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プロローグ

一話 出向命令

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いつからだろう
少しでも欲を出すと悪い方へ悪い方へ何もかもが転がり始める



事の始まりは中学生の頃だ
初めて好意を寄せた女の子にアピールすると調子に乗ったグループに目をつけられ、登校すると机の上に菊の花が飾られていたり水泳の授業から戻ると下着がなくなっていたり

中学生活は禄でもなかったが高校生活はまともに送ることが出来たし勉強も出来た
塾のテストでもそこそこ取れたため実力より少し上の大学を狙ってみた、つまり欲を出した
すると見事にすべり止めまで全て滑るという大惨事
心のなかで色んな物が折れたり砕けた音が聞こえた気がする
その時に欲を出すと碌なことがないと悟りおとなしく働くことにした

スーツを着てあちこちの会社を訪問し会社の商品説明をして契約して頂く、普通の営業サラリーマン
欲も出さず3年弱勤勉に務めた
だがある時、同期と居酒屋で愚痴大会中に酒が入った勢いでついポロッと口からこぼしてしまったのである

「くぅ~!俺の人生は辛い!つらすぎる!朝6時に起きて7時に会社に向かい帰るのは11時過ぎ 俺の時間があったもんじゃねぇ、寝て起きたらどっかの王様で女の子侍らせたい!」

若く遊びたい盛りの自分たち世代なら誰もがそう思うし皆そうだっただろう
ただ違っていたのは自分は欲を出すと碌な事にならないということだった


翌日、出社しタイムカードを押したら日課となっている缶コーヒーを買って喫煙所に向かいタバコを吸いつつ同期と雑談をするという行為に一時の幸せを感じていた
そこに上司がやってきて社長から話がある、ミーティング後に話を聞きに行けという
ちなみに会社全体で30名から40名ほど、自社ビルもなく大して大きくもないビルの3階部分を借りる程度の会社である
そんな会社なため社長といえども上司の上司は社長である
朝ミーティングを済ませると早速社長室という名の資料棚等で仕切られただけのスペースに向かった

そこには禁煙のはずなのに社長室なのだから問題ないと窓を開けてタバコを吸ういかにも女性にモテそうなダンディな男性、社長がいた

天羽才蔵あもうさいぞう君 君も我が社に努めて3年ほど経ってどうかね、仕事のイロハも覚えただろう。」
「社長のお陰でボチボチというところです。」
「そこでだ、君を我が社の支店に出向することにした。」
「支店があると聞いたことありませんが一体どういうことでしょうか。」
「詳しい話はこの資料を読んで理解して貰いたい、では健闘を祈る。」


ここまでが記憶している自分が元いた世界での最後のやり取りだったと思う
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