無償の愛【完結】

ぁおくん

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24.属性検査とドキドキする心

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これぞ仕事場という感じの執務室に案内され、作業スペースの広そうな机の前に設置されたテーブルとソファ。

その柔らかいソファに腰かけた私は、広い部屋をぐるりと見渡す。



広めの机の上には何も書面や資料は置かれていない。

私がくるから片付けたか、ヴォルティスさんが綺麗好きで仕事熱心だからか。



更にぐるりと部屋の中を見回すと机から向かって左右の壁には鍵付きの棚が並べられている。

その棚の一つを開き、ヴォルティスさんが小さめの箱を取り出した。



「アレン、今から君の属性について調べるが、いいか?」

「属性!…あ、でも王都に行かなきゃできないんじゃ…?」



一瞬喜んだが、そういえばと思い出すと、ヴォルティスさんが首を振って否定した。



「それは平民の場合だ。騎士団や魔術団では王都に比べては劣るが簡単な感知球が置かれている。

騎士団や魔術団では属性や魔力量把握は重要なことで、いつでも調べられるようにしているんだ」



あ、それお義母さんが私に教えてくれたことだ。と思い出しながら、ヴォルティスさんの話にコクコクと頷いた。



「5日前に伺った際、君の両親にアレンの属性を調べてあげて欲しいと頼まれたんだ」

「お義父さんと、お義母さんに?」

「ああ、まだ調べれてあげられていないからと・・・・。

アレンは後でもいいと言っていたようだが、君の母は気にしているようで、調べて欲しいとお願いされたんだ。…いいか?」



魔法属性の事、私としては少し忘れかけていた事なだけに、お義母さんの心遣いに胸が温かく感じながら、ソファから立ち上がりヴォルティスさんに近づいた。



「はい、調べて欲しいです。お願いします」



コクリとヴォルティスさんは頷くと、木の箱から私が買ってもらった魔法玉を一回り、いや二回りほど大きくした球を取り出した。



「では何も考えずに、この魔法玉を手に乗せて。魔力は籠めなくてもいい」



手に乗せるだけでいいのかと、ドキドキしながら魔法玉に手を伸ばす。

透明だった魔法球は中心部から徐々に白く色づきはじめ、あっという間に外周以外を残して白く染まった。



「!」



驚き、息をのむヴォルティスさんに、球から手を離して私は白の意味を問う。



「あの、白色ってなんの属性なんですか?」

「白は、……光属性の色なんだ。王族以外だと、光属性はあまり見かけないほどに珍しい属性だ」



珍しいからヴォルティスさんも驚いたんだなと納得していると、頭をポンポンと撫でられる。



「俺が驚いたのは属性もそうだが、魔力量の方だ」

「魔力量?属性じゃなくですか?」

「ああ…、と、その前に座ろうか」



ソファに座るように促され、端の方に腰を落とすと、隣にヴォルティスさんが座る。

体格の差があるから、沈む量が違って、私の体は少しヴォルティスさん側に傾いた。



「属性に対しても勿論驚いたよ。なにしろ一般的には余り目にかかれない属性だからな。

だかそれ以上に、アレンの年頃でここまで魔力量が大きいものはあまりいないんだ。

騎士や魔術師の魔力量の平均値は上の下。

そして見習いの場合はその判断基準の年齢も考慮して、中の中程の魔力量がなければならない。

つまり、アレンの年で頑張ったとしても、平民の魔力量は中レベル、また魔力量が多いとされる貴族の子供でも中の上ぐらいなんだよ」



ということは、レインは中の中以上持っているって事なんだ。

凄い努力したんだなと改めて思う。



「勿論見習いに合格する為には、魔力量だけではなく、魔法の熟練度も重要だ。

だから、判定基準として魔力量を調べるだけではなく、魔法の実技テストも行われている」



というヴォルティスさんに、私はふんふんそうなんだーと相槌を打つ。



「それで、私はどれぐらいなんですか?」

「アレンの魔力量は上の中だ」

「…え、上?」



ヴォルティスさんから告げられた言葉に思わず瞬いた。



「……もう一度計りなおしますか?」

「俺の話を聞いて、アレンが疑問に思うのも無理はない。

だが、感知器が違えることはない」



断言するヴォルティスさんに、私は申し訳なくなる。



そうだよね、今までこの魔法球を使って訓練の成果を確認していた人たちがたくさんいるんだもの。

それが一度でも狂ってしまうと、今までの計量結果に疑惑が生じてしまう。

でも私にそんな魔力量が秘められているなんて…かなり信じられなかった。



「……アレンは、もしかして日頃から魔法を使っていたのか?」



ぽつりと呟かれた言葉に慌てて首を振る。



「い、いいえ!私火の魔法玉で明かりを灯したり、コンロに火をつけるぐらいしか魔法って使ったことなかったので!

それに自分の属性もわからないのに、魔法とか使えないですよ!」



「確かに」とヴォルティスさんが魔法玉を木の箱にいれ直して棚にしまう。

もちろん鍵をかけることも忘れてない。

記憶喪失前の私が凄い鍛えてたら魔力量が多いのも納得だけど…、その記憶はない。



「あ、あの…魔力って鍛えれば増えるって言ってましたけど、鍛えることをしなかったら減ったりするんですか…?」

「いや、一度身に着いた魔力量は減りはしない。

魔力量が増えるということは、その魔力量が体の適正量だと判断した結果だ。逆に減ってしまえば体に支障をきたす。

たとえ、記憶が失われる以前の君が鍛えていた結果の魔力量だとしても、既に身に着いた魔力量は減りはしないんだ」

「そうなんだ…。あ、ごめんなさい、私…」



思わず敬語を忘れてしまった私は慌てて言い直そうとすると、座りなおしたヴォルティスさんに遮られた。



「構わない。それより俺はアレンに伝えたはずだ。”ヴォル”と呼んで欲しいと。

愛称で呼んでもらいたい相手には、………出来れば敬語もなくして気軽に接してもらいたいん…だ、が」

「へ?!」



少し寂しそうに「いいだろうか?」と言われてしまえば、私は頷くほかなかった。

そういえば初対面の時言われたことを思い出す。

あの時から、私にそう思ってくれていたんだとわかると、なんだか嬉しかった。



「…先ほど、コンロに火をつけるといってたが、アレンもお店で料理をしているのか?」

「いいえ!そんな、…あ、ううん。今お義父さんに教わり中なの」



思わず出てしまった敬語を言い直すと、嬉しそうにヴォルティスさんが顔をほころばせる。

そんな顔されると嬉しくなるし、なんだかくすぐったい。



「教わってる最中…?」



反復された言葉に大きく頷いた。

そう、教わっている最中で、決して料理ができるとはいえない。

だってこの間火傷したばかりだもの。



「アレンは店を継ぐのか?」

「ううん、私そういうつもりで教わってるんじゃないの」

「ではなぜ?」



まっすぐな目で見つめられて、ちょっとだけ恥ずかしくなる。

もじもじと動かしてしまう自分の手を眺めながら、料理をしたいと思ったわけを告げる。



「あの時いたヴォル、さんは、私とお義母さんの話聞いてたと思うけど…。

自分で好きな、…夢中になってもっとやりたくなるようなことって、私自分でわからなくて…お義母さんの言う通りだなって…、私全然他の事に目を向けてなかったってことに気付かされたんだ…。

だから、自分の近くに“プロ”がいる“料理”が一番手にしやすい物かなって、お義父さんにお願いして教えて貰ってるの」



習い始めて間もないから全然出来ないけど、と笑いながら顔を上げるとヴォルティスさんが柔らかい表情で微笑んでいた。



「アレンは凄いな」

「へっ!?な、にが?」

「自分以外の人の言葉を素直に受け止められるところも、前を向いて頑張っているところも」



そっと優しく私の頬に触れるヴォルさんになんだか胸がざわついた。



「とても魅力的で、俺には眩しい」

「あ、ああああのの!?」

「抱きしめても、いいだろうか?」



微笑んでいた優しい笑みが、今では弱弱しく、少し赤く染まっているヴォルさんの顔が至近距離にある為か、私は物凄く動揺した。

私とヴォルさんは年齢が10以上も違うのに、トキメクっておかしい事なのに、それでも何故かドキドキしている。



もう一度耳元でささやかれた私は、ぎこちなく頷いた。



もう。



だって。



この時の私は何も考えられなかったんだ。



そっと優しく腕を回されて、抱きしめられる。

鎧姿ではないから、ヴォルさんの暖かい体温が伝わってくる。

優しく私の背中に回されている手は、腕は、ひどく優しい。

お義父さんもヴォルさんと同じように優しく抱きしめてくれるけど、でも何故か私はお義父さんとは違うと思った。



なんで。



どうして。



ヴォルさんに抱きしめられてるだけなのに、暖かい感覚にお義父さんに対するようにほっとするはずなのに、なぜかドキドキして忙しない。



思考がうまく回っていない私にありがたいことに、すぐに、ありがとう、と伝えられて離された。



「あ、い、いえ…とんでもないです」



ほっとしながらも、離れていくぬくもりに、少し寂しいと感じながら、私は羞恥でいっぱいだった。

ヴォルさんの顔もさっきより赤いけど、きっと私程じゃないだろう。

自分の顔が、すごく熱いのがわかるから。



「アレンが構わないなら、魔法を教えたいんだが…」

「…え?」



パタパタを熱を冷ますように仰ぐ私に、席を立って離れていたヴォルさん。

口調は全然さっきまでと変わってないのに、私と目が合うと、目を大きくさせて、そらされる。

ぎゅってしたのはヴォルさんの方なのに、と少し寂しく思ってしまったけれど、ヴォルさんの真っ赤な耳と少しだけ見える赤くなった頬が寂しい気持ちを吹き飛ばしてくれた。



「アレンは10歳で住民登録をしたのだろう?それだと講義が受けられてないのではないか?

先程自分でも魔法玉を利用する以外の魔法は使ったことは無いと言っていたから、…俺の休日の日に合わせることになってしまうが、俺がアレンに教えたい。

いや、こうしてアレンと会う口実を作りたいんだ」



まるで口説かれているかのようなセリフに、さっきのこともあって大げさに体が反応してしまった。



「嫌、か?」



ほら、アレン。

みてごらんよ。

返事もしないで、体がビクリとはねてしまったから、悲しそうにしているじゃないか。

そんな…10以上も年が離れている私の事を口説くとかじゃない。

レインやお義母さんがいってるように、ヴォルさんはとてもまじめな人だから、講座が受けられない私の為に思って言ってくれているんだよ。

何を自意識過剰になっているんだよ。



そう思い直すと、少し胸は痛んだけど落ち着けた気がした。



「嫌じゃないです。嬉しいです。是非お願いします」













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