無償の愛【完結】

あおくん

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4.優しい人たちとの今後

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「こんないい子そうな子をどこで拾ってきたんだ!ちゃんと返してこい!」

「あら!失礼ね!アレンは自分の事忘れちゃってて困ってたから、声をかけたのよ?親切心よ!」



凄い剣幕でサリーナさんを問い詰める男性に私は不安な気持ちを大きくさせる。



この流れってもしかして歓迎されてない感じ?

私、働けない?

……そう、だよね。

だって、私は門番さんでさえも不審者だと思われるような姿をしているし、……歓迎されるわけがない。



(でも、これからどうすればいいんだろう…)



どうしようという考えが頭の中でぐるぐると回る私は、そのまま俯いて床をじっと見つめていた。



「親切心だからって……は?忘れてる?」

「ええ、アレンって今は呼んでるけど、どうやら記憶喪失みたいで、名前も何も思い出せないそうなの。

この国は広いし、地域でもこの町は一番大きいから両親をみつけるのも大変でしょう?

だからここで働いていくうちに何か思い出すかもしれないし、この子についてなにか情報が入るかもって思ったのよ」



サリーナさんの言葉に困ったように頭をかいた男性_インディングさんは溜息をつき、私を正面から見据えた。

床に見えるインディングさんの影を見て、私は抱えていた頭を離し頭を上げる。



「事情があるなら仕方ねえが……、なにも思い出せねえってことは自分の年もわかんねえんだよな?」

「は、はい…」

「保証人もいねーのか…」



呟かれた言葉に私は俯いた。



(そりゃあそうだよね。いくらなんでも身元がちゃんとしていない人を雇うわけにはいかない。

私が原因だとしても責任を問われるのは、私を保護してくれるといったサリーナさんとインディングさんなんだ…)



勿論お店にとって不利益になるようなことを考えているわけではないが、一般的に保証人もいない子供を雇い手として受け入れないだろう。

そう考えているうちに再び俯く私を頭から足のつま先まで見た後、インディングさんはサリーナさんに向き直る。



「サリーナ、10日だ」

「ちょ、ちょっと10日って」

「誤解すんな。人手が増えるのは俺だって大歓迎だ。だが、保証人もいねー…いや、わからねー未成年をそのまま放置ってわけにはいかねーだろう?

歳ごまかそうっても、どうみたってこいつは10か……10にも満たないくらいだろうが。

だから10日たって、こいつの記憶も親も情報もなにもないようだったら俺たちの養子として受け入れるって話だ」

「え…」



思わずまぬけな声が出てしまった私に、インディングさんが優しく微笑む。



今この人…、ううん。

きっと私の聞き間違いだ。

絶対そうだ、と期待を振り落とす様に首を振る私だったが、微笑んだインディングさんの笑みは消えることはなかった。



「悪いな。本当はお前の親を見つけるのが一番だが、何かに巻き込まれた時保証人じゃねえ俺たちじゃ対応できねーんだ。

だから、情報を集める為に時間が必要だが、もしもの事を考えて10日ぐらいしか時間かけてやれねーんだ」



言われた言葉に頭が追い付かなかった。

いや、思考が停止してしまったといったほうが正しいだろう。

だって私が覚悟していた言葉はもっと違う言葉なんだから。



“保証人もいない人間を雇えない。”



そういわれるだけだと思ったのに、口から発せられる言葉は優しさで溢れていた。



だって、働き口だけじゃなく、住居まで提供してもらい、更に身元保証にまで手をあげてくれるだなんて思わない。

私は今日初めて顔を見合わせた、2人にとって知らない人間なんだから。



_____でも



胸がドキドキする。

温かいモノが胸いっぱいに広がって、ぞくぞくした。



嬉しいはずなのに、何故か涙がこみ上げる。



正直何故自分がここまで感情が沸き上がってくるのかわからないけれど、それでもこみ上げてくる涙は嬉しさという感情の表れで、私は戸惑いながらも口を開いた。



「どうして…?」



なんで“私なんか”にそんな優しい言葉をかけてくれるのだろうか。



疑問を口にするとインディングさんは一度首を傾げたあと、なにか納得したように頷いた。



「こんな可愛い子は、今すぐにでも養子にしちまいてーんだがな」



とニヤリとインディングさんが笑うと、サリーナさんも「そうね!」と笑った。

ふるふると首を緩く横に振る。



(違う、私がいいたいのはそうじゃない…)



なにも知らない、いや、覚えていないだけかもしれないこの土地で不安な以上、養子として受け入れてくれるといった2人の言葉は嬉しい。

本当に嬉しい。

だけどそれでこの2人になにかあったら、私は罪悪感で押しつぶされてどうしようもなくなってしまう。



勿論私が何かをすることなんて考えてもいないが、それでも怪しい私という人間に疑いをかけた人がこの2人を巻き込む恐れもある。



(こんなに優しい2人に迷惑かけられない)



いっそのこと別の働き口を見つけたほうがいいのでは…そんな考えも湧いてくる。

そんなすぐに働き口がみつかる保証はないが…。



(私は…)



「安心しろ。迷惑だなんて思ってない。…それに、気に入ったやつじゃなきゃこんなこといわねーよ」



だからうちに来てくれ。とポンポンと頭を大きな手のひらで撫でられる。

きっと困った顔している私を気遣ってくれたんだと思わせられる言葉に、涙が頬を伝る。



「あれ…、お前もしかして女だったか?」



サリーナさんと一緒にインディングさんの言葉にキョトンとしてしまい、流れた涙が一瞬で止まる。



「やぁね!!こんな可愛い子一目見ればわかるじゃない!!」

「仕方ねーだろう!髪の毛短いんだから男かと思ったんだよ!」

「それでもこーんなに可愛い顔してるんだから、女の子ってわかるじゃない!」



ごめんねアレンとサリーナさんに言われて、私は笑って首を振る。



「自己紹介がまだだったよな?俺はインディングっていうんだ。これからよろしくな」



サリーナさんに叩かれたところを擦りながら笑うインディングさんの隣には、優しく微笑むサリーナさんがいて、胸がぎゅーって締め付けられたけど同時にとても温かいものが広がった気がした。





______ああ、そっか。私は…





目が覚めたときは知らない森で、見たことない生き物や鳥に虫。

その中では恐ろしい生き物に追いかけられて、死を感じて、そして気付いた時には自分の事が何も思い出せなくなってしまっていた。

宛てもなく歩いて、この先どうしようかと思った。



「サリーナさん、インディングさん、…あ、ありがとうございますっ」



初めて会ったばかりの私を受け入れてくれる優しい2人に迷惑なんてかけられないと思っていたのは本当。

だけど、それよりも私は……。



「違うだろ?アレン」



_____2人の優しい言葉に、笑顔に、



「これから…なぁに?」



_____もうこの2人から離れたくないって、側にいたいって気持ちが大きくなっていたんだ。





「よろしくお願いします!」









目からは涙が止めどなく流れ出たけれど、じわりと温かい感情が胸いっぱいに広がって、私は2人に満面の笑みを浮かべたのだった。









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