無償の愛【完結】

あおくん

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9.住民登録と養子縁組

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あっという間に10日目の朝です。

おはようございます。



あれからすぐに養子縁組することも、私の貼り紙もすることはなく、ただお店の手伝いと、毎日の買い出しの際にサリーナさんと一緒にお出かけして、いろんな人に紹介してもらった。

といっても、サリーナさんがよく利用している八百屋さんだったり、お肉屋さんだったり、と生活範囲の人たちばかりなのだが、それでも私を知る人、そして私の記憶復活も進展なく終わった。

でもイートのお店が贔屓にしているパン屋さんも紹介してもらう中、ちょうどお店にいたコクリ君という子を紹介してもらったり、もうすぐレイン君も帰ってくるということで、楽しみが沢山あった。



ちなみに、教会で講義が受けられると教えて貰った私はサリーナさんと共に教会に向かったのだが、教会から私が10歳よりは上だろうと判断され、受けることが出来なかった。

その為、少しずつ基本的な教養をサリーナさんに教えて貰っている。

文字は読めるし書ける。

計算も問題なくできた私は、最初に教えて貰ったのはお金の事。

「計算できるのに、お金をみたことないなんて不思議ね」とサリーナさんは漏らしていたが、どうやらお金の勘定で計算方法を知るらしい。



お金はコインしかなくて、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨で取引されている。

ちなみに通貨は「イエン」だ。

銅貨は1イエン。大銅貨は10イエン。銀貨は100イエン。大銀貨は1,000イエン。金貨10,000イエン。大金貨は1,000,000イエン。

大金貨だけ一気に価値が違ってくるけど、コインにも表示されているから間違えることはないだろう。



ちなみに両替は役所でできるらしい。



あ、ここイートは500イエンで食べられるよ。銀貨5枚だね。



町もこの十日の間サリーナさんと一緒に行動していた為、イートの近くならどんなお店があるのか大体わかるようになったし、顔も覚えてもらえるようになった。

「今度初めてのおつかいしてみる?」とニコニコとサリーナさんに言われたので、ちょっとわくわくしている。



「ふぁ~」



そして、いつもより早い時間に起きた私は欠伸がでた大き口を隠すように手で覆う。



今日はお店をお休みにして、今三人で役所に向かっているところ。



役所は各町や村にある機関だ。

今回は国民情報の変更に行くだけなので王都に行く必要はないらしい。

ではいつ王都の役所に行く必要があるのかというと、地域を跨ぐ住居の変更等のようにこの地域だけで完結出来ない場合のみ王都に行かなければいけない。

ちなみに勿論王都といっても王宮内に足を踏み入れるわけではない。



(あ、そういえばレイン君に言ってからでなくてもよかったのかな?私が二人の子になること…)



私の両隣に並んで歩く二人を見上げると、嬉しそうにしているので、きっと大丈夫なのだろうと思った。

それよりも養子になる経験がないから、手続きに対して不安が積もる。



「はい。書類受け取りましたぁ」



お店から40分くらい歩いたところに役所があり、そこでインディングさんが受付の人に話をすると1枚の書面を渡され、その場でさらさらと記入する。

最後にインディングさんとサリーナさんの血判をして受付の人がざっと目を通して、確認した。

そしたらもうあっさり、すごくあっさり書類を受け取ったお姉さんが、後は登録だけですね。と言って、私と二人をそれぞれ別の部屋へと案内する。

え、あの、何の登録?



「じゃあチクっといっちゃいますね!」



にこやかに笑って取り出したのは、先端がキラリと輝く注射器だった。



「え、あ、あの…」

「大丈夫ですよ!登録に必要な少量の血をとるだけなので!」

「血をとるって、…」



その注射器で!?いやです!無理です!

明らかにぶっっっとい針がセットされてるその注射器で刺されたら、止まる血も止まらない。

ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!!と両腕を後ろに隠して、ぶんぶんと首を振る。



「…どうでもいいから、さっさと腕を出しなさい!」



無理!いいから!ヤダ!と攻防を繰り返してたら、どこからともなく女性の人と同じ服を来た年配の女性が現れて、体を抑えられてしまった。

ひいと怯えながら横目で見ていると、あのぶっとい針で刺すのかと思ったらそうではなく、果物ナイフみたいなので指先に少し傷をつけて、出てきた血を注射器で吸い取ってた。

…え、そうやって使うの?

なんかすごく騙された気分。いや、期待していたわけではないよ。本当に。



「ほーら大丈夫だったでしょ?」

「は、はい……」



私を押さえつけていた年配の女性は、いいこいいこと私の頭をなでて部屋から出ていき、私から血をとった女性は部屋の角にある席に座った。

なにをするんだろうか?と不思議に思ってじっと見てると、女の人は本を広げて、吸い取った血を何滴か垂らすと、本が発光した。

おおって思ってそのまま見ていると女性が「あら?」と呟く。



「君、この地域の住人じゃなかったのね」

「?そうなのですか?」

「ええ。この国では生まれたときに住民登録をして、各地域と国で管理しているのよ。

でも他の地域から移り住む人なんて滅多にいないし、そうなった場合は王都で手続きしなければいけないから…、ちょっと待ってね。どこの地域か調べるから」



女性は黄色い水晶玉を取り出して、私の血を本に垂らしたように水晶玉にも垂らす。



(あれも、魔法玉なのかな?)



血を垂らして数分たつと、女性が悩まし気に眉を寄せて腕を組む。



「おかしいわね…、検索できない」

「あ、あの…登録されてないってことですか?」

「ええ…、普通ならありえないんだけど、どうやら登録漏れか、もしくはこの国の人じゃないかのどちらかね」

「登録してないとなにか罰を受けたりとかって…」



恐る恐る尋ねると、女性は安心させるようにニッコリ笑って答えた。



「特にないわ」



無いのか。

てっきり面倒な手続きとかあるのかと思ったけど、でも安心した。



「じゃあこの国の人間じゃないのにここで暮らしていた場合は、なにかありますか?」

「この国の住人として新たに登録しなおす必要があるけど、…どういうこと?」



訝し気に見上げる女性に、私はとっさに首を振る。



「あ、あの!実は私記憶喪失で10日前に拾われたんです…。なのでどこで今迄生活していたのかも、全く思い出せなくて…」



「そういうことね」と肩の力を抜く女性に、私も信じて貰えて安堵する。



「君自身にこの国の住人になる意思があるのなら、私たちは受け入れますよ。

ただ、途中からこの国の住人となる人にはお試し期間があってね、1年間は魔法で他人を傷つけてしまった場合、普通の住民に比べて罪が重くなってしまうから注意すること」



どういうことかと問うと、「他人がけんかをしていたら、君がなんとかしようとするんじゃなくて街を巡回している騎士に相談しなさい」とウィンク付きでアドバイスを受ける。

確かに意図的にケンカしなくても、巻き込まれる可能性があるから、納得だ。



「それに君の場合他の国の住人というのはちょっと考えられないから、そんなに心配しなくてもいいわ。

まぁ、未登録者であることは間違いないからお試し期間は設けられるけど……はい!登録完了!これであなたもこのイヴェール地域の住人で、あの二人の子として登録されたわ!」



「おめでとう!」とパチパチと拍手を送ってくれる女性に、私も実感がわいて嬉しくなる。



「なにか質問はある?」

「いえ…あ、私が他の国の人じゃないってことはなんでわかるんですか?」

「え?だって貴方どうみたって人間でしょ?獣人もしくは亜人とのハーフでも人間の血は他の種族より弱いから、獣人もしくは亜人の血が外見に色濃く出てくるから見ただけでわかるわよ?」



あと質問は?と問われて今度は首を振った。

そういえばサリーナさん言ってたなと思い出す。

ここは人間の国だって。

人である私は最初からこの国の人だってことなんだ。



「じゃあこれで終わりだから、もう帰っても大丈夫よ」

「ありがとうございました」

「どういたしまして、困ったらまた来るといいわ」

「はい!」



部屋を出る前にまたぺこりと頭を下げてドアを閉める。

廊下は走っちゃいけませんって言われてたけど、テンションが高くなっていた私は足を止めることができなかった。



「アレン、無事に終わったのね」

「!インディングさ…」



いつものように名前を言おうと思って戸惑った。

どうしよう、家族の登録が済んだんだし、お義父さんとお義母さんって呼んだ方がいいのかな?



「どうしたの?」

「どうした?」



覗き込むように私の顔を伺え2人をそろそろと見上げて、恥ずかしさからぎゅっと服をにぎりながら口にだしてみる。



「どうもしないよ。あ、お、お義父さん…、お義母さん…」



そうよんだ瞬間のインディングさんサリーナさん、改め、お義父さんとお義母さんは凄かった。

役所の入り口で僕を抱きしめて、うちの子サイコー!やら、かわいいすぎる!!!やら叫び、注目を浴びながら帰ったのだ。

は、恥ずかしい。



でもそれが嬉しいから、やめて欲しいって言葉は口から出なかったし、寧ろ私から首に腕を回して密着するように抱き着いた。



















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