5 / 19
5
次の問題を抱えている村に行く途中、『奥様~~!』と大きな甲高く、そして少し泣きが入っているのか鼻声で叫ぶ声が私の脳内に響いた。
精霊石で意思疎通を取れるとはいえ、ところかまわずくる通信先の声が洩れてしまえば怪しむ者も出てくるだろう。
その為私は私の許可があるまでは脳内に直接に声を届けさせることにしていたのだ。
ぐらりと体を傾けた私に気付いたサシャは手を伸ばし、私を支えようとしたが、馬車の中ということもあり咄嗟に手をついて体を支えサシャの行動を止める。
「奥様、体調が悪くなりましたら無理をなさらずおっしゃってください」
「大丈夫よ。体調が悪いんではなく、……通信が入っただけだから」
声を落として告げるとサシャは固まった。
「……サシャ、どうしたの?」
「あのドジっ子!奥様に迷惑かけて!!」
サシャには一切の声が聞こえていないはずなのに、私が体を傾けさせたところから状況を察したのだろう、すぐにララに怒りを向けた。
けれどメイド達の関係は悪くない事を知っている私は、それが相手を思っているからこその怒りであることをわかっているつもりである。
だからサシャの怒りには言及せずに、首にかけているペンダントを取り出した。
「………えっと、とりあえず通信するわね」
「お願いします、奥様」
ギラギラと燃えているサシャの熱い眼差しを見て見ぬふりをして私はララとの通信を開始する。
そして半透明のララの姿が映し出された。
思った通り困った表情を浮かべている。
今のララを絵で表すとするならば、周りに大量の汗が飛んでいるだろう。
『奥さ_』
「ララ!アンタね!もう少し声のボリュームを抑えなさいよ!
奥様が倒れるところだったじゃない!!」
『ええ!?お、奥様大丈夫ですか!?』
「あ、ええ。大丈夫よ。
それよりなにかあったの?」
サシャがララに被せながら指摘するとララはすぐに謝罪した。
実は最初の頃もララからの通信の時、大音量で呼ばれた為に指摘したが繰り返された為に私は諦めたのだ。
諦めたのならばさっさと用件を知りたいと、私はララに話を促す。
『奥様!あの女が来たんです!』
“あの女”という言葉にすぐにピンと来たが、すぐに答えたのは一緒にいるサシャだった。
「あの女……、旦那様の恋人の女性の事ね」
『そうですううう!』
「でもララ。あなたは旦那様の下で働いているのだから、その恋人が嫌いでも誤魔化すか様付けくらいはしておきなさい。いいわね?」
『あ、忘れてた!』
舌を少し出して「てへぺろ」ポーズをとっているララに私はくすりと笑うと、サシャがおずおずとした様子で頭を下げる。
「………すみません。口を挟んでしまって」
「ううん。大丈夫よ。
…ララ。サシャの指摘はもっともだわ。
どこに耳があるのかわからないのだから、危ない発言はしないように。ね?」
『はい!わかりました!』
ディオダ侯爵の大半の使用人やメイドは私の味方だが、中には旦那様側の人もいる。
女より男の味方になっておけば安心というよくわからない思考回路を持っているため、明らかに浮気で領地運営も放り投げているクソ野郎…いえ、旦那様に味方している使用人や騎士も少数だがいるのも事実。
その者たちは今回の視察にはついてきていないからいいけれど、侯爵家にいたときは私の行動を旦那様に報告していた。
……でもこれってプライベートに関わっているのではないのかしら?
…まぁ、実際に旦那様から口を出されていないから精霊たちも困っているのよね。
たまに私に罰を与えていいのか尋ねてくるもの。まぁそのたびに罰を与えていたら流石に酷だと思い、大丈夫だからと伝えているのは私だけど。
だけど、どこで誰が見て聞いているのかわからない以上、下手に相手の尺に触るような行動をして、災いを招くようなことが起きてほしくないのだ。
「それで?旦那様の恋人さんがいらっしゃったのよね?
話を聞かせてもらえるかしら?」
私が尋ねると、ララは語った。
話を聞いていくにつれ頭痛がした。
まず第一にサシャが言った通り、ララが旦那様の恋人の世話係に抜擢された。
正妻の侍女を恋人につけるということが正妻の立場を愚弄していることなのだが、あの男はなにも知らないのだろう。
ララに「旦那様に変化はあった?」と尋ねると、「特に?変わりはないかと?」と返された。
つまりは恋人さんが旦那様の許可なくララを指名したのだろう。
流石に旦那様の口からララを付けるようにと促したのなら、精霊からの罰が与えられるのだから。
(でも流石に旦那様が気付いた時なにかしら対応しないとタダじゃすまないわよね…?)
まぁ、それは契約した旦那様がきちんとするだろう。
あんなにもスムーズに精霊の契約をしたのだから、軽く考えてはいないはずだ。
もし軽く考えて精霊書にサインをしたのならば、本物のバカである。
今すぐ投資家としても下りたほうがいい。
次に旦那様と恋人の私生活を話された。
聞いていても(うわ)と声が洩れ出そうなくらいのダラシナサだったが、実は通信した原因がこれだった。
まず今回ララが私に通信をしたのは恋人に虐められたからが理由ではない。
いや、暴言を吐かれたり手を上げられたりはされたといっていたから虐めは受けていた。
この件に関しては絶対に償わせるべき事柄ではあるが、ララとサシャ曰く以前からも恋人はこのような調子だったということで、今回もララは私にまだ通信を送るつもりはなかったらしい。
だけど通信を送ってきたのは執事に懇願された為といっていた。
『執事様が奥様に連絡をしてほしいっていったんです!』
といったララに私は「執事はどのような用件を伝えたかったのかしら?」と尋ねると
『恋人様が頻繁に旦那様と町に出歩いたり、人を呼んだりしているからです!』
と答えたララの後ろから執事が顔を出した。
最初からずっといたのか、それとも途中からかわからないが、ララの後ろで執事が聞いていたのだろう。
執事のいいたいことがララでは伝えられず、きっとやきもきしていたに違いない。
『私が変わっても?』
そうララに尋ねる執事に通信相手が変わり、映像はララではなく今度は執事が映し出される。
まだ数日しか経っていないのにもかかわらず、何故かどっとやつれてしまったように思える執事に私は首を傾げた。
ちなみに映像が見えるのは私側だけである。
だからこそ、私はサシャと一緒に顔を見合わせながら、執事の変わりようを不思議に思った。
だけど、執事がこれからいう言葉のほうが頭を悩ませることになるのはいうまでもないだろう。
『奥様……、侯爵家の資金が底を見え始めています』
「「……………は?」」
馬車の中で私とサシャの声が見事にシンクロした。
あなたにおすすめの小説
愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私のもとに王太子殿下が迎えに来ました 〜三年間冷遇された妻、今は毎日名前を呼ばれています〜
まさき
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
夫に名前を呼ばれたことは、一度もなかった。
社交の場ではただ隣に立つだけ。
屋敷では「妻」としてすら扱われない。
それでも、いつかは振り向いてもらえると信じていた。
――けれど、その期待はあっさりと壊れる。
夫が愛人を伴って帰宅した、その翌朝。
私は離縁状を残し、静かに屋敷を出た。
引き止める者は、誰もいない。
これで、すべて終わったはずだった――
けれどその日、私のもとに現れたのは王太子殿下。
「やっと手放してくれたか。三年も待たされました」
幼い頃から、ただ一人。
私の名前を呼び続けてくれた人。
「――アリシア」
その一言で、凍りついていた心がほどけていく。
一方、私を軽んじ続けた元夫は、
“失ってはいけないもの”を手放したことに、まだ気づいていない。
これは、三年間名前を呼ばれなかった私――アリシアが、
本当の居場所と愛を取り戻す物語。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
五度目の人生でも「君を愛することはない」と言われたので、私も愛を捨てました
たると
恋愛
「ルチア、私は君を愛することはない。この婚約は単なる義務だ」
冷徹な公爵、アルベルトの声が夜会会場の片隅で響く。
これで、五度目だ。
私は深く、そして軽やかに一礼した。
「承知いたしました。では、今後はそのように」
これまでは泣いて縋り、彼を振り向かせようと必死に尽くしてきた。
だが、死に戻りを五回も繰り返せば、流石に飽きる。
私は彼を愛することを、きっぱりと辞めた。
幼馴染に夢中の夫を捨てた貴婦人は、王太子に熱愛される
Narian
恋愛
アイリスの夫ロイは、新婚の頃から金髪の愛らしい幼馴染・フローラに夢中で、妻には見向きもしなかった。
夫からは蔑ろにされ、夫の両親からは罵られ、フローラからは見下される日々。そしてアイリスは、ついに決意する。
「それほど幼馴染が大切なら、どうぞご自由に。私は出て行って差し上げます」
これは、虐げられた主人公が、過去を断ち切り幸せを掴む物語。
※19話完結。
毎日夜9時ごろに投稿予定です。朝に投稿することも。お気に入り登録していただけたら嬉しいです♪
本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?
神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。
カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。
(※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚した。これは金が欲しい父の思惑と、高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない。
そもそもヴィンセントには恋人がいて、その恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ。
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら屋に住むように言われて……
表紙はかなさんのファンアートです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。