異世界美容室ひろ

ジュニユキ

文字の大きさ
1 / 1

プロローグ

しおりを挟む
 「……やっとか」

 パチっと電気をつけると、座り心地の良さそうな灰色の椅子と上半身全てを写しだす大きな鏡が姿を現した。

「ええやん」

 椅子にゆっくりと座りながら、お客さんの目線に立って確認していく1人の男。

「ユイカも座ってみて」
「はい、ひろさん」

 ユイカと呼ばれたボブスタイルの黒髪の女の子が、新しい灰色の椅子に座る。ふかふかとしたその椅子に、ユイカは微笑みをこぼす。

「この椅子はナイスチョイスですね、ひろさん。まるでひろさんみたい」
「意味わからんこと言わんでええねん」

 コツっとユイカの頭を叩くと、イテッと小さな声と共に叩かれたところを抑える。

「他の設備も確認するぞ、ユイカ」
「……はーい」

 小さな店内を一つずつ確認していく。入り口の近くにお金のやり取りをするフロント。施術をするセット面が一つ。その奥に割としっかりとしたシャンプー台が1セット。その横に部屋があり、仕入れたばかりのカラー材やマニキュア。パーマに使うチオグリコール酸とシステイン。縮毛矯正に使うアルカリタイプの液と酸性タイプの液やブロム酸、過酸化水素が綺麗に整頓されて並べられている。

「お、綺麗に並べてくれたのか。助かるわ、ユイカ」
「いえ、仕事において整理整頓は基本ですからね」

 黒ぶちメガネをクイっとあげて得意げそうにしているユイカ。

「そっすか」
「……ちょっとは褒めてくれても良いんですよ、ひろさん」

 ユイカをスルーしてその部屋の奥にあるいくつかの扉の先も確認する。よし、注文通りやわ。

「おっけ、これであとはユイカが扉を繋いでくれるだけやわ」

 俺がそう呟くと、ユイカは「了解ですー」と言って扉の方に向かっていく。左手に小さなノートパソコンを持って。
 扉の前でパソコンを開くと、ユイカは割と早い速度でキーボードを叩き始めた。店内にカタカタと打鍵音のみがしばらく響き、大袈裟にエンターキーを押す。

「ひろさん、繋がります」

 ユイカがそう言うと、扉の隙間から光が漏れ始めた。割と勢いよく。眩しい。俺は左手を目の当たりにかざした。
 光が終わると、先ほどとは何も変わらない扉がそこにあった。

「……ユイカ。ホントに終わったの?」

 俺がそう言うと、ユイカはやはり黒ぶちメガネをクイっとあげながら得意げに笑った。

「わたしの才能舐めないでくださいよ⤴︎⤴︎」

ユイカがガチャっと扉を開いた。

「……えぇ」

 コスプレ会場のような景色がそこには広がっていた。俺はユイカの手に添えてドアを閉めた。

「ちょっとひろさん。手を添えるなんて積極的」
「攻めてるのは認めるけど、ドアの先攻めすぎやって」

 もじもじするユイカの手を離し、ユイカに向き合う。

「ひろさんのご希望通り、異世界に繋がりましたよこのドアは」
「それはありがとう。……自分が希望したことだけど、思ったよりびっくりしたわ」

 もう一回ドアを開く。やっぱりコスプレ会場みたいな景色が広がっている。魔法使いの格好をした人や明らか格闘家っぽい人、貴族っぽい人も歩いている。

「ひろさんはただの人間ですからびっくりされるのは当然です。仕方ありません」
「まあ、そうやな。でも楽しみやわー明日から。やっと異世界の髪切れるわー ユイカ、どんなことが起きるかこれからわからないけど、明日からサポートよろしくな。信頼してるで」
「ふふっ。こちらこそよろしくお願いします、ひろさん。実はわたしも楽しみなんですよ♡」

 ドア先でそんな事を話していると、1人の異世界人に話しかけられた。

「あ、あの。もしかして髪の毛を切るところですか?」
「あ、はい。そうですよ! 明日の朝からオープンですので、よかったら来てくださいね」
「ちょうどお店を変えようと思っていたところだったのでよかったです。明日来ます」

 そう言ってその異世界人は歩いて行った。

「早速、異世界人の髪の毛を切れそうですね」
「ああ、楽しみだ。どんな髪質なのかなー」

 ドアを閉め、鍵を閉める。もう一度店内をひとしきり確認したあと、ひろは電気を消した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。 の続編です。 アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな? 辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...