無償の愛【完結】

あおくん

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41.出発と部下からみた団長_一部視点変更有

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というわけであれから一週間がたって、尋ね人がいるというドゥード地域のスレイン町という場所に向かう当日になりました。



町を出ても外壁のすぐ近くならば危険度が低く、私達のような一般人でも外に出歩くことがあるが、町から町に、それも地域を移動するとなったらかなりの危険が伴う。

その為通常ならば傭兵を雇っての行動になるが、今回騎士団が関わるということで_尋ね人を保護しているのが教会で、騎士団経由で話を通したため_傭兵を雇うのではなく、第二騎士団から数名の騎士が同行してくれるということになったのだ。

勿論ヴォルさんも一緒に。



「向かって左から、アルド・ドヴァス、デフロット・セルヴェ、シャーリー・シモン、マルク・シロドュー、オマール・マルク、ジーク・ガルニエ、フィール・アルベール。

第二騎士団の優れ者を集めたから、アレンは安心して欲しい」



名を呼ばれたタイミングに合わせて、被っていた兜を取り、会釈をするなりとそれぞれ何かしら反応を示す。

それにしてもフィール・アルベールという人は女性で、同性が一人でもいることに安心感があった。

私もこれからお世話になる為深く頭を下げると、皆よろしくと好意的に接してくれる。



「以前話したようにアレンは馬に乗れない為、私が一緒に乗る」



本当は馬車を提案されたのだけれど、そうすると倍の日程がかかってしまうという事を聞いて遠慮したのだ。

それでなくても魔物が出没しやすいといわれている森を避けるルートだから、馬車を使うとより時間がかかる。

私じゃない尋ね人の人の希望もあるけれど、理由の大部分は私にあるのだから、少しでも迷惑がかからないようにしたいと思ったのだ。



「出発前にもう一度確認する。ドヴァス、セルヴェ、シモンの三名は前方に、シロドュー、ガルニエは後方、そしてマルクとアルベールは私の左右を維持して走れ。
また今日中にサゼアン村を通過し、ペントニ村を目指す。そこで一泊し、目的地であるスレイン町に移動する!」

「「「ハッ!了解しました!」」」

「では行こうか」



ヴォルさんから差し出された手を握ると、ふわりと体が浮いた。

ヴォルさんに持ち上げられた私の体は馬の背中に乗せられる。

そして続けてヴォルさんも、身軽な動きで馬に乗り込んだ。



(鎧着てるのに、凄い)



「…これ鞍っていうんだよね?ヴォルさんなくても平気なの?」



よく見ると鞍に乗っているのは私だけで、ヴォルさんは直に座っている。

確か鞍がない状態だと骨が当たって痛いと聞いたことがあるから、大丈夫なのか心配になる。



「姿勢さえ気を付けていれば問題ないんだ。それに騎士団に入ると、いかなる状況でも動けるように鞍無しや手綱無しでの乗馬を体験する」

「そうなんだ」



よかったと安堵すると、皆それぞれの馬に乗り込んだことを確認したヴォルさんが声をかける。

そして歩き出す馬の振動に釣られて体が前後に動いてしまう。

でもこれは前にサーシャさんに会いに行った時に経験したこと。

今回こそはとふんっとお腹に力を入れて、気合を入れると



「わっ」



すかさずお腹に手を添えられて、ヴォルさんの体に密着させられる。

鎧で固いけれど、ヴォルさんに密着したことを意識した瞬間、急に心拍数が上がった。



「俺が支えるから体を預けてくれ」

「は、はい」













■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■











なにあれ。



目の前に広がる光景は本当にその一言に尽きるものだった。



ある日、副団長が楽しそうに歩いていたことが始まりだった。

副団長は高位貴族とは思えないほど明るく社交的で、身分さを感じさせない程下の者に対して気軽に話しかけてくれる人である。

そんな副団長がとても楽しそうに、ちょうど近くにいた男性騎士と話をしていたところだった。



『え!本当ですか!?』

『ほんとほんと!俺ももう嬉しくなっちゃってさ~!あ、団長から話していいって許可貰ってるから気にしなくても大丈夫だからね!』



聞いてはいけない話ではないという事を部下に伝える心配りもある。

団長においても、本人のいないところで話されているのに、問題ないと判断する程私ら部下への信頼を感じられるから、騎士団の中でもイヴェール地域配属の第二騎士団は居心地がいいのだ。



それにしても何の話だろうと、耳を澄ましていると、団長にいい人が現れたというものだった。



尊敬している団長にやっと春が来た。

いや、言い寄っている女性は多くいることは知っていたが、団長には全くその気がなく、もしかしたら同性愛者なのではないかという噂も出てきていたからこそ、遂に団長に!と話をしていた男性騎士も副団長も、そして耳を澄ましている私も嬉しく思ったのだ。



女っ気がない団長に副団長がアドバイスをして、いい感じの仲になってきていると話す副団長。

私にもなにか手伝いできることはないかと思った矢先、今回の護衛任務が提示された。

真っ先に手を挙げた者の中選ばれたことに歓喜しながら、やっとあえた団長の想い人に初めて会った。



(子供じゃん!!)



まさか尊敬している団長が幼稚趣味とは思いもよらず、私は愕然とした。

いや幼稚は言い過ぎかもしれないけれど、でももっと大人の女性をイメージしていた私は非常に遺憾だった。

そして重い兜に初めて感謝した。



頭を下げる少女によろしくと笑みを貼り付けて、私は答える。



純粋な笑顔は確かに可愛い。

事前にたてた予定を遅らせる自体にならないように、少女は馬の速度を上げて欲しいと頼むその気遣いもいいと感じる。



だけど、スタイルもよくなければ化粧っ気もない。

服装も…、いや馬に乗るという事であえて動きやすい服装で来ているんだろうと思うが、それでも団長という素晴らしい人がいながら、まるで平民の男の子が着る様な服装でくるとはと思ってしまう。

これも貧乏だけれど、男爵の娘に生まれた私の貴族としての気質がそう思わせているのだろうか。



せめて後10歳、いや5歳でもいい。

それぐらい歳がプラスされていれば、団長の隣にいても素直に応援していただろう。



というか、この子はいったい何歳なんだ。



団長に体を支えられ、顔を真っ赤に染め上げる少女。

鎧で顔は見えないけれど、初めてみる幸せオーラを放つ団長。



走りっぱなしは馬にも負担をかける為、たまに休憩を挟むと甲斐甲斐しく少女の世話をする団長に、嬉しそうに笑顔を見せる少女。



幸せオーラを浴びさせる二人に、私達目のやり場に困った。

初々しすぎて見ていたくなる気持ちはあった。

だが、何故か見てはいけないのではないか。

そっとしておいた方がいいのではないか。

二人っきりにしてあげたほうがいいのではないかと、思わせられる。



団長が幸せならそれでいい。



だけど、やっぱり気にはなるんだ。



















そして陽が暮れる頃にペントニ村に着き、宿をとった私たちは二人部屋を四部屋、一人部屋を一部屋借りて体を休ませた。

なにもかも初めてだったのか、産まれた小鹿のように足をプルプルと震わせる少女を抱き上げる団長の光景には、花びらが舞い散る様な幻覚が見えた気がした。



「ねぇ、不躾なことだけれど、聞いてもいいかしら?」



女性の私は必然的に少女と同じになる。

皆と共に食事を済まし、あとは寝るだけとなり、二人きりになった私は少女に話しかけた。



話しかけられるとは思ってなかったのだろう。

実際に団長以外と話すことがなかった、というよりも団長が少女の側を片時も離れなかった為、他の者たちと話す機会がなかったと思ったのかもしれない。



「あ、はい!なんでも聞いてください!」



印象だけで言うならばとてもいい子だ。

平民だからだろという者もいるかもしれないが、少なくとも団長に好かれているということだけで高飛車になるような女性は多くいるはずである。

だが、この少女はそうではない。

小鹿のようになりながら、文句を言わず、それどころか私達に気を遣う心を持ち、更に休憩時間も進んで魔力の自主トレーニングを行う真面目っぷりだ。

その真面目な点においては、団長と通じているところがあるだろう。



だが、それだけなのだ。

人間的に好いても、こんな子供を女性として意識するのだろうか。



「貴女、何故団長に好かれているの?」

「へ?」



目を点にする少女に私は話をつづけた。



「私は団長の事尊敬しているわ。でもそれは恋心じゃないから安心して。

でも不思議なのよ。団長の周りには綺麗で素敵な女性が多くいたのに、何故子供の貴女が団長に見初められたのだろうかと」

「あ、あの私…」



視線をキョロキョロと移動させる少女の様子を見て、私は我に返る。



「ごめんなさい。団長の心は団長だけが知ることなのに、貴女が分かるはずないわね」



寝ましょうと部屋の明かりを消すと、部屋の中は暗闇に包まれた。

二期の間は太陽が完全に沈む。

暗闇に身を包まれた私は、浅い眠りに意識を手放した。













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