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10話 ヒューマンの国へ
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朝食を済ませたレインは当初の目的である王都へ向かうために装備の準備をする。ガディランも大斧二本を背中に装備していた。大斧はセレーネの身長の1.5倍はある長さである。そのセレーネといえば狼の体に荷物を持たせていた。
「ん? セレーネはもう南に行っていいんだぞ。貧血辛かったらここに残っていいし」
ガディランはちゃっかり準備しちゃっているセレーネを見てそう言う。
「いいえ、助けてもらったのに恩返しできないのは嫌です。じ、自分で言うのもなんですけど……多分役に立ちます」
「駄目だ。貧血の時は酸素が回りにくくなる。絶対に来てはいけない。王都が魔物に襲撃されているかもしれないんだ」
そう否定したのはもちろんレインである。医療に詳しいのもあるのかセレーネに対する態度は厳しいものだった。
「お願いします。もし何かあったら見捨てていいですから」
「そんなことでき――」
ガディランが言いかけるが「分かった」とレインが即答する。
「おいレイン。なんでセレーネにそんなに当たりが強いんだ」
「嫌いとかそういうのじゃなくて自分の体の安否を理解できない人間は戦えません」
もっともなことにガディランもセレーネも黙ってしまう。レインは無言のまま小屋の外に出て残った二人と一匹はそれに着いていく。外は太陽はまだ南中はしていない。快晴のはずの空には不気味な黒い雲が所々ある。
「この雲……いや、雲じゃない」
レインはコンパスで北の方を見る。王都の方角から大量の黒い煙が出ていた。これは黒い雲ではなく火事による黒煙だったのだ。
「おい、王都がヤバいことになってないか?」
ガディランがやっと気付く。レインは「はい! 急ぎましょう!」と伝えて勢いよく地面を蹴って走り出す。セレーネは狼に乗って走り出し、ガディランもその巨体から想像も付かない速度で走り出す。
走っている途中、レインの背後にいるガディランとセレーネはなにやら喋っている。
「セレーネ。そのフォレストウルフの名前はなんて言うんだ?」
「この子はフェルンって言ってオスです」
セレーネはフェルンの頭を撫でる。フェルンは嬉しそうに目を細めた。走っていけば行くほど森の中は騒然としていく。鹿や鳥といった無害な動物たちはレインたちとは真逆の方向へ走っていく。その姿はまるでなにかから逃げているように見えた。三人は動物たちがなにから逃げているかはある程度察する。
三人は森の中を必死に駆け抜ける。レインやガディランはどんな体力をしているのか、全力疾走をしても息が切れる様子は全くない。フェルンも背中にセレーネを乗せているはずなのに疲れている様子はない。
三人が走り始めてからおよそ四時間、炎が燃え広がる王都が見えてきた。燃え上がっているのはどうやら王都の外側、つまり平民街あたりの場所だ。どうやらまだ国の中心部までは攻められていないらしい。城門には兵士や集められた冒険者たちが魔物と戦っていた。
「こりゃヤバいぞ!」
ガディランは三メートルはある斧を片手に一本づつ持ってレインの先を越して先陣を切る。レインは止めもせずにガディランの後を追う。その間レインは後ろにいるセレーネの方を向く。
「無理したら本当に見捨……いや、気をつけろよ」
セレーネは笑顔を見せて「はい」と答える。
さて、最初に突っ込んでいったガディランは思いっきり飛び上がる。その高さは森にある木を簡単に超えていた。そのままガディランは紫色の巨大なクモの魔物に斧を振るう。クモとは緑色のバンダナを頭に巻いた冒険者が戦っていた。
クモの腹部を切断すると緑色の液体を撒き散らしながらクモは金切り声をあげる。冒険者は「びぇ」と情けない声を出す。クモはまだ群れを成している。ガディランはその群れに勇猛果敢に攻めていく。
「スキルバーバリアン!! 暴風無双ぅぅ!!」
ガディランは腕をかかしのように広げてぐるぐると回り始める。すると、段々とガディランを中心に小さな竜巻が巻き上がる。クモたちは災害に巻き込まれて、その体をみじん切りにされていく。
その様子を見ていたレインは「まさにバーバリアン……」と呟いていた。暴風無双を止めたガディランは目の前にいる巨大な赤いクモをますある。そのクモからは黒色の瘴気が溢れていた。
「ガディランさん! そいつはオニクモです。しかも呪われている」
レインもやっと前線に参加してガディランの背後から叫ぶ。だがガディランはそんな忠告をガン無視して斧を引っ提げて突っ込んでいく。
「じゃあ今ここでやろうぜ!」
まるで「作戦なんかいらない」と言っているかのようにガディランはオニクモに切りかかる。オニクモは前足でその攻撃を受け止める。前足には傷一つないことからその強度がうかがえる。
「ギィ!」
オニクモは前足でガディランを弾き飛ばす。ガディランは空を舞いながら落下する。こちらも傷はないようでまだまだやる気に満ちていた。
レインは止めることのできないガディランに何を言っても無駄だということを理解したのか、ハンドバッグから大剣を引き抜いて戦闘準備を済ませていた。
「ん? セレーネはもう南に行っていいんだぞ。貧血辛かったらここに残っていいし」
ガディランはちゃっかり準備しちゃっているセレーネを見てそう言う。
「いいえ、助けてもらったのに恩返しできないのは嫌です。じ、自分で言うのもなんですけど……多分役に立ちます」
「駄目だ。貧血の時は酸素が回りにくくなる。絶対に来てはいけない。王都が魔物に襲撃されているかもしれないんだ」
そう否定したのはもちろんレインである。医療に詳しいのもあるのかセレーネに対する態度は厳しいものだった。
「お願いします。もし何かあったら見捨てていいですから」
「そんなことでき――」
ガディランが言いかけるが「分かった」とレインが即答する。
「おいレイン。なんでセレーネにそんなに当たりが強いんだ」
「嫌いとかそういうのじゃなくて自分の体の安否を理解できない人間は戦えません」
もっともなことにガディランもセレーネも黙ってしまう。レインは無言のまま小屋の外に出て残った二人と一匹はそれに着いていく。外は太陽はまだ南中はしていない。快晴のはずの空には不気味な黒い雲が所々ある。
「この雲……いや、雲じゃない」
レインはコンパスで北の方を見る。王都の方角から大量の黒い煙が出ていた。これは黒い雲ではなく火事による黒煙だったのだ。
「おい、王都がヤバいことになってないか?」
ガディランがやっと気付く。レインは「はい! 急ぎましょう!」と伝えて勢いよく地面を蹴って走り出す。セレーネは狼に乗って走り出し、ガディランもその巨体から想像も付かない速度で走り出す。
走っている途中、レインの背後にいるガディランとセレーネはなにやら喋っている。
「セレーネ。そのフォレストウルフの名前はなんて言うんだ?」
「この子はフェルンって言ってオスです」
セレーネはフェルンの頭を撫でる。フェルンは嬉しそうに目を細めた。走っていけば行くほど森の中は騒然としていく。鹿や鳥といった無害な動物たちはレインたちとは真逆の方向へ走っていく。その姿はまるでなにかから逃げているように見えた。三人は動物たちがなにから逃げているかはある程度察する。
三人は森の中を必死に駆け抜ける。レインやガディランはどんな体力をしているのか、全力疾走をしても息が切れる様子は全くない。フェルンも背中にセレーネを乗せているはずなのに疲れている様子はない。
三人が走り始めてからおよそ四時間、炎が燃え広がる王都が見えてきた。燃え上がっているのはどうやら王都の外側、つまり平民街あたりの場所だ。どうやらまだ国の中心部までは攻められていないらしい。城門には兵士や集められた冒険者たちが魔物と戦っていた。
「こりゃヤバいぞ!」
ガディランは三メートルはある斧を片手に一本づつ持ってレインの先を越して先陣を切る。レインは止めもせずにガディランの後を追う。その間レインは後ろにいるセレーネの方を向く。
「無理したら本当に見捨……いや、気をつけろよ」
セレーネは笑顔を見せて「はい」と答える。
さて、最初に突っ込んでいったガディランは思いっきり飛び上がる。その高さは森にある木を簡単に超えていた。そのままガディランは紫色の巨大なクモの魔物に斧を振るう。クモとは緑色のバンダナを頭に巻いた冒険者が戦っていた。
クモの腹部を切断すると緑色の液体を撒き散らしながらクモは金切り声をあげる。冒険者は「びぇ」と情けない声を出す。クモはまだ群れを成している。ガディランはその群れに勇猛果敢に攻めていく。
「スキルバーバリアン!! 暴風無双ぅぅ!!」
ガディランは腕をかかしのように広げてぐるぐると回り始める。すると、段々とガディランを中心に小さな竜巻が巻き上がる。クモたちは災害に巻き込まれて、その体をみじん切りにされていく。
その様子を見ていたレインは「まさにバーバリアン……」と呟いていた。暴風無双を止めたガディランは目の前にいる巨大な赤いクモをますある。そのクモからは黒色の瘴気が溢れていた。
「ガディランさん! そいつはオニクモです。しかも呪われている」
レインもやっと前線に参加してガディランの背後から叫ぶ。だがガディランはそんな忠告をガン無視して斧を引っ提げて突っ込んでいく。
「じゃあ今ここでやろうぜ!」
まるで「作戦なんかいらない」と言っているかのようにガディランはオニクモに切りかかる。オニクモは前足でその攻撃を受け止める。前足には傷一つないことからその強度がうかがえる。
「ギィ!」
オニクモは前足でガディランを弾き飛ばす。ガディランは空を舞いながら落下する。こちらも傷はないようでまだまだやる気に満ちていた。
レインは止めることのできないガディランに何を言っても無駄だということを理解したのか、ハンドバッグから大剣を引き抜いて戦闘準備を済ませていた。
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