が一瞬で静まり、一斉に俺への視線が飛び交うのを感じる。

唯一助かったのが、この俺が大学ではまぁまぁのイケメンで。コミュ力も高いということだ。

「ま~~た黒田がなんか言ってるよぉ」
「あはは!頼むから食事の時くらい静かにしろよ!」
「悪い悪い!」

人気が高ければどんなに性癖がバレようとこのくらいで済んでしまう。流石俺だ。

しかし。

「……しーーげーーるぅう!!!」
「うぐっ!」

向かいの席で俺と一緒に食事をとっていた幼馴染の園田雫そのだしずくは、そう簡単に流してくれることは無かった。

「この変態バカ!自重しろ!」
「す、すみませんでした」

恥ずかしそうに頬を赤らめ眉間に皺を寄せながら、園原は未使用の割りばしで俺の頬をぐりぐり押し込んでくる。
しかも木の破片が微妙に突き刺さって、地味に痛い。

「頬に傷痕付いたら俺のイケメンフェイスが台無しになるだろ!?止めろ!」
「むしろそのまま貫通させてやろうか」
「ごめんなさい」

なんとも恐ろしい台詞を平然と吐き捨てる園原は、俺と幼稚園の頃からの付き合いで、一番気の合う親友だ。

身長は俺より7cmも低い165cmで、髪は栗色のゆるふわショート、長い睫毛にクリッとした目、そして守ってあげたくなる華奢な身体つき。

ここまで言えば分かるだろう。園原は俺の初恋の相手だ。

だが、成長するごとに明らかになるコイツの隠されていた中身に、一気に熱は冷めてしまった。
とにかくコイツは性格が強気だ。下手したら俺よりも男前の時もある。

「はぁ~~。園原が臆病で泣き虫な弱い男だったら、文句なしに付き合うのになぁ~~」
「え?僕は臆病で泣き虫な、か弱い男の子だよ?」
「それは表の顔だろうが!!実際は俺より男らしいうえにドSじゃねぇかお前!それで一体何人の奴らが涙を流してきたと思ってんだ!」
「はっ、騙される方が悪い」
「顔こわっ!!やっぱお前と付き合うとか無理だわ……」

いや別に告白されたわけでもないのに、付き合えないと言うのはおかしな話だったかなと思いながら、コップに残っていた水を口に含み、飲み込もうとした時だった。

「俺だけに見せる顔、見せてよ」

聴いたことも無い低い声に、心臓が震えた。

目の前にあるのは黒くて長い睫毛と、キラキラと光る茶色の瞳。そして妖艶に笑う園原の唇。

「っ……ゴクッ」

細い器官を、ぬるくなってしまった水が一気に流れ込んだ。

「っ……//」

なんだ、この気持ち。

今にも、心臓が張り裂けてしまいそうだ。

「……ブッ!くっ、ははは!!茂、自分の口説き文句に口説かれてどうすんのぉ?あはは!!」
「へ?///」

そうか、今の台詞。
俺が相手を落とす時に必ず使う口説き文句だ。

それなのに俺はーーーー。

「な、なに反応してんだぁ……///」

園原にからかわれた。しかも何故かドキドキしてしまった。

穴があったら今すぐ埋めたい。園原を。

「クソッ~……ちょーカッコ悪い俺……恥ずかしいぃ」
「僕はそんなカッコ悪い茂も好きだけど?」
「うるせぇ!」
「茂って可愛い男好きとか言ってるけど、茂自身も結構可愛いとこあるよね。もしかして……女役とか?」
「なわけあるか!!この俺が!!」
「ふ~~ん」

俺をからかって楽しんでいるのか、ニヤニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべる園原を見て俺は決心する。

「明日絶対、可愛い男とヤる!!」

その瞬間、園原の手にあった割りばしがバキッと音をたて、真っ二つに折れ曲がってしまった。

「……ねぇ茂。一週間前、高校生の子と別れたばかりじゃなかった?」

先ほどのドキドキが、一気に恐怖のドキドキへと変わる。

「だ、だから、だろ?正直溜まってるし……意外とクリスマス前って別れ話するカップル多いからさ……寂しくて泣いてる可愛い子いるだろうし……」

正直自分でも、色々と最低な事を言っている自覚はある。

だからきっと、いつも通り頭殴られて「このタラシ野郎、一人で大人しくシコってろ」とか言われるだろうと身構えていたのに。

今日の園原は、手も出さなかった。

「あ、れ?」

力んでいた身体から情けない声が出る。

「園原?」

その呼びかけで、園原はようやく口を開いた。

「ねぇ茂。明日楽しんでね」

いつもの否定的じゃない言葉に、何故か胸がチクリと痛んだ。

「ぇ……あ、あぁ……」

なんだろうかこの痛み。さっきとは全然違う。

哀しさというより、不安だ。

どうして、何故、俺を止めない?
いつもだったら怒ってくれるのに。いや、それでも行くんだけど。

でもなんか。

「不服だ」
「え?」

しまった。声に出てたか?

「ねぇ茂。それ」
「え?」

「……本気にしてもいい?」

俺の手を握って真っ直ぐ見つめてくる園原の顔は、まるで飢えた獣のようだった。




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