ヒーローは爆発だ 遺書編

礼二えもん

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餓死

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ヒーローは爆発だ…か…。他にもヒーローロード、ヒーロー学という言葉を考え出した。2015年春にアメブロで「ヒーロー学」というのを立ち上げたのが最初だったかな。
当時、僕は両想いだったアイドルと周囲の反対から引き離されようとしていた。このまま付き合ってしまうこを恐れた運営によって。そうなるとアイドルの価値は暴落するからだ。だが当時の僕にとって、その子との恋は希望そのものだった。
長いこと文章を書くことが全く面白く感じられないスランプに悩んでいた。それがその子のツイッターやアメブロにコメントすると、すごく書くのが楽しく感じられた。その子への恋心をストレートに書いたらスラスラと自然にロマンチックな文章が書けたのだ。久々に僕は自分で書いたもので感動できた。
そしてその想いは彼女にも伝わった。彼女の瞳に恋の星が生まれたのだ。彼女が僕に好意を寄せてくれてるのがわかった。作家になる夢をずっと持っていたが、もうそのことはどうでもよくなってきていた。彼女1人のためにラブレターを書く詩人。それでいいと思えたのだ。それほど彼女との恋は当時の僕にとって闇に輝く星そのものだった。
だが、ついにイベントに来るなと運営に宣告されツイッターやブログのコメントもできなくなってしまった。やはり書くことは僕にとって未来へとつながる道そのものだったのだろう。代わりとなるものを書くことを望んだ。そしてアメブロで「ヒーロー学」という新学問を立ち上げたのだ。
だがその「ヒーロー学」を書いたブログは現存しない。去年、2017年夏、僕は経済的に追いつめられ、やりたくもない仕事をやらないといけない現実に心が荒れていた。ヒーロー学を打ち立て作家となり、それを仕事にしていこうという望みは叶わないことを自覚していた。どうせ認められないならと、やけくそになってお気に入りの18禁画像を文章とともに添付しまくった。しばらくは何の音沙汰もなかったが、夏が終わる頃にはブログが丸ごと削除されていた。
その当時は「ヒーロー学」よりも「ヒーローは爆発だ」という言葉を使うようになっていた。この言葉は岡本太郎の有名な言葉、「芸術は爆発だ」から来ている。2015年春から2017年夏の2年間の間に僕は「ヒーローとは何ぞや」と自分なりに探究を続けていた。その結果、「ヒーローを爆発させることこそ我が本意」という結論に達したのだ。

今の僕のヒーローは岡本太郎と種田山頭火だ。彼らのことを考えるとワクワクしてくる。その気持ちは、かつてのヒーローに抱いた熱い想いと変わりない。ウルトラマン、仮面ライダー、戦隊ヒーロー、暴れん坊将軍、助さん、松平長七郎、大石内蔵助、西郷隆盛、ドラゴンボールの孫悟空、イースのアドル・クリスティン、坂本竜馬…。
これら少年の日のヒーローと違って、岡本太郎、種田山頭火は遺書を書く段階に至った僕にとってのヒーローなのだ。もちろん大人の僕と少年のぼくとでは違う。少年の日、人生とは何であるかなどとは考えず、いつも自分がヒーローになった未来を夢見ていた。それを信じて疑わなかった。

それが今はどうだ。今、11月3日の僕の座右の銘は「いつでも餓死する覚悟があれば、日々よい日であり、あらゆることがよいことである」になっている。この言葉は種田山頭火が日記に書いた記述から来ている。僕は働くことなどできない。僕に働く意思はなく、企業にも雇う意志はない。生きるために大切なことは人へのやさしさ、夢に向かう大きな夢、自由な心を持つこと…これらは企業が利用しようとする人材に持っていてほしくない考えだ。いや、そもそも企業は労働者を人とは思っていない。だから自分の考えなど持たなくていいと思っている。企業が利益を生み出すための部品にしたいだけなのだ。
だが僕の意志に同調してくれる人はいない。誰もが自分の利益ばかり考え、困っている人がいても助けようともしない。「個人財産、利益得失にこだわる現代日本人のケチくささ。死ぬのもよし、生きるのもよし。ただしその瞬間にベストを尽くすべきだ」という岡本太郎の言葉もまた、僕の座右の銘になっている。
この世で生きている人に誰も同志はいない。未来には餓死しかないだろう。それがわかってくるにつれて、種田山頭火、岡本太郎がヒーローになっていった。
そうは言っても人間は心が弱いものだ。食っていくために金に心を売りそうになる。いや、金自体は悪くない。金や力を利用し他者を支配する奴らの考えが許せない悪なのだ。それに負けそうな心の弱さが生まれることがある。今の僕は金が入るあてが全くない。こういう状態の時は、なおさらだ。その弱い心につけこんでくる敵と戦うのに、くり出さなければならない必殺技が前述の足ろや山頭火の言葉なのである。
僕の人生最大の危機は中学生の時だった。やりたくもない部活動や塾を家族に無理矢理おしつけられた。少年の僕は心を曲げてそれに従ってしまった。家族の考えが間違っているのに気づきながら。その結果、部活や塾でひどいイジメや虐待を受けた。僕が逆らえなかったのは家族の命令に逆らうことをやってはいけないという固定観念があったからだった。それを超えていく勇気は本来あったのだがイジメ・虐待地獄の中で失っていった。そのことを考えれば、たとえ餓死してでも自分の本心を貫かなければならない。中学時代の再来があれば僕は命を捨てる覚悟を決めて生きてきた。どうせ死ぬなら心のままに生きて死にたいと思う。

「今日も絶食、すこしよろよろする。老いたるかなと苦笑する」種田山頭火の書いた一草庵日記より。いよいよ追いつめられ餓死の危機を感じ始めた今、山頭火の絶食は僕のこれから成すべきことを示してくれている。テレビでは水戸黄門が放送されている。おじいちゃんと水戸黄門を観た月曜日のあたたかい夜も今は昔。1人で水戸黄門を観る月曜日の午前をむかえている。学校へ行く義務から解放されたのは、めでたいことではあるが。仕事をして金を払う義務からは解放されず、そうしなければ餓死だぞと常に社会に脅され続けている。そして水戸黄門のように気楽に正義の味方をやりながらの旅を夢見たのも今は昔。飲み食いせずに旅する山頭火に近い未来が到来した。だが悪と戦っているのは今も昔も同じ。人を力で支配する悪を認める構図は常に社会で存在し続けている。権威なき水戸黄門の印籠をもって、その悪を打ち倒したい。だから僕は水戸黄門より山頭火でありたいのだ。
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