無償の愛【完結】

あおくん

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26.結婚について

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「あの、ヴォルさん、今日はありがとうございました!」



陽が沈みかける頃、既に店じまいをしていたお店の前で私は深々と頭を下げる。



「俺の方こそお礼を言いたい。

本来はお詫びとして招待した筈なのに、とても幸せな時間を過ごさせてもらったんだ」



頭を上げると、本当に幸せそうな顔しているヴォルさんに真正面からそういわれた戸惑った。



さっきからたまに変な空気になって、照れるし、きっとヴォルさんも気まずく思ってる。

というかヴォルさんが変な空気にさせてる気がする。



「アレン帰ってきたのね」



そんな変な雰囲気になってしまった私達を助けてくれたのはお義母さんだった。

ありがとう!お義母さん!



「ヴォルティス様、アレンを送り届けていただきありがとうございます」

「いや、礼には及ばない。私がアレンと少しでも居たかっただけだからな」

「あらあら、もうヴォルティス様ったら!」



うふふふふ~と笑って、ヴォルさんの言葉を綺麗にスルーしたお義母さん、さすがだ。

私なら赤くなってしまって、なんて答えればいいのか戸惑っちゃうから。

しかもヴォルさんも自分の言葉に恥ずかしさを感じているのか、少し顔を赤くしている。



「では私はここで失礼する。アレン、またな」

「あ、うん!ヴォルさんまたね」



見回りに慣れているのだろうヴォルさんは、陽が沈み始めている中慌てることなく歩を進めていた。

ヴォルさんが見えなくなるまで見送ろうと思ったが、お義母さんに促されて、店に入る。



「あれ?」



店に入った瞬間、用意されていた晩御飯に目が留まる。



「ふふふん。全部の洗い物は終わってないけど、でもだいぶ片付けられるようになったわ!

それもこれもアレンのおかげね!」



お義母さんの言うとおり厨房を覗くと、あと20人前分くらいのお皿は残っていたが、私が想像していた分よりだいぶ少なかった。



「浅くてデカいタルをいくつか用意してな、そのまま放置するんじゃなくてつけておいてたんだよ。

アレンの言ってたとおり汚れ落ちやすくてな、俺もサリーナも空いてる時間見つけては洗ってたから、お前が帰ってくるまでここまで片付けれたぜ」



ニヤリと笑うお義父さんは、まるでどうだといわんばかりに胸を張っていて、なんだか子供みたいだと思った。



「むぅ…私も手伝おうと思ったのに、残ってる食器私洗うからね」

「あら、アレンは洗わなくていいわよ?」

「なんで!?」

「それよりすることあるだろ?俺と」



にやってしているお義父さんをみて、ハッとする。

料理教室!

生徒は私だけだけど、立派な教室。

とりあえず、席に着いて三人で晩飯を食べ始めた。

そして、今日の事をお義母さん達に伝える為に口の中にあるものを、よく噛んでから飲みこんだ。



「お義母さんヴォルさんにお願いしてくれたんだってね、ありがとう」



一瞬なんのこと?と首を傾げていたが、「ああ、属性の事ね」と思い出していた。



「それでアレンは、どんな属性だったの?やっぱり地の属性?」

「ううん、光属性だったよ」



フォークで良く茹でられて柔らかくなっているジャガイモを差して、口に運ぶ。

じゃがいもはバターで、ベーコンと一緒に炒めてられていた。



「光?珍しいわね~」

「だな」

「ヴォルさんもいってたけど、そんなに珍しい属性なの?」

「ええ、この町にも1人いるかいないかってぐらいの珍しさよ。でもよかった」



ほっと安堵するお義母さんに私は首を傾げる。



「よかった?」

「ええ、火や雷なら攻撃魔法が主だけど、水、風、地、そして光は、使い方にもよるけれど、基本的には攻撃タイプじゃないの。

だからもし仮に魔法が暴発してしまった場合も、火や雷ほどに大事故にはならないと思ったら、良かったと思ったのよ」



それに光属性は、今や王族ぐらいって程滅多にいない属性だし、自慢しちゃえるわね!とニコニコ顔のお義母さん。

それって逆にどうなんだろうと思ったが、王族と決定的に違うのは癒しの魔法が使えない事。

だから珍しい光属性といっても、王族ならともかく、王族の血をひいていない光属性は、他の属性を持つ人間と扱いに差がないらしい。

なのでこの町の規模でも光属性は王族以外に一人いるかいないかくらい珍しいだけで、そこまで希少価値もない。

だから光属性をもつ王族以外は誘拐等はされたことがないらしい。



「他に何かあった?」

「他、………」



そう言われて、思い出したのはヴォルさんに抱きしめられた場面。

思わず私は顔に熱が集まってしまって、きっととても顔が赤くなってしまってるだろう。

顔が暑い。

いや、熱い。



「あ!そうだ!あ、あのね、わ、私10歳でしょ?講義受けられないからって、ヴォルさんが魔法の使い方を教えてくれるって言ってくれてね!」



赤くなってしまった顔を隠すように俯きながら言い淀んでしまったが、そろり顔を上げた瞬間お義母さんのニヤニヤした顔が目に入った。



「お、お義母さん?」

「ああ、ごめんね。なんかアレンが青春してるなーって思ったらお母さん嬉しくなっちゃって…」

「青春って、ヴォルさんは親切心でいってくれてるだけなのに…」



私が口をとがらせながらいうと、お義父さんとお義母さんは目を丸くする。

あれ、なんでそんな顔してるの…?



「アレンはヴォルティス様がアレンの事好きじゃないと思ってるの?」

「え?」

「本当にただの親切心で、ヴォルティス様がアレンに構ってると思ってるの?」



お義母さんの言葉に首を傾げる。

なんでそんなこと言うの?そう思ってしまう程普通なら“ありえない”でしょ。



「だって」

「“だって?”」

「私とヴォルさん身分差もあるけど、年もすごく離れてるんだよ?」

「あら、そんなの理由にならないわよ」



そういったお義母さんに私は目を点にする。

理由にならないってなんで?



「……あ、アレン、父さんの勘違い…かもしれないから聞かせてくれ…、結婚って“どういう人”がすると思う?」



目が点になってきょとんとしている私に、首を傾げ、なにやらハッとした顔をして眉をひそめたお義父さんが私に質問する。

それぐらい私だって知ってるよ。



「結婚って“大人の人たち”がするものでしょ?」



自信満々に答えると、お義父さんとお義母さんは難しい顔をして互いの顔を見合わせた。



「アレン、その答えは少し違うわ」

「違う?」

「ええ。貴族同士の結婚は政略結婚が行われるところもあるらしいから、互いの気持ちが考慮されていない場合もあるけれど、私達のような平民は基本的には好きあっている者がするのよ」

「好きあって…」



お義母さんの言葉に、私は若干だったけれど違和感を感じた。

何故かはわからない。

けれど、本当にそうなのかなと信じれないような、そんな不思議な感覚があった。



「そして結婚には二つあるの。

私とインディングのように教会で認められた結婚と、認められていない事実結婚よ」

「事実結婚?」

「ええ。さっき私は好きあっている者同士がするのが結婚だといったけれど、結婚して家庭を持った者は子供を設けなければならない。

これは国を維持する為に定めた決まり事なの。

そして子供をつくる為には、魔力が必要なの」

「“魔力”?」



聞き返す私に、お義父さんとお義母さんは同時に深く頷いた。



「ああ、子は魔力で生成するんだ。サリーナが言ったように婚姻は、“子を生むことが前提”と定められている。

よって“魔力量が少ない者同士では婚姻が受け付けられない”。

だが魔力が少ないもの同士でも例外として、”子をなすことが出来たら、婚姻が認められる”」

「だから子作りには魔力が重大で、歳は重要ではないのよ」



なんだか、……とても、信じられなかった。

この時初めて私は、本当に“ただの記憶喪失”なだけなのかと思ったし、それぐらいの衝撃を受けている。



「…だから、問題にならないの?」

「そうだ。“子”を成せることが条件としてあるが、逆にそれさえクリアしてしまえば、婚姻は認められるからな。

アレンにサリーナが“どんな人とでも結婚できる”といったのは、“子が成せれば身分差や立場は関係ない”から伝えたんだ」

「……でも平民は“魔力量が低い”ってヴォルさんは言ってたよ?お義父さんだって前に言ってたじゃない。……結婚できなくなっちゃう人が増えるよ…?」



それに貴族との身分差だってあるんでしょう?と告げると、お義父さんは頷いてから教えてくれた。



「ああ、少し前まではそうだった。

王族が平民に無償で教育を施すのは何も、騎士や魔術師を育成させるだけが理由じゃないんだ」



コクリとお義母さんが頷く。



「アレンの言うとおり、平民は皆魔力量が多くなかったわ。逆に少ないくらいよ。

それこそ、魔力が暴発しても大した影響がないって思われるほどにね。

そしてちゃんとした指導の下じゃなきゃ、例え努力したとしてもうまく魔力量が上がらなかったのよ。

その上貴族は貴族同士で婚姻を結ぶから、平民の数はどんどん減少傾向にあったわ。

納められる税が減り、民の現状に気付いた王がそこで初めて対策をとったのが、今の教育環境なの」

「王が俺たち平民に施された教育はなにも魔力量増幅だけではなく、貴族や悪いことを考えるやつらにただ搾取されないよう、ある程度の一般的な知識も一緒に教えられたんだ。

おかげでただ不利益なだけの仕事に抗えるようになったし、俺たちの平民の生活はずいぶん楽なものになった。

今じゃあ、平民は脳無しじゃねーし、騎士になれるほどの実力を持った者が増えてるから、身分差をどうのこうのいう貴族らは、一部を除いてだがいなくなってんだ」



そうか、だから身分差をとやかく言われない、それこそ“自由”だってお義母さんは私に伝えたのか。



「…じゃあ…子供が作れないから結婚できないって人は、前よりいないんだね?」

「ああ。さっきいった通り、教育制度がしっかりしているからな。

子供を作れない程の少ない魔力量を持った人はいないといってもいいくらい少なくなっている」



そうか、と安堵した。

今でも不思議に思ってしまうけれど、それでも好きあっている人たちが結婚出来て、お義父さんとお義母さんのように幸せな家庭を築くことが出来ているのだとわかったからだ。



「もっと早く教えればよかったわね。ごめんね」



安堵した私を見て、お義母さんが私に謝る。

そして背筋を正して続けた。



「アレン、お母さんの魔力量は少ない方なの。

女性は男性よりも体が小さいからか、魔力の保有量もそこまで上がらなくてね、そしてお母さんは他の人に比べて体が小さい為か、魔力量も少ない。

でもこうして結婚して子供を、レイン“だけでも”授かれたのはお義父さんの魔力量のお陰。

だから例えアレンが魔力量が増えなくても、決して結婚できないわけじゃないわ」



安心してねとニコリと微笑まれる。

どうやら先程の私の様子に、体も他の人より小さいから魔力量も少なく結婚できないのではと、不安になっていると思われたのだろう。

私は慌てて調べてもらったことを告げる。



「あ、あのね、私魔力量少なくなかったよ?」



だからそこは気にしてないと告げると、あらそうなの?と言われないまでもきょとんとされた。

じゃあどれぐらいだったの?と聞かれて、咄嗟に「下の上くらいだった」と答えてしまう。



ヴォルさんでも驚くほどの私の魔力量は、そのまま告げるのはためらわれた。

でも中レベルと答えては、今まで頑張ってきたレインの事を考えるとって感じだし、中の中は見習いの合格ラインの魔力量だ。

その下の中の下も、体が小さくて、魔法も魔法玉でしか使ったことがない私が告げるのは…。

しかも私より大きいお義母さんでさえ、魔力量が低いといっているのに、差がありすぎるのは不自然で…

かといって下の中と答えて、子供が出来ないじゃないからね!と再び心配されて気を使われてしまったらと考えると、下の上と答えるのが正解なのではと思ったのだ。



私の答えが正解だったのか、特に疑問を持つことをしなかったお義父さんとお義母さんは軽く流してくれた。

下と中の差がとても大きいのだろうか。

ヴォルさんにもっと聞けばよかったかもしれない。



「ねえアレン?話戻るけれど、平民も貴族も、それこそ騎士様とか、そんな立場や身分は関係ないのよ。

お母さんはアレンが好きになった人ならどんな人でも……、あ、ロクでない人は嫌だけどね、でもちゃあんと応援するわ。

だから最初から“この人を好きになってはだめだ”って決めつけちゃわないでね」

「アレンは俺たちの自慢の子だからな」

「ええ」



話は終わって、喉を潤わせるお義父さんのコップ以外の食器をお義母さんが片付け始める。

私も自分の食べ終えた食器を持ってお義母さんの後に続いた。

目が合うと微笑まれるけど



(好きとか…わかんない…)



記憶が失われてしまった為か、恋がどんなものかもわかってない。

けれどお義母さんの言った通り、相手の気持ちは自分の気持ちじゃないから決めつけちゃいけないのだと思った。



















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