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冒険者編①
17 視点変更_嫌な夢②-2 ※残酷な表現有
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◇
ある日女性は聞いてしまった。
「殿下、あの女と本当に婚姻を結ぶのですか?」
森を管理するために設置された管理小屋に泊まった日だった。
家事の一つもやったことのない男たちの代わりに、女性が一人で洗濯を外で行っていた日のこと。
ふと壁の隙間から声が聞こえてきた。
盗み耳を立てるつもりはなかった。
しかし“婚姻”という言葉に足が止まってしまったのだ。
「……王命として下されてしまっていることは私でさえ撤回させることは出来ない」
ため息とともに告げられた言葉からは嫌悪感が強く込められていた。
「……どうすれば回避できるのだ…」
頭を抱える男の声に、女性は静かにその場を離れた。
今まで一度も女性は男に対して関係を迫ったこともなければ、恋情を抱いているわけでもない。
寧ろ今こうして女性との婚姻関係を取り消そうと頭を抱えている男だけではなく、他の三人の男含めて離れ、そして一人でもいいから平和に暮らしたいとさえ思っていた。
だが、こうも嫌われている事実が女性を傷つける。
血を吐くほどにまで身体を酷使して、関係のないこの国の人たちを救うために頑張ってきていた。
例え見せつけられる魔物との戦闘シーンに尻込みし、浄化作業に手間取っていたとしても、男たちの日常生活を支えている女性は決して足手まといではない筈なのに。
女性に対して好意までといかなくても、感謝されてもいいはずだとそう思っていただけに、心の底から嫌われている事実が悲しかった。
そしてこの日から、男の態度が急変する。
今まではどんなに冷たい目を向けられていても、背中を撫でてくれていた男性はこの日から女性を視界に入れなくなった。
それどころか、周りの男たちは女性に対して暴力を振るうようになった。
女性は思った。
(婚姻を避けるために、あたしに拒絶の言葉を期待しているの?)
聖女の立場がどれほどのものなのか女性は知らない。
だが、次第に強くなる暴力の度合いに、女性は涙を流すしかなかった。
「……あれ…?」
ふと濡れた地面を見て女性が気付いた。
いつの間に涙を流していたのだろうか、と。
頬を伝う涙の感覚もわからなくなっていることが、この時初めて気づいた。
_…ああ
_こんなところもういやだ。
_早く日本に帰りたい。
_お父さんやお母さん、友達に、皆に会いたい。
_この国のことなんて、考えたくもない。
そして
カラカラに乾いた女性が倒れこむ。
これは決して比喩な表現ではない。
肉がついていた頬や体からは今ではごっそりと肉がなくなり、骨が浮き出て、ぱっちりとした二重が特徴的だった目は今ではぎょろりと浮き出ていた。
女性の周りには金髪の男を除く三人の男性が、女性を囲って見下ろしていた。
「おい、しっかりしろよ。まだ終わってねーんだよ」
「そうですよ。まだ半分も浄化出来ておりません」
「こいつもしかして俺らの気ひきてぇんじゃねーか?
お前みたいな魅力のないやつに惹かれるわけねーだろうが」
まぁ最初の頃はまだ可愛かったがな!と汚い笑い声をあげる男たちに、女性はそっと瞼を閉じた。
ゴスッ
「ヴッ!」
「だから寝んなって。俺らもちゃんと魔物倒してんだろ?お前も浄化しろよ。
自分の仕事こなさねーやつ見逃されるって思ってんのか?」
女性の腹に足をあてる男性に、他の男は制止するよう呼びかけた。
「おーい、やりすぎんなよ」
「本当に、誰が運ぶと思ってるんですか」
だが、女性の体を気遣う様子は見られない。
ゴスゴスと、女性の腹や胸に革靴のつま先が食い込んだ。
突き抜ける痛みと反動に、女性の息が止まる。
(なんであたしが………)
女性はそう思った。
そして同時にこうも思った。
(も…死にたい……)
だらりと地面に落ちた皮と骨だけになった自身の腕が、女性の視界に入る。
女性は数か月前は普通の体型をした女子高生だった。
日頃からダイエットしなきゃと口に出すが、決して太りすぎでも痩せすぎでもなかった。
そう、こんな骸骨のような体はしていなかったはずだった。
それが何故こうなってしまったのか。
女性には心当たりが一つだけあった。
浄化。
発生原因は不明とされているが、聖女しか払うことが出来ないとされる瘴気は浄化によって払うことが出来る。
そして聖女は異世界から招かれた女性とされ、その女性だけが浄化の力を有していた。
例にもれず女性もこの浄化の力を持っていたのだ。
だが、浄化をすると、女性の脈拍が激しくなった。
そして、ひどい倦怠感に襲われた。
その後は食欲がなくなった。
食べると吐いてしまうし、最初は気遣ってくれたこの男たちも徐々に面倒くさそうに、汚いものを見るような目つきになった。
そして血を吐くようになって、そこから体についている栄養を使い切るように無くなっていった。
決して太っているわけではない女性の標準的な体からは、どんどん肉がなくなり、そして筋肉もなくなっていった。
今では満足に歩くこともできないし、立つことも難しい。
男たちは女性に暴力的になっていった。
女性の目からは、どんどん生きる気力がなくなっていく。
_なんで、あたしが。
_おまえらのために、こんなからだにならなければいけないんだ。
_なんで。
_どうして。
_くやしい。
_くやしくて、にくくて、たまらない。
_こいつらが、にくくて、たまらない。
_ころしたい。
_こいつらを、
こ
ろ
し
て
や
り
た
い
男たちが倒れている女性を置いて先を行く。
女性の体からは黒い靄のようなものが、見えた気がした。
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ある日女性は聞いてしまった。
「殿下、あの女と本当に婚姻を結ぶのですか?」
森を管理するために設置された管理小屋に泊まった日だった。
家事の一つもやったことのない男たちの代わりに、女性が一人で洗濯を外で行っていた日のこと。
ふと壁の隙間から声が聞こえてきた。
盗み耳を立てるつもりはなかった。
しかし“婚姻”という言葉に足が止まってしまったのだ。
「……王命として下されてしまっていることは私でさえ撤回させることは出来ない」
ため息とともに告げられた言葉からは嫌悪感が強く込められていた。
「……どうすれば回避できるのだ…」
頭を抱える男の声に、女性は静かにその場を離れた。
今まで一度も女性は男に対して関係を迫ったこともなければ、恋情を抱いているわけでもない。
寧ろ今こうして女性との婚姻関係を取り消そうと頭を抱えている男だけではなく、他の三人の男含めて離れ、そして一人でもいいから平和に暮らしたいとさえ思っていた。
だが、こうも嫌われている事実が女性を傷つける。
血を吐くほどにまで身体を酷使して、関係のないこの国の人たちを救うために頑張ってきていた。
例え見せつけられる魔物との戦闘シーンに尻込みし、浄化作業に手間取っていたとしても、男たちの日常生活を支えている女性は決して足手まといではない筈なのに。
女性に対して好意までといかなくても、感謝されてもいいはずだとそう思っていただけに、心の底から嫌われている事実が悲しかった。
そしてこの日から、男の態度が急変する。
今まではどんなに冷たい目を向けられていても、背中を撫でてくれていた男性はこの日から女性を視界に入れなくなった。
それどころか、周りの男たちは女性に対して暴力を振るうようになった。
女性は思った。
(婚姻を避けるために、あたしに拒絶の言葉を期待しているの?)
聖女の立場がどれほどのものなのか女性は知らない。
だが、次第に強くなる暴力の度合いに、女性は涙を流すしかなかった。
「……あれ…?」
ふと濡れた地面を見て女性が気付いた。
いつの間に涙を流していたのだろうか、と。
頬を伝う涙の感覚もわからなくなっていることが、この時初めて気づいた。
_…ああ
_こんなところもういやだ。
_早く日本に帰りたい。
_お父さんやお母さん、友達に、皆に会いたい。
_この国のことなんて、考えたくもない。
そして
カラカラに乾いた女性が倒れこむ。
これは決して比喩な表現ではない。
肉がついていた頬や体からは今ではごっそりと肉がなくなり、骨が浮き出て、ぱっちりとした二重が特徴的だった目は今ではぎょろりと浮き出ていた。
女性の周りには金髪の男を除く三人の男性が、女性を囲って見下ろしていた。
「おい、しっかりしろよ。まだ終わってねーんだよ」
「そうですよ。まだ半分も浄化出来ておりません」
「こいつもしかして俺らの気ひきてぇんじゃねーか?
お前みたいな魅力のないやつに惹かれるわけねーだろうが」
まぁ最初の頃はまだ可愛かったがな!と汚い笑い声をあげる男たちに、女性はそっと瞼を閉じた。
ゴスッ
「ヴッ!」
「だから寝んなって。俺らもちゃんと魔物倒してんだろ?お前も浄化しろよ。
自分の仕事こなさねーやつ見逃されるって思ってんのか?」
女性の腹に足をあてる男性に、他の男は制止するよう呼びかけた。
「おーい、やりすぎんなよ」
「本当に、誰が運ぶと思ってるんですか」
だが、女性の体を気遣う様子は見られない。
ゴスゴスと、女性の腹や胸に革靴のつま先が食い込んだ。
突き抜ける痛みと反動に、女性の息が止まる。
(なんであたしが………)
女性はそう思った。
そして同時にこうも思った。
(も…死にたい……)
だらりと地面に落ちた皮と骨だけになった自身の腕が、女性の視界に入る。
女性は数か月前は普通の体型をした女子高生だった。
日頃からダイエットしなきゃと口に出すが、決して太りすぎでも痩せすぎでもなかった。
そう、こんな骸骨のような体はしていなかったはずだった。
それが何故こうなってしまったのか。
女性には心当たりが一つだけあった。
浄化。
発生原因は不明とされているが、聖女しか払うことが出来ないとされる瘴気は浄化によって払うことが出来る。
そして聖女は異世界から招かれた女性とされ、その女性だけが浄化の力を有していた。
例にもれず女性もこの浄化の力を持っていたのだ。
だが、浄化をすると、女性の脈拍が激しくなった。
そして、ひどい倦怠感に襲われた。
その後は食欲がなくなった。
食べると吐いてしまうし、最初は気遣ってくれたこの男たちも徐々に面倒くさそうに、汚いものを見るような目つきになった。
そして血を吐くようになって、そこから体についている栄養を使い切るように無くなっていった。
決して太っているわけではない女性の標準的な体からは、どんどん肉がなくなり、そして筋肉もなくなっていった。
今では満足に歩くこともできないし、立つことも難しい。
男たちは女性に暴力的になっていった。
女性の目からは、どんどん生きる気力がなくなっていく。
_なんで、あたしが。
_おまえらのために、こんなからだにならなければいけないんだ。
_なんで。
_どうして。
_くやしい。
_くやしくて、にくくて、たまらない。
_こいつらが、にくくて、たまらない。
_ころしたい。
_こいつらを、
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男たちが倒れている女性を置いて先を行く。
女性の体からは黒い靄のようなものが、見えた気がした。
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