呪いをかけられた王子は、人体実験の被験者に恋をする

あおくん

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さん ※エル視点

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■エルside


俺はエスバニア王国の第二王子、エルグランド・アフタニアとしてこの世に生を受けた。

王位を継承する兄上を支える為に幼いころから筆や剣を手にし、勉学に励み、剣に挑んだ。
全ては兄上を支える為に。
少し気が弱いところがあったとしても、それを補えるほど優秀な兄上の力になりたいと、本気で俺はそう思っていた。

だが、兄上は俺を裏切った。

久しぶりに兄弟で茶を飲もうと設けられた茶会に、俺はその日予定していたスケジュールを全てキャンセルしてガゼボで待つ兄上の元に向かった。
辿り着いた場所には兄上の他に兄上の婚約者もいて、少し気になったのは既にセッティングされたティーセット。
勿論ここに居たのが兄上だけなら気にすることもなかった。
兄上がなにかを企むわけがないからだ。
そして訝し気に見ていた俺の視線に気付いたのか、兄上の婚約者が俺を見てにこりと微笑む。


「心配しなくても私はこの場から立ち去りますわ」

「そこまで気を使わないでいただきたい。
あなたは私の敬愛する兄上の婚約者なのですから」

「ホホホ、そのようなシャープな眼差しを向けられては、女心としては気恥ずかしい思いを抱くものですのよ。
それに貴方の評判は私の耳にも届いております。久しぶりの兄弟の時間を、いずれ姉となる身とはいえ邪魔するつもりはありません。
…では、私は失礼させていただきます」


長いドレスの端を小さく持ち上げ、カーテシーをし終えた女がこの場から去っていく。
完全に姿が見えなくなってから、俺は兄上に問う。


「兄上…、これはあの人が用意したティーセットですか?」

「いいや、私が用意した物だ。
疑うのならば、私が先に飲んで見せよう」


自らカップに茶を注ぐためポットに手を伸ばす兄上を止めて、俺は首を振った。


「いいえ。私が兄上を疑うつもりはありません。
兄上がそういうのなら、そのまま受け入れますよ」


そう兄上に告げたが、一番の理由は毒の心配はなさそうだと判断したからだ。

ちらりと見た先にあるのは銀食器。

幼いころから毒殺に対し、慣れさせる為、あるいは臭いで判断できるようにと毒を少しずつ摂取してきていたが、無味無臭の毒もある。
致死量を大きく超える無味無臭の毒を盛られたら、例え幼いころから慣れさせていてもあっけなく死んでしまうが、この銀食器であれば変色して教えてくれる。
だからこそ、毒の心配はないと判断し、毒見をしようとした兄上を止めた。

設けられている席に移動し、まだ入れられていないカップに茶を注いで兄上と、そして自分の分を用意する。

席に着いた俺は、いまだに座らない兄上に首を傾げながら見上げ、茶が入ったカップを持ち上げたその時だった。


「!?」


カップから黒い蛇が現れ、俺を襲う。
まだ十歳と幼い俺の体はあっという間に、大きくて太い黒い蛇に撒きつかれた。
力強いその力に必死で抗うが、何故か急に目がかすみ、最後に視界に映ったのは、兄上の辛そうな表情だった。








それからは目も口も塞がれ、両手を後ろに縛られた状態で揺れる馬車の中運ばれたことを、途切れ途切れな記憶から思い出す。
万全な状態ならばこんな子供だましな縄手錠も簡単に外せるのに、あの黒い蛇の所為なのか、力が全くでなかった。
それどころか徐々に苦しく感じ、終いには意識を保つことだけでもやっとだった。

そして目的地に辿り着いたのだろう、手を縛っている縄も、口や目を塞いでいる布も取られているのに、指先一本も動かせず、されるがままの状態の俺はそのまま捨てられたのだった。

苦しい。誰か助けてくれ。と意識を取り戻すたびに願った思いは口に出すことも出来なかったが、いつしかその苦しみが急になくなった。

苦しかった呼吸が正常に吸え、全身痛くてたまらなかった体が安らぎを取り戻した。
激しく体力を奪われていたのか、俺は久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。

そして目が覚めたとき、まるで底辺の人間が住むような、いや下手な大工以下の素人が作ったかのような”家”に驚いた。


(なんだここは…!)


視界に入った天井の様子に驚き、思わず勢いよく上半身を起こす。
まるで自然の一部のような空間に再び驚いた。

テーブルは太い幹の木を、椅子は細めの幹の木を。
今自分が寝ている布団は今まで使用していた布団とは全く違う。まるで馬小屋にあるような藁にただ布をかぶせただけのようなソレ。
最低限の家具しかない空間に思考が止まった。

そんなとき、この空間に似つかわしくない、キラキラと虹色に輝く大きな魔石が目に入った。


「あれは……」

「あれ!起きたんだね!」

「ッ!!!?」


突然の声に振り返ると、恐らく十二~十五くらいの少女が立っており俺に対して笑みを向けていた。
無垢そうな、純粋な笑顔。
まるでなにもないとアピールしているようなその表情に、俺は恐ろしくなる。
何故ならそんな女をたくさん見てきたからだ。

一番の筆頭は兄上の婚約者に収まったあの女狐だ。
ニコニコと笑みを浮かべてはいるが、他の婚約者候補を蹴落とすためにどんなことでもしてきたという。
噂だけではなく、実際に他の者に指示を出していた現場を見たことがあるからこそ、俺は噂は真実なのだと知っているのだ。
出来るなら兄上が婚姻を上げる前に、どうにかしたい婚約関係。
あんな女が国の王妃になることも、兄上の妻になることも嫌だった。

近づく女に対し、俺は後退する。
ギリッと歯を食いしばり、目を鋭くさせると女は察してか立ち止まった。


「体は平気?どこも痛くない?」

「………」

「そうだ!お腹減ってるよね?これ食べて。
お魚はちょっと黒いけど、食べれるから」


ささっと手に持っていた籠をテーブルの上に置く女は素早く家から出ていった。
そして女の肩に止まっていた小さな鳥が、俺に対して一声鳴く。


「ピー!!」/『デシが命がけで助けてやったっていうのになんだその態度!』


鳥の鳴き声に気付いた女が戻り、鳥を鷲掴む。
鷲掴まれた鳥は、くぐもった声で鳴いていた。


「ピー!そんなこと言わないの!
…気を悪くしたらごめんね、食べたらまた休んでね」


削った木の皮をかけた、簡単な入り口から出ていく女と小さな鳥。


「気を悪く…?あいつは鳥と会話をしているとでもいうのか?」


疑問を口にしてもそこには答えてくれる人は誰もいない。
先程と変わったところと言えば、女が置いていった”よく焼けている”魚と、果物が置いてあるだけだった。



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