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11.これが私の家族
しおりを挟む「で、誰だ?」
4人席のテーブルに、レイン君…いやもう"さん"だ。さん付けがあってる。
レインさんは隣に座っている私ではなく、お義母さんとお義父さんをジト目で見ている。
「あ、あの…サリーナさんとインディングさんにお世話になっているアレンと言います」
あらお母さんでしょ!俺もお父さんだろ?という声が全く聞こえていないのか、「アレン…」と私の名前をかみしめるようにつぶやいていた。
意外に好印象かも!と今後兄妹として仲良く過ごしていけるかもと舞い上がるが、お義父さんとお義母さんの反応に言うことはないのかなとも思う。
「俺はレインだ。この2人の息子で今は騎士を目指して施設に入っている」
「はい、お義父さんとお義母さんに聞きました。騎士は才能や努力をしないとなれないと。レインさんは凄いですね、私も応援しているので頑張ってください」
にっこりと笑うと、レインさんの頬が少し赤く染まる。
気を悪くしている様子ではないみたいなので、照れているのだろうか。
何にせよ、このまま仲良くしていきたい。
「…ってちょっとまて。"おとうさん""おかあさん"?」
「そうだ」
「隠し子がいたのか!?」
テーブルに手をつき勢いよく立ち上がるレインさんに、お義母さんが宥めながら座らせる。
「ちげーよ。アレンはちょっとした訳ありでな…」
「ええ、記憶喪失なのよ。一応お客さんたちにも聞いてみたり、アレンも何日か住んだらなにか思い出すかもと様子をみていたんだけど…、結局何も収穫がなくてね。
だから養子の手続きをしたのだけど」
「その時に住民未登録だといわれたらしくてね」
「さっさと養子にしとけばよかったな」
「ほんとよね」
そんなる二人に胸が温かくなる。
私が未登録者であったことを伝えた時、「そうだったのね」と驚きながらも、今みたいにさっさと娘にしてしまえばよかったと言ってくれていたのだ。
「つーか先に役所に聞けばよかったと悔やんでる」
「ねぇー、そうしていればアレンも不安がらずにすんだのに…」
「…私、不安になってなかったよ?お義父さんもお義母さんも、とても良くしてくれたから…」
だからどんなタイミングでも嬉しかったと伝えると、2人はとても嬉しそうに笑って頬を染める。
「いや…なんで、そこで養子縁組に……、いや、今はそんなことより…えっと…つまり、俺たちは、兄妹…ってことか…?」
「ええ、そうよ」
にこりと微笑むお義母さんは続けて「アレンは記憶喪失だから帰れる場所もあるかわからなかったのよ」と告げる。
お義父さんも「俺たちが気に入ったのが一番の理由だがな」とも話し、対するレインさんは眉に皺を寄せてなにやら険しい表情だ。
さっきまで、友好的に感じていたから、レインさんの表情はかなりショックだ。
そんな気持ちが出ていたのか、お義父さんが向かい側から手を伸ばして頭を優しく撫でる。
「レイン、俺はお前の親だからな。お前がアレンに何を考えているのかわかっているつもりだ。
だがな、アレンだって俺たちの可愛い子だ。悲しませるな」
「ッ!」
お義父さんに諭され、勢いよく私をみるレインさん。
そして肩を落としながら謝罪してくれた。
「…悪いアレン…、お前が嫌なわけじゃないんだ…。ただ…」
「ううん。いきなりだもん、戸惑って当たり前だよ。
ただ、私の事が嫌じゃないなら仲良くしてくれると嬉しいな」
膝の上のレインさんの手に重ね、俯くレインさんを下から覗き込む。
レインさんはちょっと目を泳がせたあと、こくんと頷いた。
「よかった。これからなんて呼べばいいかな?見た目ではレインさんの方が年上な感じするから、“お兄さん”って呼んだ方がいい?」
「“レイン”でいい…記憶ないんなら同い年かもしれねーだろ?」
「…それもそうだね。じゃあレイン、改めてよろしくね」
よかった。
仲良くできそうで、私はほっとする。
「なんか…見た目だけならアレンの方が幼いはずなのに、…立場が逆に見えるわね」
「女の子の方が精神面での成長早いらしいからな…」
こそこそと話すお義父さんとお義母さんの会話が聞き取れなく私もレインも首を傾げるが、お義父さんは気にせずに席を立ち、晩御飯を運んでくれた。
今日の料理はコロッケで、お話しの前に揚げておいたのだろう湯気がすっかりなくなっていたがサクサクとした触感はそのまま残っている。
そして真ん中に置いたのはホールで作られた生クリームとイチゴがたっぷりのケーキ。
「これね、レインの好物なのよ」
コロッケもケーキも、と教えてくれるお義母さんの言葉をレインは恥ずかしそうに「母さん!」と遮る。
「あとこれ」
と置いたのは朝皆でつくったクレープだった。
「なんだ?これ?」
お客さん同様見たことがないのだろうクレープにレインは首を傾げる。
「アレンが作ったくれーぷっていうデザートだ」
「アレンが?!食べる!」
実際には私の作ったのは最初に2人に味見をさせた1つだけなので、他は全て3人で作った、が正しいのだが、ご飯より先にクレープに手を付けるレインにお義父さんは笑いながら私の前にも一皿置いた。
「え?これも余ったの?」
途中から食器洗いばかりしていた為、量の把握が出来てなかった。
30分弱くらいでそんな作れていたかな?と疑問に思って尋ねると、お義父さんが悪い顔でニヤリと笑う。
「とっておいたんだ」
「へ!?」
「俺たちは味見で食べたけど、アレンは食べてなかっただろ?だからとっておいた」
茶目っ気たっぷりでいたずらっぽく言ってはいるが、お義父さんの気遣い凄い。
「いっぱい食べて大きくなれ」
そう言われて私はむずむずするような、少しだけ嬉しい気持ちになる。
最初は言葉通りの意味で小さな子供に対して言っているのかと思ってはいたが、私がお義母さんの買い物についていくようになって気付いたのだ。
町で見かける私ぐらいの子供との体格の差。
男女で身長や体格の差はあれども、基本的に私より大きい人ばかりなのだ。
お義母さんも他の人に比べたら少し小柄だが、それでも私からすると大きいの一言に尽きる。
このお店にも男性の大人たちばかりが尋ねるんじゃなくて、子供連れで来る人も結構いるのだ。
皆よく食べてるし、食欲旺盛ともいえる。
その為同じくらいの子供と比べると私は華奢な体形をして、尚且つ身長も低く、そして食が細いから、お義父さんもお義母さんも沢山食べさせようとしていた。
でもそれが私を想っての言葉だから、とても嬉しくなる。
だから沢山食べていて、今では少し筋肉がついたのか、すぐ疲れなくなった気がした。
(それにお義父さんの料理は美味しいから、いくらでも食べれるもんね)
もぐもぐとご飯を食べ終えて、ケーキとクレープを楽しむ。
こんな感じで食事を楽しみ、レインを交えて少しの会話を楽しんだ後、就寝するために皆で2Fに移動した。
「アレンはどこで寝てんだ?」
そう問いかけるレインに私は思い出す。
「そうだ!お義母さん、私どこで寝ればいいの?」
たまにしか帰らない息子だからということで、レインの部屋を使っているのだ。
2Fにはお義父さんとお義母さんが使う部屋と、レインの部屋の2部屋。それにシャワー室しかない。
「いつも通りレインの部屋で一緒に寝ればいいじゃない」
「へ?」
「はぁ!?」
「やったな、レイン」
口をあんぐりと開く私たちに、グッと親指を立てる仕草するお義父さん。
「でもせっかく帰ってきたのに、私が一緒に寝ると狭くて良く眠れないよ?」
お義父さん達のベッドに比べ、レインのベッドは一人用。
私の体のサイズに合わせたら広々と感じるだろうが、レインにとったらちょうどいい大きさの為、一緒に寝るとしたらきっと窮屈な思いをさせてしまうに違いない。
「大丈夫よ、この子何かを抱・き・し・め・ながら寝たほうがぐっすり寝れるみたいだから」
「は!?」
「そうなの?じゃあ私を抱いて寝てもいいからね」
「!?!?」
抱き枕とか見当たらなかったけど、レインにそのような癖があるのならよかったのかな?
「じゃあおやすみ。レイン、アレン」
立ち去るお義母さん達に同じように返し、私はレインと一緒に部屋に入ったのだった。
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